4 / 66
3
しおりを挟む
「おい、おい! しっかりしろっ!」
「あ、ヨウルプッキちゃん、あんまりゆすったら……!」
暗闇の側で、二人の声がする。気持ち良く寝ているのに邪魔しないで欲しい。
ぐらぐらぐらぐら
なんだろう、体と頭が揺らされて、荒波に浮かぶ小舟に乗っているみたいだ。気持ち悪さがみぞおちから上がって来る。
「だって、突然倒れたし! 泣いているみたいだったし! こんな可愛い女の子をほっとけないよ!」
「いや、だからさ、あ、あ……!」
「もう、トナカイさんはだまって……」
「きもぢわる、ぃ……、うっぷ……」
「うわああああっ!」
「あーぁ、いわんこっちゃない……」
※※ピ──…………。番組の途中ですが、しばらくの間美しい風景と音楽をお楽しみくださいませ※※
「ん……」
目を開けると、真っ白だった。
「どこ、ここ……、あ、頭いったぁ……」
顔にまで被されていたシーツをはぎ取り体を起こす。どうやらベッドのようで、ガンガンと痛む頭を押さえながら片目を開いてそろっと周囲を見渡す。
「わたくし、えっと、昨日は……」
自室ではない。見知った王宮のアールトネン伯爵家に与えられた休憩室でもない。小さいけれど、綺麗に片付けられた部屋には暖炉があって、寒くないように温熱の魔法石が発動して部屋を温めている。
「そうだ、わたくし、ワインを一杯飲んだ後、テラスにいて。……そこから何があったの?」
「……起きたかい?」
頭痛がおさまらず、こめかみに指を当てていると、右隣から聞いた事のない声がした。
「え?」
「僕の事を覚えている?」
「……」
じーっと部屋の一部であるかのように、景色のように彼を見た。絹のようにふんわりした金の髪が鎖骨くらいまで伸びていて、前髪は眉毛よりも少し下まで緩いカーブを描いて隠している。すっと通った鼻筋に、大きい肉厚の下唇。ごつごつした顔は強面というより、男らしい。
「どちらさまでしょうか?」
初対面の男性が、なぜ、わたくしと隣同士でベッドにいるのだろうか?
コテンと首を傾けて素直にそう言うと、彼が目を見開いたあとため息をついた。
「僕に、あんなことをしておいて、忘れたって言うの?」
僕という一人称は、彼の顔にはあまり似つかわしくない気もするけれど、悪戯っ子みたいな瞳でわたくしを見つめてくるので似合っている。
その瞳は、青宝魔石と緑宝魔石のように、水中をゆらゆらときらめく光を湛えていて吸い込まれそう。
「青宝魔石と緑宝魔石……。ん~?」
どこかで見た気もしなくもない。だけど、こんな珍しい色の人など、一度見れば忘れられないはずだ。
「……あの、どこかでお会いした気もしますけれど、詳細が思い出せず……、申し訳ございません……。わたくし、シンディと申します」
「シンディ……。可愛い名前だね。僕はヨウルプッキ。ああ、昨日が初対面だよ」
「ヨウルプッキ様と仰るのですね。ひょっとして助けてくださったとか?」
「確かに、寒いテラスで倒れる君を助けたけど。でも、忘れたんだ? 僕にあんなことをしたのに?」
「あんなこと……?」
「そして、そんなことも」
「ソンナコト……」
「僕、初めてだったのに……」
一体、わたくしは何をしたのでしょうか? 頭痛も忘れてさあっと血の気が引いた。
「あ、あの! わ、わたくし、本当に何もお、おお、覚えていませんの! その、どんな失礼をしたのかはわかりませんが、アールトネン伯爵家の名誉をかけて誠心誠意お詫びを……!」
慌てて彼にそう言うと、彼がベッドに寝っ転がったまま、びっくりしたように口を開いた。
「アールトネン?」
「はい」
「伯爵家? ご令嬢?」
「はい。昨日、成人と共にわたくしが伯爵家を継ぎました」
ヨウルプッキと名乗った青年は、がばっとシーツを剥ぐと、ベッドから床に飛び降りた。ごちんと、何か硬いものが床に当たる音がして、彼が痛そうに顔をしかめて息を詰める。
「~~~~~~っ!」
「あの、ヨウルプッキ様、大丈夫でしょうか?」
わたくしは、おそらく膝を強打したのだろう彼に声をかけて手をのばした。
「え……?」
なぜ、視界にうつる、わたくしの腕は肌しか見えないのでしょうか?
「え……」
彼の存在を忘れて、指先から肘、そして肩から胸元を見下ろす。上半身を起こしているため、シーツがおへそのあたりまでずり落ちていた。
「ひゃ……、や、や……、いやあああああああ!」
腕どころか、何も身に纏っていない事を頭が理解した瞬間、わたくしの悲鳴が部屋中に響いたのであった。
「あ、ヨウルプッキちゃん、あんまりゆすったら……!」
暗闇の側で、二人の声がする。気持ち良く寝ているのに邪魔しないで欲しい。
ぐらぐらぐらぐら
なんだろう、体と頭が揺らされて、荒波に浮かぶ小舟に乗っているみたいだ。気持ち悪さがみぞおちから上がって来る。
「だって、突然倒れたし! 泣いているみたいだったし! こんな可愛い女の子をほっとけないよ!」
「いや、だからさ、あ、あ……!」
「もう、トナカイさんはだまって……」
「きもぢわる、ぃ……、うっぷ……」
「うわああああっ!」
「あーぁ、いわんこっちゃない……」
※※ピ──…………。番組の途中ですが、しばらくの間美しい風景と音楽をお楽しみくださいませ※※
「ん……」
目を開けると、真っ白だった。
「どこ、ここ……、あ、頭いったぁ……」
顔にまで被されていたシーツをはぎ取り体を起こす。どうやらベッドのようで、ガンガンと痛む頭を押さえながら片目を開いてそろっと周囲を見渡す。
「わたくし、えっと、昨日は……」
自室ではない。見知った王宮のアールトネン伯爵家に与えられた休憩室でもない。小さいけれど、綺麗に片付けられた部屋には暖炉があって、寒くないように温熱の魔法石が発動して部屋を温めている。
「そうだ、わたくし、ワインを一杯飲んだ後、テラスにいて。……そこから何があったの?」
「……起きたかい?」
頭痛がおさまらず、こめかみに指を当てていると、右隣から聞いた事のない声がした。
「え?」
「僕の事を覚えている?」
「……」
じーっと部屋の一部であるかのように、景色のように彼を見た。絹のようにふんわりした金の髪が鎖骨くらいまで伸びていて、前髪は眉毛よりも少し下まで緩いカーブを描いて隠している。すっと通った鼻筋に、大きい肉厚の下唇。ごつごつした顔は強面というより、男らしい。
「どちらさまでしょうか?」
初対面の男性が、なぜ、わたくしと隣同士でベッドにいるのだろうか?
コテンと首を傾けて素直にそう言うと、彼が目を見開いたあとため息をついた。
「僕に、あんなことをしておいて、忘れたって言うの?」
僕という一人称は、彼の顔にはあまり似つかわしくない気もするけれど、悪戯っ子みたいな瞳でわたくしを見つめてくるので似合っている。
その瞳は、青宝魔石と緑宝魔石のように、水中をゆらゆらときらめく光を湛えていて吸い込まれそう。
「青宝魔石と緑宝魔石……。ん~?」
どこかで見た気もしなくもない。だけど、こんな珍しい色の人など、一度見れば忘れられないはずだ。
「……あの、どこかでお会いした気もしますけれど、詳細が思い出せず……、申し訳ございません……。わたくし、シンディと申します」
「シンディ……。可愛い名前だね。僕はヨウルプッキ。ああ、昨日が初対面だよ」
「ヨウルプッキ様と仰るのですね。ひょっとして助けてくださったとか?」
「確かに、寒いテラスで倒れる君を助けたけど。でも、忘れたんだ? 僕にあんなことをしたのに?」
「あんなこと……?」
「そして、そんなことも」
「ソンナコト……」
「僕、初めてだったのに……」
一体、わたくしは何をしたのでしょうか? 頭痛も忘れてさあっと血の気が引いた。
「あ、あの! わ、わたくし、本当に何もお、おお、覚えていませんの! その、どんな失礼をしたのかはわかりませんが、アールトネン伯爵家の名誉をかけて誠心誠意お詫びを……!」
慌てて彼にそう言うと、彼がベッドに寝っ転がったまま、びっくりしたように口を開いた。
「アールトネン?」
「はい」
「伯爵家? ご令嬢?」
「はい。昨日、成人と共にわたくしが伯爵家を継ぎました」
ヨウルプッキと名乗った青年は、がばっとシーツを剥ぐと、ベッドから床に飛び降りた。ごちんと、何か硬いものが床に当たる音がして、彼が痛そうに顔をしかめて息を詰める。
「~~~~~~っ!」
「あの、ヨウルプッキ様、大丈夫でしょうか?」
わたくしは、おそらく膝を強打したのだろう彼に声をかけて手をのばした。
「え……?」
なぜ、視界にうつる、わたくしの腕は肌しか見えないのでしょうか?
「え……」
彼の存在を忘れて、指先から肘、そして肩から胸元を見下ろす。上半身を起こしているため、シーツがおへそのあたりまでずり落ちていた。
「ひゃ……、や、や……、いやあああああああ!」
腕どころか、何も身に纏っていない事を頭が理解した瞬間、わたくしの悲鳴が部屋中に響いたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる