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14 沈黙のグラス
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夜中のため薄暗い照明の中、二人の親子が応接室で向かい合い項垂れていた。
「…………」
「…………」
長い沈黙が部屋を支配し、時折聞こえる長い溜息と、咽が小さく鳴る音がする。壮年期の男性の指先がグラスを弾き短く甲高い音を鳴らした。
テッポが婚約破棄を女伯爵となったシンディに対して突き付けたと聞いた時に、侯爵の心臓が嫌なリズムを刻んだ。信じられずに情報を得るとどうやら本当らしい。
めでたい成人と爵位継承でもあるクリスマスの日に、よりにもよって彼女の妹とやんごとなき関係になり、あまつさえ結婚したいから、早々に伯爵家を出て行けと叫んだらしい。
『なんだと? 本当なのか? 間違いだったでは許さんぞ?』
夜会にいるというテッポを探しながら部下に問いただした時、目の前で微笑み合いながら幸せそうにダンスを踊る息子を見つけて眩暈がした。
『旦那様、わ、私も信じられない思いでいっぱいなのですが……。その』
『もう一度、テッポが言ったという言葉を聞かせてみろ』
『シンディ伯爵令嬢! 貴様は姿形だけでなく、その心まで闇よりも暗く醜い。たかが、父親である伯爵の前妻の娘である令嬢が、よくも愛するシーリガールを虐げたな……。彼女が来てから幾度となく涙を流し、貴様の人とは思えない所業を聞いた。別邸に移り住み、伯爵や伯爵夫人、そしてシーリガールや使用人に対して鞭を振るい、時には腕を切りつけ放り出したというではないか……! 人として恥を知れっ!』
と、シーリガール様の肩を抱きしめてあたりに響き渡るように大声で募ったという。
『……テッポ様、わたくしはアールトネンの名にかけてそのような事は一切しておりません。妹のシーリガールを愛する者と仰ったのはどういった事なのでしょうか』
対する新女伯爵は背筋を伸ばして毅然とした態度で応答したらしい。だが、周囲の人々は面白おかしく話題に出来る方を選んだようだ。あっというまにアールトネンを継いだばかりの女伯爵は孤立し、今はこうして、テッポとシーリガールが悲劇の恋人同士として周囲に様々な感情を乗せた視線にさらされて踊っているのであった。
『あいつは、自分が何をしたのかわかっていないのか……?』
『そ、それが。坊ちゃんは本気で言っていたようで、その。ひぃっ』
部下に言ったわけではない。だが、私の体の奥底から湧き出るこれからの恐怖と不安、それに比例して大きくなるテッポへの怒りを感じたのか部下が小さく悲鳴をあげる。
私は、ここまで周囲に広まった醜聞と、テッポ達だけでなく自分までも憐れみとさげずみの視線に晒されている事を察知してもう一人の息子とともに王宮を去った。
テッポはダンスが終わり次第家に連れ帰り自室に閉じ込めておくよう部下に伝えて。
ダンスが終わり、シーリガールと聖夜を過ごしたかったらしい愚息はまたもや大声で部下に反論したらしい。
『お前たち、何をする! 私はこれから伯爵家に行って伯爵に正式に正当なる後継者である彼女との結婚を認めていただくつもりだ。父たちには明日説明しよう。あの女がどれほど非道な手段で今の次期女伯爵の地位にしがみついていたのか、を!』
そう叫びながら暴れるテッポを会場を引きずってきたらしい。残されたシーリガールは家の者がなんとかしただろう。
ここはエローヤーネン侯爵家の一室。テッポとアールトネン家の婚約締結からようやく火の車だった家計が落ち着きだし、あとは二人の結婚を待つばかりの状態であった。持参金も準備できないが、先代の女伯爵が、持参金も不要だと寛大に微笑みながらたった一つ婚約に対して盛り込んだ一項目が彼らの心と未来を暗くしていた。
項垂れて終わった侯爵家の末路にグラスを手にチビリチビリ口に含んでいた。何もいい案が浮かばずこのまま酔って現実逃避したくなるが、酔いすら自分たちには襲ってこない。
突然、その部屋に突風が出現する。誰かが許可もなく魔法で転移してきたらしい。敵意を持った人物はここには入れない。誰だと誰何すると、そこに白髪の女性が現れた。
「おや、老けたわねえ。しんみりして。我が息子ながら情けない。お前は孫のカーポだね。立派な青年とつけたいがどうやら図体だけが大きくなったようだ」
「母上!」
「おばあ様……?」
彼女は、かつて侯爵家を栄させ続けていたという先代侯爵の元妻であり、先代が愛人のために追い出した彼らの母であり祖母だ。
「…………」
「…………」
長い沈黙が部屋を支配し、時折聞こえる長い溜息と、咽が小さく鳴る音がする。壮年期の男性の指先がグラスを弾き短く甲高い音を鳴らした。
テッポが婚約破棄を女伯爵となったシンディに対して突き付けたと聞いた時に、侯爵の心臓が嫌なリズムを刻んだ。信じられずに情報を得るとどうやら本当らしい。
めでたい成人と爵位継承でもあるクリスマスの日に、よりにもよって彼女の妹とやんごとなき関係になり、あまつさえ結婚したいから、早々に伯爵家を出て行けと叫んだらしい。
『なんだと? 本当なのか? 間違いだったでは許さんぞ?』
夜会にいるというテッポを探しながら部下に問いただした時、目の前で微笑み合いながら幸せそうにダンスを踊る息子を見つけて眩暈がした。
『旦那様、わ、私も信じられない思いでいっぱいなのですが……。その』
『もう一度、テッポが言ったという言葉を聞かせてみろ』
『シンディ伯爵令嬢! 貴様は姿形だけでなく、その心まで闇よりも暗く醜い。たかが、父親である伯爵の前妻の娘である令嬢が、よくも愛するシーリガールを虐げたな……。彼女が来てから幾度となく涙を流し、貴様の人とは思えない所業を聞いた。別邸に移り住み、伯爵や伯爵夫人、そしてシーリガールや使用人に対して鞭を振るい、時には腕を切りつけ放り出したというではないか……! 人として恥を知れっ!』
と、シーリガール様の肩を抱きしめてあたりに響き渡るように大声で募ったという。
『……テッポ様、わたくしはアールトネンの名にかけてそのような事は一切しておりません。妹のシーリガールを愛する者と仰ったのはどういった事なのでしょうか』
対する新女伯爵は背筋を伸ばして毅然とした態度で応答したらしい。だが、周囲の人々は面白おかしく話題に出来る方を選んだようだ。あっというまにアールトネンを継いだばかりの女伯爵は孤立し、今はこうして、テッポとシーリガールが悲劇の恋人同士として周囲に様々な感情を乗せた視線にさらされて踊っているのであった。
『あいつは、自分が何をしたのかわかっていないのか……?』
『そ、それが。坊ちゃんは本気で言っていたようで、その。ひぃっ』
部下に言ったわけではない。だが、私の体の奥底から湧き出るこれからの恐怖と不安、それに比例して大きくなるテッポへの怒りを感じたのか部下が小さく悲鳴をあげる。
私は、ここまで周囲に広まった醜聞と、テッポ達だけでなく自分までも憐れみとさげずみの視線に晒されている事を察知してもう一人の息子とともに王宮を去った。
テッポはダンスが終わり次第家に連れ帰り自室に閉じ込めておくよう部下に伝えて。
ダンスが終わり、シーリガールと聖夜を過ごしたかったらしい愚息はまたもや大声で部下に反論したらしい。
『お前たち、何をする! 私はこれから伯爵家に行って伯爵に正式に正当なる後継者である彼女との結婚を認めていただくつもりだ。父たちには明日説明しよう。あの女がどれほど非道な手段で今の次期女伯爵の地位にしがみついていたのか、を!』
そう叫びながら暴れるテッポを会場を引きずってきたらしい。残されたシーリガールは家の者がなんとかしただろう。
ここはエローヤーネン侯爵家の一室。テッポとアールトネン家の婚約締結からようやく火の車だった家計が落ち着きだし、あとは二人の結婚を待つばかりの状態であった。持参金も準備できないが、先代の女伯爵が、持参金も不要だと寛大に微笑みながらたった一つ婚約に対して盛り込んだ一項目が彼らの心と未来を暗くしていた。
項垂れて終わった侯爵家の末路にグラスを手にチビリチビリ口に含んでいた。何もいい案が浮かばずこのまま酔って現実逃避したくなるが、酔いすら自分たちには襲ってこない。
突然、その部屋に突風が出現する。誰かが許可もなく魔法で転移してきたらしい。敵意を持った人物はここには入れない。誰だと誰何すると、そこに白髪の女性が現れた。
「おや、老けたわねえ。しんみりして。我が息子ながら情けない。お前は孫のカーポだね。立派な青年とつけたいがどうやら図体だけが大きくなったようだ」
「母上!」
「おばあ様……?」
彼女は、かつて侯爵家を栄させ続けていたという先代侯爵の元妻であり、先代が愛人のために追い出した彼らの母であり祖母だ。
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