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シンディは伯爵家の門をくぐると、逸る気持ちを押さえつけてスカートを翻し広大な庭を跳んだ。空高く、まるで重さがないように軽やかに宙を駆ける。その後を、散歩でもしているかのようにヨウルプッキがついていった。
3度ほどの跳躍のあと、巨大な正面の扉が見えるが、さらに高く垂直に小さな足で地を蹴った。
瞬き程の時間で4階部分の窓に備え付けられたテラスに音もなく降り立つ。
「ヨウルプッキ様はこちらでお待ちくださいませ」
「ここは?」
「伯爵家当主のみが開く事のできる扉のある場所です。別邸に人の気配がしない今、おそらく、夜間の内にわたくしの頼もしい味方が本邸を占拠していた人々を捕らえているに違いありません。ですが、わたくしがこの屋敷に主だと認められていない今、伯爵代理の証である印を持つ父の命令が優先され苦戦している事でしょう。ひょっとしたら失敗に終わり捕まっているかもしれません」
「屋敷に主と認めてもらう? だけど、シンディ様は国からすでに女伯爵として……」
「はい、国には、です。ですが、真に伯爵家を継ぐには屋敷に認められる必要があるのです。わたくしがここに戻るまでお待ちになってくださいませ」
「わかりました」
「もしも、この場所が攻撃されるような事態になればお逃げ下さい」
そう言うと、シンディはヨウルプッキを残して窓から室内に滑り込んだ。薄暗く、もう長い間使われていなさそうな部屋は、先代の女伯爵がいなくなってから誰も足を踏み入れていない。
※※※※
「アールトネンの家を守り支えた屋敷の守護者よ。シンディ・アールトネンがあなた様に継承の儀をすませ、承認されるためここに参ったことを報告いたします。長らくお待たせして申し訳ございません。今こそ我が前に、姿を現し給え!」
シンディが、魔力を込めながら指先を歯で噛み、部屋の中央で鮮やかな紅を落とした。すると、床に落ちた瞬間、光を放ちながら魔法陣が現れごうごうと風が出現する。
不思議とシンディの髪もスカートの裾も揺れていない。眩い光と共に、彼女の前にそれまではなかった存在が現れたのだった。
※※※※
「彼女は大丈夫だろうか……」
僕は、彼女と一緒にいたくて部屋に入りたくなった。だけど、どうやら大事な儀式を受けるために入ったらしい彼女の邪魔をするわけにはいかない。
しゅんと項垂れて待ちわびる犬のようにテラスで佇んでいた。
「ん?」
耳に小さく剣の交わる音がかすかに聞こえる。女性の怒号が聞こえ、何事かとそちらに視線を向けた。
「あれは……」
視線の先は屋根の上だ。そこに、右手でしっかりとショートソードを携えた女性が、巨漢に向かい息を荒げて飛びかかっていた。
「うーん……、どっちが彼女の味方なんだろう」
僕は、愛する人が少しだけ漏らしてくれた伯爵家の現状を思い出す。その中に、ショートソードを振りかざす女性と同じ髪の色の侍女の話があった。
魔力を持たない彼女は、愛する人をその身でかばい、右手を失ったらしい。神官を呼び寄せて欠損を回復したが、その時の痛みや心の傷は消えないから、一生償わなければならない人の一人だと、辛そうにしていた。
聞けば、愛する人が悪いわけではないのに、力がない自分が悪いと言って泣きそうになる姿を思い出して胸がきゅっと痛む。
「……動くなと言われたし、襲撃があれば逃げろ、か……」
僕は一瞬も迷わずに、ショートソードを持つ女性の近くに転移した。まさに今、体勢をくずして巨漢の男にトマホークを叩きつけられようとした彼女の前に立ち、トマホークごと男に向けて衝撃波を魔法でぶつける。すると、屋根から男が真っ逆さまに落ちていった。
「あっちゃー、強すぎちゃった。地面まで行くとダメだよねえ」
僕は、助けたくないなと思いながらも、敵とはいえ死者が出たら愛しい人が悲しむと思い、男の落下する軌道を変えるため、体の側面に衝撃波をぶち当てる。すると、男が野太い悲鳴を短く挙げてその横のテラスにどすんと落ちた。
「………………骨の何本か折れてるかもしれないけど生きてるからいいよね?」
僕は、気絶した男が白目を向いて泡を吹いているのを確認すると、言い訳するようにつぶやいた。
3度ほどの跳躍のあと、巨大な正面の扉が見えるが、さらに高く垂直に小さな足で地を蹴った。
瞬き程の時間で4階部分の窓に備え付けられたテラスに音もなく降り立つ。
「ヨウルプッキ様はこちらでお待ちくださいませ」
「ここは?」
「伯爵家当主のみが開く事のできる扉のある場所です。別邸に人の気配がしない今、おそらく、夜間の内にわたくしの頼もしい味方が本邸を占拠していた人々を捕らえているに違いありません。ですが、わたくしがこの屋敷に主だと認められていない今、伯爵代理の証である印を持つ父の命令が優先され苦戦している事でしょう。ひょっとしたら失敗に終わり捕まっているかもしれません」
「屋敷に主と認めてもらう? だけど、シンディ様は国からすでに女伯爵として……」
「はい、国には、です。ですが、真に伯爵家を継ぐには屋敷に認められる必要があるのです。わたくしがここに戻るまでお待ちになってくださいませ」
「わかりました」
「もしも、この場所が攻撃されるような事態になればお逃げ下さい」
そう言うと、シンディはヨウルプッキを残して窓から室内に滑り込んだ。薄暗く、もう長い間使われていなさそうな部屋は、先代の女伯爵がいなくなってから誰も足を踏み入れていない。
※※※※
「アールトネンの家を守り支えた屋敷の守護者よ。シンディ・アールトネンがあなた様に継承の儀をすませ、承認されるためここに参ったことを報告いたします。長らくお待たせして申し訳ございません。今こそ我が前に、姿を現し給え!」
シンディが、魔力を込めながら指先を歯で噛み、部屋の中央で鮮やかな紅を落とした。すると、床に落ちた瞬間、光を放ちながら魔法陣が現れごうごうと風が出現する。
不思議とシンディの髪もスカートの裾も揺れていない。眩い光と共に、彼女の前にそれまではなかった存在が現れたのだった。
※※※※
「彼女は大丈夫だろうか……」
僕は、彼女と一緒にいたくて部屋に入りたくなった。だけど、どうやら大事な儀式を受けるために入ったらしい彼女の邪魔をするわけにはいかない。
しゅんと項垂れて待ちわびる犬のようにテラスで佇んでいた。
「ん?」
耳に小さく剣の交わる音がかすかに聞こえる。女性の怒号が聞こえ、何事かとそちらに視線を向けた。
「あれは……」
視線の先は屋根の上だ。そこに、右手でしっかりとショートソードを携えた女性が、巨漢に向かい息を荒げて飛びかかっていた。
「うーん……、どっちが彼女の味方なんだろう」
僕は、愛する人が少しだけ漏らしてくれた伯爵家の現状を思い出す。その中に、ショートソードを振りかざす女性と同じ髪の色の侍女の話があった。
魔力を持たない彼女は、愛する人をその身でかばい、右手を失ったらしい。神官を呼び寄せて欠損を回復したが、その時の痛みや心の傷は消えないから、一生償わなければならない人の一人だと、辛そうにしていた。
聞けば、愛する人が悪いわけではないのに、力がない自分が悪いと言って泣きそうになる姿を思い出して胸がきゅっと痛む。
「……動くなと言われたし、襲撃があれば逃げろ、か……」
僕は一瞬も迷わずに、ショートソードを持つ女性の近くに転移した。まさに今、体勢をくずして巨漢の男にトマホークを叩きつけられようとした彼女の前に立ち、トマホークごと男に向けて衝撃波を魔法でぶつける。すると、屋根から男が真っ逆さまに落ちていった。
「あっちゃー、強すぎちゃった。地面まで行くとダメだよねえ」
僕は、助けたくないなと思いながらも、敵とはいえ死者が出たら愛しい人が悲しむと思い、男の落下する軌道を変えるため、体の側面に衝撃波をぶち当てる。すると、男が野太い悲鳴を短く挙げてその横のテラスにどすんと落ちた。
「………………骨の何本か折れてるかもしれないけど生きてるからいいよね?」
僕は、気絶した男が白目を向いて泡を吹いているのを確認すると、言い訳するようにつぶやいた。
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