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トールは、わたくしが、大きくなってきた商会のトップと知った様々な人物が狙い始めたのをきっかけに護衛としてわたくしとずっといるようになった。
わたくしや、重要人物にとって護衛というのは立派な職業であると認識されているが、一般庶民にとっては、何もない平時の方が多く、トールをあからさまにヒモのように侮蔑の視線で見て来る者もいた。
トラブルは彼らの前では起こらない物で、トールの実力が彼らの目に入らないのも原因の一つだろう。
トールは、国王すら守る事のできる超級の凄腕騎士だというのに、彼の足元にも及ばない弱いひょろひょろした男が、この世界ではイケメンであり、トールがそうでない事も相まって、彼の目の前でわたくしにコナを掛けて来る者もいた。勿論、わたくしたちの関係や、トールの実力を知っていたり、情報を得た者たちは彼に対してきちんとした誠意のある態度を取ってくれる。
「おお、これはいつみてもお美しい。今日は色よい返事を聞かせてくれると思いこうして来た。 その男では、夜が物足りんだろう?」
身の程知らずの、前世での外部業者の営業部長とかそのあたりの役職のイケメン(ひょろりん)が、普段は許されているだろう偉そうな態度でセクハラをかましてくる。
「トール、何か聞こえたかしら?」
「何も」
わたくしは、男を見もせずに立ち上がり、商談のための部屋の出口に向かう。すると、あからさまに無視をされたのを不快に思ったイケメン営業部長(笑)が、タコのように真っ赤になりぎゃんぎゃんわめいていく。女はこれだからだのなんだのうるさい。
男がわたくしの腕を掴み、舌なめずりをするように体に視線を這わす。とても気持ちが悪い。
「女は大人しく股を開いておればいいものを。わたしが相手をしてやると言っているのだ。光栄に、ぐおおお!」
視界の下、つまり床に男はうつ伏せの状態で寝転んでいる。トールが一瞬で男を転ばせて動きを封じて腕をひねり上げている。
「あら? トールったら、どうしたの? 床に何かがあったのかしら?」
「目障りなうるさい害虫が。お気になさらず。二度と目の前に現れないよう駆除しておきます」
「そう。退治をお願いね」
「はっ」
トールは公私混同をあまり好まない。護衛中は、まるで騎士のようで、ますます格好いいのだが背後にいるため堪能出来ないのが残念。
わたくしは、その場をあとにする。断末魔のような声が廊下まで聞こえるけれど気のせいね。執務室に戻ると、この場にわたくしを案内した担当者を呼び出した。
どうやらこの担当者は、最近先ほどの害虫の商会からこちらに転職してきた人物のようだ。業績がよく人当たりもいいため、あの商会とのつながりを持てると言い含めて見事に商談を成功させたらしいのは本当だった。
ただ、お飾りの、枕営業をする会頭だと思われていたのかとげんなりする。前世でもこういう男たちはいたと記憶の欠片にはあるなと苦笑いが漏れた。どちらにせよ、相手の商会との取引は今後一切なくなるだろう。
「で、あの商会との取引の最終確認のための会合だと聞いていたのですけれども。先方は何の案もなくこちらを侮辱してきた。どうなっているのか説明していただけるかしら?」
わたくしは、にこにこと微笑んでいる。最初はこちらを伺うようにしどろもどろに説明をしだしたが、噂の通りお飾りの会頭だと思ったのかべらべらと話し始めた。
※※ ※※ ※※
「ですから、あなたさえ彼に応じていただければ、あの商会の大口取引を約束されるのです。あのような何も出来ない見目の悪い男を夫に持たれたあなたの力になりたいと、あの方が立ち上がってくれたのに。あの方は慈悲深く、彼に声を掛けられると女性は喜ぶというのに、一体、何が不満なのです?」
男は、ニヤニヤとわたくしをイヤラシイ目で見ながら言い切った。
「不満? そうねえ……。まず、商談というのなら、きちんと内容をわたくしに示すべきでしょう? それから契約に関する事項の最終調整も。事前調査では申し分のない商談取引の内容に期待していたのに。でも、あなたのいう、誠実で優しい彼は、開口一番にわたくしの体を求めただけだった。どうしても挨拶と、今回の取引についてわたくし自身に申し伝えたい事があるというからわざわざ行ったのです。どういう事かしら? それと、わたくしの最愛の夫を侮辱するとは、どういった考えなのかしら? まあ、答えはありきたりでしょうけれど、勘違いなさらないで? 夫以外、興味はございませんの」
微笑んでいるというのに、目の前の男が青ざめて冷や汗を流し始めた。どういう事かしら、わたくし怖い言い方をしないように努力しているのに、失礼しちゃうわ。
「会頭、わたしどもの教育不足でございます」
「まあねえ……。大きくし過ぎた弊害、というものでしょう。わたくし、もう充分働いたし生活に困らなそうだから引退しましょうか?」
「そ、それは困ります。貴女様が撤退すれば、わが社の取引先の6割が手を引くではありませんか」
「貴方がたがいるでしょう?」
「いやいや、こいつは即刻クビにします。二度とこのような事がないようにしますから、どうか!」
「クビは流石に……。そうね、優秀な人材だと聞いているし、少々わたくしとお話致しましょうか」
男は、会頭の雰囲気とトップクラスの男と対等どころかはるかに上の立場な彼女の対応を見て、判断をまちがっていたのかと戦々恐々として内心ふるえていた。けれど、お話と聞いてにやりと口元がゆるむ。やはり、この女はベッドでのお話がメインなのだと。
ところが通されたところは、重役たちの集まる会議室だった。
「これはイザベル様……。今日はもうお帰りになったかと。一体どうなさいましたか?」
「いえ、優秀な人材が入ったらしくて。わたくしには判断がつかないのでちょっとここでお話してみようかと」
「……、またですか……。申し訳ございません」
「ふふふ、たまに、本当に優秀で使える人もいるじゃない。貴方のようにね」
「いやはや耳が痛いですな」
男は、何が何やらわからず、呆然と突っ立っていた。
トールは、わたくしが、大きくなってきた商会のトップと知った様々な人物が狙い始めたのをきっかけに護衛としてわたくしとずっといるようになった。
わたくしや、重要人物にとって護衛というのは立派な職業であると認識されているが、一般庶民にとっては、何もない平時の方が多く、トールをあからさまにヒモのように侮蔑の視線で見て来る者もいた。
トラブルは彼らの前では起こらない物で、トールの実力が彼らの目に入らないのも原因の一つだろう。
トールは、国王すら守る事のできる超級の凄腕騎士だというのに、彼の足元にも及ばない弱いひょろひょろした男が、この世界ではイケメンであり、トールがそうでない事も相まって、彼の目の前でわたくしにコナを掛けて来る者もいた。勿論、わたくしたちの関係や、トールの実力を知っていたり、情報を得た者たちは彼に対してきちんとした誠意のある態度を取ってくれる。
「おお、これはいつみてもお美しい。今日は色よい返事を聞かせてくれると思いこうして来た。 その男では、夜が物足りんだろう?」
身の程知らずの、前世での外部業者の営業部長とかそのあたりの役職のイケメン(ひょろりん)が、普段は許されているだろう偉そうな態度でセクハラをかましてくる。
「トール、何か聞こえたかしら?」
「何も」
わたくしは、男を見もせずに立ち上がり、商談のための部屋の出口に向かう。すると、あからさまに無視をされたのを不快に思ったイケメン営業部長(笑)が、タコのように真っ赤になりぎゃんぎゃんわめいていく。女はこれだからだのなんだのうるさい。
男がわたくしの腕を掴み、舌なめずりをするように体に視線を這わす。とても気持ちが悪い。
「女は大人しく股を開いておればいいものを。わたしが相手をしてやると言っているのだ。光栄に、ぐおおお!」
視界の下、つまり床に男はうつ伏せの状態で寝転んでいる。トールが一瞬で男を転ばせて動きを封じて腕をひねり上げている。
「あら? トールったら、どうしたの? 床に何かがあったのかしら?」
「目障りなうるさい害虫が。お気になさらず。二度と目の前に現れないよう駆除しておきます」
「そう。退治をお願いね」
「はっ」
トールは公私混同をあまり好まない。護衛中は、まるで騎士のようで、ますます格好いいのだが背後にいるため堪能出来ないのが残念。
わたくしは、その場をあとにする。断末魔のような声が廊下まで聞こえるけれど気のせいね。執務室に戻ると、この場にわたくしを案内した担当者を呼び出した。
どうやらこの担当者は、最近先ほどの害虫の商会からこちらに転職してきた人物のようだ。業績がよく人当たりもいいため、あの商会とのつながりを持てると言い含めて見事に商談を成功させたらしいのは本当だった。
ただ、お飾りの、枕営業をする会頭だと思われていたのかとげんなりする。前世でもこういう男たちはいたと記憶の欠片にはあるなと苦笑いが漏れた。どちらにせよ、相手の商会との取引は今後一切なくなるだろう。
「で、あの商会との取引の最終確認のための会合だと聞いていたのですけれども。先方は何の案もなくこちらを侮辱してきた。どうなっているのか説明していただけるかしら?」
わたくしは、にこにこと微笑んでいる。最初はこちらを伺うようにしどろもどろに説明をしだしたが、噂の通りお飾りの会頭だと思ったのかべらべらと話し始めた。
※※ ※※ ※※
「ですから、あなたさえ彼に応じていただければ、あの商会の大口取引を約束されるのです。あのような何も出来ない見目の悪い男を夫に持たれたあなたの力になりたいと、あの方が立ち上がってくれたのに。あの方は慈悲深く、彼に声を掛けられると女性は喜ぶというのに、一体、何が不満なのです?」
男は、ニヤニヤとわたくしをイヤラシイ目で見ながら言い切った。
「不満? そうねえ……。まず、商談というのなら、きちんと内容をわたくしに示すべきでしょう? それから契約に関する事項の最終調整も。事前調査では申し分のない商談取引の内容に期待していたのに。でも、あなたのいう、誠実で優しい彼は、開口一番にわたくしの体を求めただけだった。どうしても挨拶と、今回の取引についてわたくし自身に申し伝えたい事があるというからわざわざ行ったのです。どういう事かしら? それと、わたくしの最愛の夫を侮辱するとは、どういった考えなのかしら? まあ、答えはありきたりでしょうけれど、勘違いなさらないで? 夫以外、興味はございませんの」
微笑んでいるというのに、目の前の男が青ざめて冷や汗を流し始めた。どういう事かしら、わたくし怖い言い方をしないように努力しているのに、失礼しちゃうわ。
「会頭、わたしどもの教育不足でございます」
「まあねえ……。大きくし過ぎた弊害、というものでしょう。わたくし、もう充分働いたし生活に困らなそうだから引退しましょうか?」
「そ、それは困ります。貴女様が撤退すれば、わが社の取引先の6割が手を引くではありませんか」
「貴方がたがいるでしょう?」
「いやいや、こいつは即刻クビにします。二度とこのような事がないようにしますから、どうか!」
「クビは流石に……。そうね、優秀な人材だと聞いているし、少々わたくしとお話致しましょうか」
男は、会頭の雰囲気とトップクラスの男と対等どころかはるかに上の立場な彼女の対応を見て、判断をまちがっていたのかと戦々恐々として内心ふるえていた。けれど、お話と聞いてにやりと口元がゆるむ。やはり、この女はベッドでのお話がメインなのだと。
ところが通されたところは、重役たちの集まる会議室だった。
「これはイザベル様……。今日はもうお帰りになったかと。一体どうなさいましたか?」
「いえ、優秀な人材が入ったらしくて。わたくしには判断がつかないのでちょっとここでお話してみようかと」
「……、またですか……。申し訳ございません」
「ふふふ、たまに、本当に優秀で使える人もいるじゃない。貴方のようにね」
「いやはや耳が痛いですな」
男は、何が何やらわからず、呆然と突っ立っていた。
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