8 / 58
しとやか未満の姫と騎士の卵①
しおりを挟む
隣国との小競り合いが、年々ひどくなっていった。
12歳になったサヴァイヴは、すでに大人と同じくらいに身長が伸び、鍛え上げつつある肉体は、頼りないパーツがあるものの、がっしりしてきた。
同世代の幼馴染みたちよりも頭1~2つ大きい。顔つきはまだ幼さが残るものの、父親に似て、素敵な、というよりも男らしくなっていた。
少年らしさが消えていくにつれ迫力ある彼は、女の子たちに怯えられるようになっていき、声変わりが始まるとさらに遠巻きにされていく。
昔は、とても持て囃されたというのに、今では、他の少年たちに女の子たちが群がっている。
大きく育った彼は、5歳の時に与えられたダガーはほとんど使用せず、専ら、大人が使う長剣を愛用していた。
「やぁっ!」
昼ごはん前に鍛錬をしていた彼は、一心不乱に汗を流して剣を奮う。対するは、父の片腕である、この辺境で作られた精鋭部隊の副騎士長。28歳にしてその地位に上り詰めた彼は、パワータイプのサヴァイヴとは違い、受け流し流線形を描きながら敵の隙をつく。剣先が自由自在に変化し、直型の彼にとってとてもやりにくい相手だ。
ストレートのやや硬い赤髪を襟足で一つにくくり、明るいブラウンの瞳は優し気に見えるため非常にモテる。
「ぼっちゃん、そろそろ休憩しましょう」
カキンッと、思い切り打ち込んだ剣が跳ねあがる。やや押され気味に見えた彼らの模擬戦は、どうやら副騎士長が手加減していたようだ。たった一振りで、サヴァイヴの急所どころか前面ががらあきになり、一瞬にして、首と心臓、両手首の軽装型の鎧に傷がつけられた。これが戦場なら命はない。あっても腕の神経が切られて動かせず出血多量で昏倒している。
「くっそー! まだまだぁっ!」
サヴァイヴは、跳ねあげられた剣をしっかり両手で持ち、おもいきり彼に叩きこむ。最近、彼の父とともに、国の防衛にあたるこの砦はしょっちゅう戦に行っているため、自分も早く参加して父の力になりたいと、気ばかり焦っている。だが、がむしゃらに狭い視野と狭量な精神が、かえって上達を遅くしている事に気づいていない。
「やれやれ」
自己の仕事の上に、後継者たる図体ばかり大きくなった彼に付き合わされている彼は、一つ苦笑を零した後、今度はキィンッと高い金属音が鳴り、数瞬の後に、土に剣がささる鈍い音が鳴った。これで、サヴァイヴの態度が悪ければ見放されていただろうが、一途に頑張る彼の姿は、おおむね騎士団の皆から慕われ快く受け入れられていた。
「…………、まいりました……」
ぎゅっと下唇を噛みしめて項垂れる。肩が震えて、拳には筋が入り、血管が浮き出ていた。
「ぼっちゃん、休むべき時は休む。そうでなくては一瞬先は死ですからね。頭も血がのぼりすぎです。型もなにもかもが、まるで幼児のようになっていますから、今日はここまでです。いいですね?」
「……、はい……。クロヴィス先生……」
「では、午後からは基礎鍛錬を……。いや、今日はゆっくりしてください」
「は? 俺はもっと強くなりたい! だから午後からも稽古お願いしますっ!」
「いいえ。休息は必要です。それに、今日は何の日かお忘れですか? 大切な方と会う日でしょう?」
「今日……? ……、あっ!」
「熱心な事は良い事ですが、一点集中過ぎる事はよくありません。しっかり周囲の事も気にかけなくては人はついてこないものですから。現段階で十分以上に、ぼっちゃんは強い。もっと強くなりたいと願う気持ちは、我々が一番よく知っています。悔しいでしょうが、必ずもっと強くなります。ですから、今日は予定通りの行動をしなさい」
「……、はい」
ありがとうございました。と元気に頭を下げた後、へとへとの体を動かしてなるべく早く自室に戻る。たしかに、もう剣を握る事も、震えるこの指では難しかっただろう。
途中の井戸で、冷たい水を桶でざーっと頭からかぶる。上半身裸の上、ズボンも薄布だ。びしょぬれの髪をタオルで拭きながら、庭を横切っていった。
「……!」
「きゃぁ、ヴァイスったら……!」
声がしたほうを向くと、華奢な幼馴染がドレスから見えるデコルテから首、顔に耳まで真っ赤に染まっている。顔を白い手で隠し、後ろに向いた。
「ヴィー、ご、ごめんっ! すぐに着替えて来るから待ってて!」
「~~~~っ! わ、わかったから、わかったから早く行って! いくら暑い時期だからって、井戸の水は冷たいから風邪をひいちゃうわ?」
「うん!」
サヴァイヴは、途端に恥ずかしさがせりあがる。そして、イヴォンヌに会えたことと、彼女の優しい気遣いに対して嬉しくなり、どこに走る余力が残っていたのか、慌てて全速力でその場を去った。
12歳になったサヴァイヴは、すでに大人と同じくらいに身長が伸び、鍛え上げつつある肉体は、頼りないパーツがあるものの、がっしりしてきた。
同世代の幼馴染みたちよりも頭1~2つ大きい。顔つきはまだ幼さが残るものの、父親に似て、素敵な、というよりも男らしくなっていた。
少年らしさが消えていくにつれ迫力ある彼は、女の子たちに怯えられるようになっていき、声変わりが始まるとさらに遠巻きにされていく。
昔は、とても持て囃されたというのに、今では、他の少年たちに女の子たちが群がっている。
大きく育った彼は、5歳の時に与えられたダガーはほとんど使用せず、専ら、大人が使う長剣を愛用していた。
「やぁっ!」
昼ごはん前に鍛錬をしていた彼は、一心不乱に汗を流して剣を奮う。対するは、父の片腕である、この辺境で作られた精鋭部隊の副騎士長。28歳にしてその地位に上り詰めた彼は、パワータイプのサヴァイヴとは違い、受け流し流線形を描きながら敵の隙をつく。剣先が自由自在に変化し、直型の彼にとってとてもやりにくい相手だ。
ストレートのやや硬い赤髪を襟足で一つにくくり、明るいブラウンの瞳は優し気に見えるため非常にモテる。
「ぼっちゃん、そろそろ休憩しましょう」
カキンッと、思い切り打ち込んだ剣が跳ねあがる。やや押され気味に見えた彼らの模擬戦は、どうやら副騎士長が手加減していたようだ。たった一振りで、サヴァイヴの急所どころか前面ががらあきになり、一瞬にして、首と心臓、両手首の軽装型の鎧に傷がつけられた。これが戦場なら命はない。あっても腕の神経が切られて動かせず出血多量で昏倒している。
「くっそー! まだまだぁっ!」
サヴァイヴは、跳ねあげられた剣をしっかり両手で持ち、おもいきり彼に叩きこむ。最近、彼の父とともに、国の防衛にあたるこの砦はしょっちゅう戦に行っているため、自分も早く参加して父の力になりたいと、気ばかり焦っている。だが、がむしゃらに狭い視野と狭量な精神が、かえって上達を遅くしている事に気づいていない。
「やれやれ」
自己の仕事の上に、後継者たる図体ばかり大きくなった彼に付き合わされている彼は、一つ苦笑を零した後、今度はキィンッと高い金属音が鳴り、数瞬の後に、土に剣がささる鈍い音が鳴った。これで、サヴァイヴの態度が悪ければ見放されていただろうが、一途に頑張る彼の姿は、おおむね騎士団の皆から慕われ快く受け入れられていた。
「…………、まいりました……」
ぎゅっと下唇を噛みしめて項垂れる。肩が震えて、拳には筋が入り、血管が浮き出ていた。
「ぼっちゃん、休むべき時は休む。そうでなくては一瞬先は死ですからね。頭も血がのぼりすぎです。型もなにもかもが、まるで幼児のようになっていますから、今日はここまでです。いいですね?」
「……、はい……。クロヴィス先生……」
「では、午後からは基礎鍛錬を……。いや、今日はゆっくりしてください」
「は? 俺はもっと強くなりたい! だから午後からも稽古お願いしますっ!」
「いいえ。休息は必要です。それに、今日は何の日かお忘れですか? 大切な方と会う日でしょう?」
「今日……? ……、あっ!」
「熱心な事は良い事ですが、一点集中過ぎる事はよくありません。しっかり周囲の事も気にかけなくては人はついてこないものですから。現段階で十分以上に、ぼっちゃんは強い。もっと強くなりたいと願う気持ちは、我々が一番よく知っています。悔しいでしょうが、必ずもっと強くなります。ですから、今日は予定通りの行動をしなさい」
「……、はい」
ありがとうございました。と元気に頭を下げた後、へとへとの体を動かしてなるべく早く自室に戻る。たしかに、もう剣を握る事も、震えるこの指では難しかっただろう。
途中の井戸で、冷たい水を桶でざーっと頭からかぶる。上半身裸の上、ズボンも薄布だ。びしょぬれの髪をタオルで拭きながら、庭を横切っていった。
「……!」
「きゃぁ、ヴァイスったら……!」
声がしたほうを向くと、華奢な幼馴染がドレスから見えるデコルテから首、顔に耳まで真っ赤に染まっている。顔を白い手で隠し、後ろに向いた。
「ヴィー、ご、ごめんっ! すぐに着替えて来るから待ってて!」
「~~~~っ! わ、わかったから、わかったから早く行って! いくら暑い時期だからって、井戸の水は冷たいから風邪をひいちゃうわ?」
「うん!」
サヴァイヴは、途端に恥ずかしさがせりあがる。そして、イヴォンヌに会えたことと、彼女の優しい気遣いに対して嬉しくなり、どこに走る余力が残っていたのか、慌てて全速力でその場を去った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる