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清楚な美女と辺境の野生の獣①~ここから恋愛要素が濃くなり切なくなっていきます。
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両親や、守ってくれていた皆と離れ、単身、ではなくなぜかクロヴィスとともに王都に向かう事になった。
「なんでクロヴィスまで?」
「ご領主様から、サヴァイヴ様の事を頼まれましたからね。当分帰れませんから、砦の恋人たちが何人も涙で枕を濡らしていましたよ」
クロヴィスは、至極真面目な顔でそう言うと、ニヤリと口角をあげて自分より大きくなった生徒を見た。アレ以来、とある理由があり、彼に色んな女性を宛がおうとしたが、どうにも目の前の純情な少年は、変なところで頑固で一途で可愛らしくもやっかいな存在だった。
「ったく。いつもいつも団長はぼっちゃんの事を俺に丸投げしすぎるんじゃないか?」
口の中で、そう一人ごちた。平静と退屈さの中で、隠しきれない彼の期待と高揚感が手に取るようにわかり、ため息を吐く。
二週間ほどの馬車での旅路が終わった。途中の村で、盗賊を見過ごせないサヴァイヴの命令でそれらを鎮圧したため行程が長引いたのである。
旅の埃や汚れや疲労などを取り払い、王都の有名洋服店に入る。王都仕立ての洋装に着替えたサヴァイヴは、流行りの貴公子のようなデザインは似合わなかった。
「……着替える」
姿見を見て、普段こういった外観に全く興味のないサヴァイヴすら、今の姿が滑稽な事に気付く。これでは余計に田舎者として、大事な人に恥をかかす事になるだろう。
「……ぶふっ、失礼、咳が。んんっ!」
クロヴィスもまた、彼の姿を見て肩を震わせて、堪えていた笑いが耐えれなかったようだ。
店主自ら接待をしていたが、無骨で大きな彼に似合う服は、この店にはないのでほとほと困っていた。
王都では、華奢にも見えるような男性が好まれており、ほとんどの貴族はここまで鍛え上げていない。それは、下級貴族や平民がする事であり、高位貴族になればなるほど線が細いのである。
「お客様……。こちらなどはいかがでしょうか」
それは、黒を基調としただぼっとした既製品で、随分前に流行した古臭いデザインであった。
流石に、無理してここでそのようなやぼったい服を用意する事はあるまいと、サヴァイヴは、オーダーメイドで用意する事を決意した。
「その方がよろしいでしょうねえ……」
クロヴィスはというと、彼も鍛えているというのに、大きめの王都の服が良く似合う。脱げば盛り上がり、流れるような硬い筋肉があるというのに、どこにいったのかわからないほど、現在の流行のフリルや豪奢な刺繍が施された服を着こなしている。
クロヴィスが貴族で、サヴァイヴが護衛だと言われるほうが周囲も納得するだろう。
「何日で出来る……」
低く体の奥に響くような声になった彼の声で、店主は震えあがる。明日にでも準備しなければ首を切られるのではないかと思うほどの迫力だ。
「あ、あの、い、一週間! 一週間いただければ、ご自宅用、外出用など数点をご用意できましゅ!」
部屋の角で、店主のアシスタントをしていた店子の心が悲鳴を上げた。それでは一日70時間あっても足らない。流石に、無地のありあわせの生地で縫い上げるだけではダメだろう。少しの無礼で物理的に本当に首が飛びそうなほどの高貴な方と聞いている。
「あまり無茶を言わなくてもいい。本来であれば何日かかる」
クロヴィスが、憐れな店主たちに助け舟を出す。
「……外出用の服を一着。これを急いで作って欲しい」
ところが、このような事では要望を一切言わないサヴァイヴがこう言った事で、この店の決算間際よりも厳しい労働環境が出来たのであった。
クロヴィスが、こっそり増員のための支援と報奨金を提示しなければいくら雇われているとはいえ、逃げ出す店子もいただろう。
あからさまにほっとして、店主はデザインや刺繍、ボタンなどの小さな小物や、カットの仕方などをサヴァイヴに説明し意見を仰ぐ。だが、サヴァイヴは、「まかせる」の一言で、仕上がりに彼がどう言うかわからない事もあり、更に困ったと頭を悩ませたことに気づく事はなかった。
服が出来上がるまでの間、サヴァイヴは、取り合えず普段から来ていた洋服で過ごした。外に出る用事もない。
そして、毎日のようにとある指示について一向に音沙汰がない事を訝しんでいたのであった。
「なんでクロヴィスまで?」
「ご領主様から、サヴァイヴ様の事を頼まれましたからね。当分帰れませんから、砦の恋人たちが何人も涙で枕を濡らしていましたよ」
クロヴィスは、至極真面目な顔でそう言うと、ニヤリと口角をあげて自分より大きくなった生徒を見た。アレ以来、とある理由があり、彼に色んな女性を宛がおうとしたが、どうにも目の前の純情な少年は、変なところで頑固で一途で可愛らしくもやっかいな存在だった。
「ったく。いつもいつも団長はぼっちゃんの事を俺に丸投げしすぎるんじゃないか?」
口の中で、そう一人ごちた。平静と退屈さの中で、隠しきれない彼の期待と高揚感が手に取るようにわかり、ため息を吐く。
二週間ほどの馬車での旅路が終わった。途中の村で、盗賊を見過ごせないサヴァイヴの命令でそれらを鎮圧したため行程が長引いたのである。
旅の埃や汚れや疲労などを取り払い、王都の有名洋服店に入る。王都仕立ての洋装に着替えたサヴァイヴは、流行りの貴公子のようなデザインは似合わなかった。
「……着替える」
姿見を見て、普段こういった外観に全く興味のないサヴァイヴすら、今の姿が滑稽な事に気付く。これでは余計に田舎者として、大事な人に恥をかかす事になるだろう。
「……ぶふっ、失礼、咳が。んんっ!」
クロヴィスもまた、彼の姿を見て肩を震わせて、堪えていた笑いが耐えれなかったようだ。
店主自ら接待をしていたが、無骨で大きな彼に似合う服は、この店にはないのでほとほと困っていた。
王都では、華奢にも見えるような男性が好まれており、ほとんどの貴族はここまで鍛え上げていない。それは、下級貴族や平民がする事であり、高位貴族になればなるほど線が細いのである。
「お客様……。こちらなどはいかがでしょうか」
それは、黒を基調としただぼっとした既製品で、随分前に流行した古臭いデザインであった。
流石に、無理してここでそのようなやぼったい服を用意する事はあるまいと、サヴァイヴは、オーダーメイドで用意する事を決意した。
「その方がよろしいでしょうねえ……」
クロヴィスはというと、彼も鍛えているというのに、大きめの王都の服が良く似合う。脱げば盛り上がり、流れるような硬い筋肉があるというのに、どこにいったのかわからないほど、現在の流行のフリルや豪奢な刺繍が施された服を着こなしている。
クロヴィスが貴族で、サヴァイヴが護衛だと言われるほうが周囲も納得するだろう。
「何日で出来る……」
低く体の奥に響くような声になった彼の声で、店主は震えあがる。明日にでも準備しなければ首を切られるのではないかと思うほどの迫力だ。
「あ、あの、い、一週間! 一週間いただければ、ご自宅用、外出用など数点をご用意できましゅ!」
部屋の角で、店主のアシスタントをしていた店子の心が悲鳴を上げた。それでは一日70時間あっても足らない。流石に、無地のありあわせの生地で縫い上げるだけではダメだろう。少しの無礼で物理的に本当に首が飛びそうなほどの高貴な方と聞いている。
「あまり無茶を言わなくてもいい。本来であれば何日かかる」
クロヴィスが、憐れな店主たちに助け舟を出す。
「……外出用の服を一着。これを急いで作って欲しい」
ところが、このような事では要望を一切言わないサヴァイヴがこう言った事で、この店の決算間際よりも厳しい労働環境が出来たのであった。
クロヴィスが、こっそり増員のための支援と報奨金を提示しなければいくら雇われているとはいえ、逃げ出す店子もいただろう。
あからさまにほっとして、店主はデザインや刺繍、ボタンなどの小さな小物や、カットの仕方などをサヴァイヴに説明し意見を仰ぐ。だが、サヴァイヴは、「まかせる」の一言で、仕上がりに彼がどう言うかわからない事もあり、更に困ったと頭を悩ませたことに気づく事はなかった。
服が出来上がるまでの間、サヴァイヴは、取り合えず普段から来ていた洋服で過ごした。外に出る用事もない。
そして、毎日のようにとある指示について一向に音沙汰がない事を訝しんでいたのであった。
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