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「やったわ。友達に誘われて、うさんくささ満載だけど、溶けてもいいやってビャットコインに10万突っ込んで良かったー。明日には空気になりそうなこんなもん、いつ暴落するかわっかんないし、さっさとおろして貯金……ううん、株に移行させて事業を立ち上げてもいいかも。これって、それこそ、5社くらい作っては潰れても大丈夫じゃない?」
当時は給料日前には、うっすい3分がゆともやしで空腹をしのいでいた。そんな貧乏暇なしOLの自分がやけくそで突っ込んだ仮想通貨の取引。口座を開いたことも忘れていたが、ふとした拍子にログインすると、そこには見たこともないほど0が重なっていた。
大金すぎるので、全く持って現実味がない。まるで、凶悪犯罪を犯した人のように、こわごわ利益を手に入れる。それにしても、税金でごっそり盗られたのがくやしい。
「うん、こうなったら、さっさと会社やーめよっと。パワハラお局に、セクハラじじいどもめ。ククク、今の私は、会社の大株主になって潰しちゃえるんだぞー。今はしょーわじゃないっての。あーあ、6年前に口座見ときゃ、こんなに我慢することなかったのに。ま、人生これから。楽しんじゃうぞ!」
小さなこたつの上には、コンビニで買った3割引シール付きのショートケーキと、ディスカウントストアの、さらにワゴンの特売で買ったインスタントコーヒーが並んでいる。
暖房代が勿体ないので、昔から愛用している半纏は、中綿が半分ほどどこかにいっていて寒い。もこもこに服を着込んで、スマホの画面の0を何度も数えながら、冷めてまずくなったコーヒーをすすり、いちごが入っていますよとは名ばかりの、実はジャムでごまかしているショートケーキをぱくりと食べた。
「ふふふふ、うぇ、うへへへへ。これからは、こんなしょぼい食事をしなくていいんだー」
今まで見たこともない、高級レストランで女優さながらのドレスを着た自分が、マナーなんてほとんどしらないのに、イケメンやイケオジコックに囲まれ、品よくローストビーフを口に運ぶ、そんな想像をしながらだらしなくにまにましていた。
一人ぼっちのクリスマスを終え、月曜の朝に、ばばんと「退職願」と書いた封筒を上司に渡す。万年人手不足の会社だ。勿論拒否されたが、今の自分に怖いものはない。会社関係のナンバーやメールなどはすでにブロックしている。
何やら怒鳴っている上司の声を背に、ささーっと会社を出ていった。
「引き継ぎしろったって、私だって引き継ぎなんかしてもらってないしー。知るか。偉そうに座ってソリテヤばっかりしてるやつがやればいいでしょ」
誰にも聞かれていないというのに、ぶつくさつぶやきながら歩く。今日は、足先が痛くて臭くなるヒールではなく、自分へのご褒美に奮発して買ったオールドバランスの666を履いていた。
こころなしか、身も心もふわふわ浮いているようだ。
「立つ鳥跡を濁さずっていうし、こんな不義理なやめ方、やっちゃってよかったのかなあ」
ところが、小心者の一般人な彼女は、勢いのまま大胆すぎて失礼極まりない行動をすぐさま後悔した。今までにも出没した、三時間でばっくれる人たちと同じ非常識人間になったと胸が痛む。しかし、時すでに遅し。こうなった以上戻っても地獄だ。
「そうよ、逮捕されるようなものではないし、人生のやり直しのために以前から買いたかったものやしたかったことをするわよー!」
安いアパートに帰り、自営業をしている友人に電話する。彼女も、10万つぎ込んだはず。いっそ、彼女とふたりで大企業を立ち上げてもいいかもなんて思いながら電話をかけた。
「お客様のおかけになった番号は……」
ところが、電源が切れているのかかからない。おかしいなと思い、会社のホームページを検索すると、とっくの昔に廃業していた。彼女との連絡先としてインストールした、しばらく開いていなかったフェイスブックにDMが届けられていた。
「なになに? えーと、(あい、SNSも電話してもつながらないからこっちで連絡するね。仕事忙しくてスマホ見れないのかな? 前に一緒にした仮想通貨覚えている? まだ見ていなかったら見てみて。私ね、夫と一緒にオーストラリアで人生やり直そうと思うの。自営業が日本ではもう限界で。借金がかさむ一方なのよ。これを見たら、連絡をちょうだい)」
なんと、友達はとっくに仮想通貨バブルで日本を脱出していた。時々フェイスブックに彼女から連絡がきていたのに、アプリすらインストールしたままほったらかしだった過去の自分にもやもやどころか腹が立つ。すぐさま、フェイスブックで連絡を入れた。
当時は給料日前には、うっすい3分がゆともやしで空腹をしのいでいた。そんな貧乏暇なしOLの自分がやけくそで突っ込んだ仮想通貨の取引。口座を開いたことも忘れていたが、ふとした拍子にログインすると、そこには見たこともないほど0が重なっていた。
大金すぎるので、全く持って現実味がない。まるで、凶悪犯罪を犯した人のように、こわごわ利益を手に入れる。それにしても、税金でごっそり盗られたのがくやしい。
「うん、こうなったら、さっさと会社やーめよっと。パワハラお局に、セクハラじじいどもめ。ククク、今の私は、会社の大株主になって潰しちゃえるんだぞー。今はしょーわじゃないっての。あーあ、6年前に口座見ときゃ、こんなに我慢することなかったのに。ま、人生これから。楽しんじゃうぞ!」
小さなこたつの上には、コンビニで買った3割引シール付きのショートケーキと、ディスカウントストアの、さらにワゴンの特売で買ったインスタントコーヒーが並んでいる。
暖房代が勿体ないので、昔から愛用している半纏は、中綿が半分ほどどこかにいっていて寒い。もこもこに服を着込んで、スマホの画面の0を何度も数えながら、冷めてまずくなったコーヒーをすすり、いちごが入っていますよとは名ばかりの、実はジャムでごまかしているショートケーキをぱくりと食べた。
「ふふふふ、うぇ、うへへへへ。これからは、こんなしょぼい食事をしなくていいんだー」
今まで見たこともない、高級レストランで女優さながらのドレスを着た自分が、マナーなんてほとんどしらないのに、イケメンやイケオジコックに囲まれ、品よくローストビーフを口に運ぶ、そんな想像をしながらだらしなくにまにましていた。
一人ぼっちのクリスマスを終え、月曜の朝に、ばばんと「退職願」と書いた封筒を上司に渡す。万年人手不足の会社だ。勿論拒否されたが、今の自分に怖いものはない。会社関係のナンバーやメールなどはすでにブロックしている。
何やら怒鳴っている上司の声を背に、ささーっと会社を出ていった。
「引き継ぎしろったって、私だって引き継ぎなんかしてもらってないしー。知るか。偉そうに座ってソリテヤばっかりしてるやつがやればいいでしょ」
誰にも聞かれていないというのに、ぶつくさつぶやきながら歩く。今日は、足先が痛くて臭くなるヒールではなく、自分へのご褒美に奮発して買ったオールドバランスの666を履いていた。
こころなしか、身も心もふわふわ浮いているようだ。
「立つ鳥跡を濁さずっていうし、こんな不義理なやめ方、やっちゃってよかったのかなあ」
ところが、小心者の一般人な彼女は、勢いのまま大胆すぎて失礼極まりない行動をすぐさま後悔した。今までにも出没した、三時間でばっくれる人たちと同じ非常識人間になったと胸が痛む。しかし、時すでに遅し。こうなった以上戻っても地獄だ。
「そうよ、逮捕されるようなものではないし、人生のやり直しのために以前から買いたかったものやしたかったことをするわよー!」
安いアパートに帰り、自営業をしている友人に電話する。彼女も、10万つぎ込んだはず。いっそ、彼女とふたりで大企業を立ち上げてもいいかもなんて思いながら電話をかけた。
「お客様のおかけになった番号は……」
ところが、電源が切れているのかかからない。おかしいなと思い、会社のホームページを検索すると、とっくの昔に廃業していた。彼女との連絡先としてインストールした、しばらく開いていなかったフェイスブックにDMが届けられていた。
「なになに? えーと、(あい、SNSも電話してもつながらないからこっちで連絡するね。仕事忙しくてスマホ見れないのかな? 前に一緒にした仮想通貨覚えている? まだ見ていなかったら見てみて。私ね、夫と一緒にオーストラリアで人生やり直そうと思うの。自営業が日本ではもう限界で。借金がかさむ一方なのよ。これを見たら、連絡をちょうだい)」
なんと、友達はとっくに仮想通貨バブルで日本を脱出していた。時々フェイスブックに彼女から連絡がきていたのに、アプリすらインストールしたままほったらかしだった過去の自分にもやもやどころか腹が立つ。すぐさま、フェイスブックで連絡を入れた。
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