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「ヴァレリー、ここにいたのか」
声をかけて来た素敵な青年は先ほど一緒に学園を卒業した幼馴染だ。彼とは領地が近く行き来しており兄や姉とともに仲良く一緒に育った。
その彼が、微笑んで蕩けるような瞳でこちらだけを見ている事に心が騒めきだす。
物心つけばいつも隣にいた。幼い頃はやんちゃだった彼も、今は令嬢たちに絶大な人気を誇るほど逞しく素敵な青年に成長している。頭も良く、騎士の資格も持つ彼は、ヴァレリーの家の近くの広大で肥沃な領地の跡取りである。彼の妻になりたいと、数多くの縁談が彼の家に毎日のように舞い込んでいると聞いていた。
「ロラン様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、ヴァレリーもおめでとう」
「ありがとうございます」
そんな素敵な彼は、ひとりでポツンと壁際で立っているヴァレリーをわざわざ探し出してここまで来たようだ。幼馴染とはいえ、別れも惜しむかのように彼に話しかけたがっている人々じゃなく、ここに来たのはなぜだろうと小首をかしげる。すると、彼はヴァレリーに向かいそっと手を差し伸べた。
「ヴァレリー、お前のご両親には以前から申し込んでいたんだ。だけど、学園の卒業まではダメだと許しては頂けず。お前の家族から、ヴァレリーの気持ち次第と言われていたのもあって今日まで待っていた。学園では、ほとんど毎日のように一緒にいただろう? 卒業してからはそういうわけにはいかない。お前も、その……お、俺の事を少なからず想ってくれていると思う。だから、このまま見知らぬ男の元に嫁ぐんじゃなくて、どうか俺の妻になってくれないか?」
「……ロラン様」
ヴァレリーは、今目の前で起こった事が信じられなかった。どう考えてもおかしい、これは嘘か何かに違いないと思うほど。
ヴァレリーは整ってはいるけれど、父に似てきつい顔立ちをしている。何もしていないのに、誰かを見つめるだけで睨まれたと勘違いされては避けられた。幼少期からそんな感じだったので、すっかり引っ込み思案になり自分に自信がない。
兄と姉は、美しい母に似てとても綺麗だ。兄は優美で賢く次期辺境伯としての能力をすでに兼ね備えているし、姉は快活で物おじしない彼女はどこにいっても人気者だ。二人はそれぞれすでに結婚相手がいる。
父と母は、充分かわいらしいのにそんな兄と姉の影に隠れたかのように本を好み一人で本を抱えて野草を探すようなヴァレリーの事を心配していた。二人とも、子供たちには想いを寄せた相手と一緒になってもらいたいと考えている。大人しいヴァレリーには、同じような地味で引っ込み思案な可愛らしい友達が数人いるだけで、この年まで恋を知らずにいた。
いい加減お相手を見つけないといけない
と、学園では男の子たちにちらっと眼を向けようとした。
だけど、彼女には誰一人として異性の友達すらできなかった。それもそのはず、ロランが常に彼女の側にいて構ってくるからだ。周囲からは、幼馴染以上の関係だろうと思われており、ロランに恋をしている令嬢たちから意地悪をされる事もしばしばあった。
ロランと一緒にいたら、もっといじめられてしまうと思い、単なる幼馴染だからと彼からも出来る限り逃げ続けていたのである。
「なんで……?」
やっと、口が動いたかと思えば、たった三文字だった。何をどう考えても、綺麗で素敵な令嬢をよりどりみどりな彼が、こんな自分にそんな風に言う理由がわからなかった。
声をかけて来た素敵な青年は先ほど一緒に学園を卒業した幼馴染だ。彼とは領地が近く行き来しており兄や姉とともに仲良く一緒に育った。
その彼が、微笑んで蕩けるような瞳でこちらだけを見ている事に心が騒めきだす。
物心つけばいつも隣にいた。幼い頃はやんちゃだった彼も、今は令嬢たちに絶大な人気を誇るほど逞しく素敵な青年に成長している。頭も良く、騎士の資格も持つ彼は、ヴァレリーの家の近くの広大で肥沃な領地の跡取りである。彼の妻になりたいと、数多くの縁談が彼の家に毎日のように舞い込んでいると聞いていた。
「ロラン様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、ヴァレリーもおめでとう」
「ありがとうございます」
そんな素敵な彼は、ひとりでポツンと壁際で立っているヴァレリーをわざわざ探し出してここまで来たようだ。幼馴染とはいえ、別れも惜しむかのように彼に話しかけたがっている人々じゃなく、ここに来たのはなぜだろうと小首をかしげる。すると、彼はヴァレリーに向かいそっと手を差し伸べた。
「ヴァレリー、お前のご両親には以前から申し込んでいたんだ。だけど、学園の卒業まではダメだと許しては頂けず。お前の家族から、ヴァレリーの気持ち次第と言われていたのもあって今日まで待っていた。学園では、ほとんど毎日のように一緒にいただろう? 卒業してからはそういうわけにはいかない。お前も、その……お、俺の事を少なからず想ってくれていると思う。だから、このまま見知らぬ男の元に嫁ぐんじゃなくて、どうか俺の妻になってくれないか?」
「……ロラン様」
ヴァレリーは、今目の前で起こった事が信じられなかった。どう考えてもおかしい、これは嘘か何かに違いないと思うほど。
ヴァレリーは整ってはいるけれど、父に似てきつい顔立ちをしている。何もしていないのに、誰かを見つめるだけで睨まれたと勘違いされては避けられた。幼少期からそんな感じだったので、すっかり引っ込み思案になり自分に自信がない。
兄と姉は、美しい母に似てとても綺麗だ。兄は優美で賢く次期辺境伯としての能力をすでに兼ね備えているし、姉は快活で物おじしない彼女はどこにいっても人気者だ。二人はそれぞれすでに結婚相手がいる。
父と母は、充分かわいらしいのにそんな兄と姉の影に隠れたかのように本を好み一人で本を抱えて野草を探すようなヴァレリーの事を心配していた。二人とも、子供たちには想いを寄せた相手と一緒になってもらいたいと考えている。大人しいヴァレリーには、同じような地味で引っ込み思案な可愛らしい友達が数人いるだけで、この年まで恋を知らずにいた。
いい加減お相手を見つけないといけない
と、学園では男の子たちにちらっと眼を向けようとした。
だけど、彼女には誰一人として異性の友達すらできなかった。それもそのはず、ロランが常に彼女の側にいて構ってくるからだ。周囲からは、幼馴染以上の関係だろうと思われており、ロランに恋をしている令嬢たちから意地悪をされる事もしばしばあった。
ロランと一緒にいたら、もっといじめられてしまうと思い、単なる幼馴染だからと彼からも出来る限り逃げ続けていたのである。
「なんで……?」
やっと、口が動いたかと思えば、たった三文字だった。何をどう考えても、綺麗で素敵な令嬢をよりどりみどりな彼が、こんな自分にそんな風に言う理由がわからなかった。
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