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世話焼きコアラ
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「アイリスがなんだって言うんだよ……」
ミストのあまりの焦燥具合と、他ならぬ俺を暗殺ユーカリによる毒殺しようとした人間の事だったので興味を惹かれた。
一瞬、時々見せる幸せそうな微笑みや、今朝、俺へのお礼だとユーカリ入りラップを持って来た時の、照れながら差し出した可愛い姿が一瞬頭がよぎる。最近は落ち込み悲しんでいたけれど、少しずつ笑みが戻って来ていた彼女のはにかんだ表情を思い出すと心が騒めく。が、決してアイリス自身に含むところはない。これっぽっちも。当然だ、うん)
彼女からもらったお菓子やココナツジュースを飲んだ後、満腹で幸せな気分で眠ろうと思っていたのに水をさされて機嫌が悪くなってしまう。
ミストもミストだ。俺が気持ちよく眠ろうとしているのに、邪魔をするなど非常識にもほどがある。
前を駆けるミストの後を追う。かなり焦っているようだ。
今は春休み中で、学園に残っているのはごく僅かだ。自分も家に帰ろうかと思っていたが、アイリスがくれた食べ物を食べたせいで非常に眠くなったため、明日帰省しようと考えていた。
「ジョアンが残っていてくれて助かったよ。残っている学生は、全員眠っているからね」
「俺だって、今まさに眠ろうとしていたんだが」
ぶちぶち文句を言うが、彼女のことが気になって仕方がない。急いでアイリスのもとに向かっているものの、少しのんびりした口調だったので、状況がわかららずイラッとする。
「まあまあ、そう言うなって。お前、アイリスと仲が良かっただろ?」
「仲が良いだって?」
俺とアイリスが話をしたのは、片手でも余る。先日いろいろあったが、彼女との接点はそれだけだ。
「違うのか? お前ら、しょっちゅうユーカリの木のベンチで……」
「あれは、アイリスが勝手にベンチに座っていただけだ。俺は、上で寝ていただけ。ほぼ無関係だぞ」
事実をパシッと言い放つ。人間の、しかも女と仲が良いだなんて、勘違いされていたとはいえ、考えるだけでもぞっとする。
「そうだったのか? だが、この際それはどうでもいい。ジョアンに相談があるんだ」
「どうでもいいのかよ。で、相談って?」
保健室に向かう途中、彼女が予定を早めて帰ってきたことを教えられた。しかも、出発してすぐにこちらに戻ってきたのだから、家にいたのはほんの僅かな時間だろうということだった。
「彼女、今回も婚約者に会えるって喜んで帰っただろ? なのに、真夜中に帰ってきた上に、泣いていて倒れたんだ」
「こんやくしゃぁっ? アイリスに、婚約者がいたっていうのかよ」
なんと、あのすぐにも死んでしまいそうなほど虚弱な存在である彼女には婚約者がいたらしい。つまり、そのうちそいつと結婚して子供を産むということだ。
(アイリスが結婚……。あの体で出産できるのか? 出産どろこか、妊娠も耐えれないんじゃ?)
人間の女は、魔法が使える。だから、あんな貧弱な体でも出産できるという。だが、彼女は魔法を使えないはずだ。結婚して妊娠出産するなど、不可能に近いだろう。
他人事ながら、彼女のことが心配になる。おそらくは、人間の国の政略結婚っていうアホらしい取り決めだろうが、そんなことのために命を投げ出すようなことになるなど、彼女のことを非常に気の毒に思った。
「そこ? 気にするところは、そこなのか? アイリスに婚約者がいることは有名な話だぞ」
「いやいや、初耳でびっくりしただけだ。そんなことより、泣いてただって? 怪我でもしているのか? 意識は大丈夫なのか?」
そうだった。未来の心配をしている場合ではない。今も危機的状況に陥っているのだ。ますます彼女の安否が気にかかる。
「もう目が覚めているんだが、落ち込んでいて何もしゃべらないんだ。起きてからゆっくり聞こうにも、眠くもなさそうだし。詳しい事情は、教師には言えないことでも、仲が良い同じ学生なら言いにくいことも言うじゃないかって思ってな。あいにく、ウォンたちは帰省してしまっていて。お前ならって思ったんだが、無関係じゃしょうがないな……ユーカリに戻って眠っていいぞ」
「ちょ、そんな話を聞いて、無関係とか言えねぇだろ! アイリスは、すぐに死ぬようなひ弱な人間なんだ。倒れたって言ってたが、骨折とか大丈夫なのかよ。全く、俺に話をするかわっかんねえが、一応、聞いてみてやるよ」
俺は、ベッドの上で全身ギプスや包帯だらけになっている姿を思い浮かべた。ミストたちが頼りにならないのなら、俺がすぐに病院につれていかねばと足を速める。
「ジョアン、落ち着け。体は大丈夫そうだから、安心していいと思う。でも、そうか。ジョアンなら、人間嫌いでも、なんだかんだで彼女を放っておけないと思ったんだ。助かったよ」
「ちっ。無事ならいいけどよ……」
どうやら命に別状はないようだ。ひとまずほっとして、話しをした。そうしているうちに、彼女がいる部屋にたどり着く。
部屋の中から、すすり泣きの声がかすかに耳に入った。
「アイリス、入るよ」
「はい……っ」
ミストがノックをすると、涙を拭いているのか、シュッとティッシュが数枚抜き取られる音がした。
ミストのあまりの焦燥具合と、他ならぬ俺を暗殺ユーカリによる毒殺しようとした人間の事だったので興味を惹かれた。
一瞬、時々見せる幸せそうな微笑みや、今朝、俺へのお礼だとユーカリ入りラップを持って来た時の、照れながら差し出した可愛い姿が一瞬頭がよぎる。最近は落ち込み悲しんでいたけれど、少しずつ笑みが戻って来ていた彼女のはにかんだ表情を思い出すと心が騒めく。が、決してアイリス自身に含むところはない。これっぽっちも。当然だ、うん)
彼女からもらったお菓子やココナツジュースを飲んだ後、満腹で幸せな気分で眠ろうと思っていたのに水をさされて機嫌が悪くなってしまう。
ミストもミストだ。俺が気持ちよく眠ろうとしているのに、邪魔をするなど非常識にもほどがある。
前を駆けるミストの後を追う。かなり焦っているようだ。
今は春休み中で、学園に残っているのはごく僅かだ。自分も家に帰ろうかと思っていたが、アイリスがくれた食べ物を食べたせいで非常に眠くなったため、明日帰省しようと考えていた。
「ジョアンが残っていてくれて助かったよ。残っている学生は、全員眠っているからね」
「俺だって、今まさに眠ろうとしていたんだが」
ぶちぶち文句を言うが、彼女のことが気になって仕方がない。急いでアイリスのもとに向かっているものの、少しのんびりした口調だったので、状況がわかららずイラッとする。
「まあまあ、そう言うなって。お前、アイリスと仲が良かっただろ?」
「仲が良いだって?」
俺とアイリスが話をしたのは、片手でも余る。先日いろいろあったが、彼女との接点はそれだけだ。
「違うのか? お前ら、しょっちゅうユーカリの木のベンチで……」
「あれは、アイリスが勝手にベンチに座っていただけだ。俺は、上で寝ていただけ。ほぼ無関係だぞ」
事実をパシッと言い放つ。人間の、しかも女と仲が良いだなんて、勘違いされていたとはいえ、考えるだけでもぞっとする。
「そうだったのか? だが、この際それはどうでもいい。ジョアンに相談があるんだ」
「どうでもいいのかよ。で、相談って?」
保健室に向かう途中、彼女が予定を早めて帰ってきたことを教えられた。しかも、出発してすぐにこちらに戻ってきたのだから、家にいたのはほんの僅かな時間だろうということだった。
「彼女、今回も婚約者に会えるって喜んで帰っただろ? なのに、真夜中に帰ってきた上に、泣いていて倒れたんだ」
「こんやくしゃぁっ? アイリスに、婚約者がいたっていうのかよ」
なんと、あのすぐにも死んでしまいそうなほど虚弱な存在である彼女には婚約者がいたらしい。つまり、そのうちそいつと結婚して子供を産むということだ。
(アイリスが結婚……。あの体で出産できるのか? 出産どろこか、妊娠も耐えれないんじゃ?)
人間の女は、魔法が使える。だから、あんな貧弱な体でも出産できるという。だが、彼女は魔法を使えないはずだ。結婚して妊娠出産するなど、不可能に近いだろう。
他人事ながら、彼女のことが心配になる。おそらくは、人間の国の政略結婚っていうアホらしい取り決めだろうが、そんなことのために命を投げ出すようなことになるなど、彼女のことを非常に気の毒に思った。
「そこ? 気にするところは、そこなのか? アイリスに婚約者がいることは有名な話だぞ」
「いやいや、初耳でびっくりしただけだ。そんなことより、泣いてただって? 怪我でもしているのか? 意識は大丈夫なのか?」
そうだった。未来の心配をしている場合ではない。今も危機的状況に陥っているのだ。ますます彼女の安否が気にかかる。
「もう目が覚めているんだが、落ち込んでいて何もしゃべらないんだ。起きてからゆっくり聞こうにも、眠くもなさそうだし。詳しい事情は、教師には言えないことでも、仲が良い同じ学生なら言いにくいことも言うじゃないかって思ってな。あいにく、ウォンたちは帰省してしまっていて。お前ならって思ったんだが、無関係じゃしょうがないな……ユーカリに戻って眠っていいぞ」
「ちょ、そんな話を聞いて、無関係とか言えねぇだろ! アイリスは、すぐに死ぬようなひ弱な人間なんだ。倒れたって言ってたが、骨折とか大丈夫なのかよ。全く、俺に話をするかわっかんねえが、一応、聞いてみてやるよ」
俺は、ベッドの上で全身ギプスや包帯だらけになっている姿を思い浮かべた。ミストたちが頼りにならないのなら、俺がすぐに病院につれていかねばと足を速める。
「ジョアン、落ち着け。体は大丈夫そうだから、安心していいと思う。でも、そうか。ジョアンなら、人間嫌いでも、なんだかんだで彼女を放っておけないと思ったんだ。助かったよ」
「ちっ。無事ならいいけどよ……」
どうやら命に別状はないようだ。ひとまずほっとして、話しをした。そうしているうちに、彼女がいる部屋にたどり着く。
部屋の中から、すすり泣きの声がかすかに耳に入った。
「アイリス、入るよ」
「はい……っ」
ミストがノックをすると、涙を拭いているのか、シュッとティッシュが数枚抜き取られる音がした。
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