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白いドアに向かう時
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結局、相手を決めることなく20歳になったマリアは、体験授業か施設に行くか、どちらかを選ばなくてはならなくなった。今更、家族が準備するお見合い相手と結婚する事は許されない。
すでに、マリアの情報は独身男性たちに配られており、中には、マリアをずっと恋い慕い、諦めきれなかった男たちもいるのである。
マリアが体験授業をする事になり、希望する男たちは空前絶後の人数となった。エントリーするためのサーバーは、世界中から一斉に申し込みが殺到し、復旧に3日ほどかかるほど。
そもそも、体験授業自体が珍しいのである。
体験授業をする場合、まずは、政府が用意した1000以上の設問を解き、マリアと性格、家柄、体型、容姿など、ありとあらゆる面で相性のいい人物を選ぶところから始まる。
健康で優秀なDNAを持っている事は当たり前で、マリアのように、希望者が多数の場合、それら男性たちは本試験前に、出自や容姿、経済力などで大多数が振り落とされる。
よって、体験授業をマリアがする相手の候補者は、絞りに絞られ、どの相手も申し分のない人物になった。
体験授業は、初日に選ばれた3人と最終的に実際に会う事で相性を確かめる。それでうまくいかない相手がいれば、次の候補者がマリアの相手として次回の体験授業に現れるのだ。勿論、初日に出会う3人を夫候補として迎える事になれば、次の機会を狙う人物たちには体験授業でのチャンスがなくなる。
恐らく、初日の3人を選ばないで欲しいと望む男たちも大勢いるだろう。もしも、決まってしまえば第四以降の夫として、結婚後に彼らを通して縁談を申し込むだけだ。
その中には、法には触れない程度に強引に事を進めようとする人物も含まれているだろうし、そういった相手からも守れるだけの権力をも有するのがマリアの相手たちなのである。
「マリア、頑張ってね」
「スミレ……。ううう、行きたくないよぉ。なんなのよ、学生だからって授業だなんて、ふざけてるわっ!」
「まだ、そんな往生際の悪い事を言って! 施設に行かされちゃうわよ? ほら、お相手たちは安心できる人たちが選ばれてるんだから。ね?」
誕生日当日、まだ卒業前なのでスミレに側にいてもらいなんとか心を落ち着かせようと試みるが、緊張は増すばかり。勿論、スミレの未来の夫たちも側にいる。彼らは、マリアを励ます優しいスミレを背後から見て、ますます惚れ直したと言わんばかりに感動しているようだ。
「マリア・エヴァンスさん。時間ですよ」
「は、はい……!」
震える足を、両手で支えながら立ち上がる。不安を隠せていない瞳でスミレを見ると、スミレも立ち上がり抱きしめてくれた。
「マリア、大丈夫だからね? きっと皆さん、私の未来の夫たちのように優しくしてくれるわ? ねえ、マリア。ドアの向こうには、マリアを心から望んでくれている人たちばかりよ。だから、彼らに任せていたら大丈夫だから」
「うん、うん……!」
スミレと、スミレを溺愛している、先ほどの彼女の言葉に感動している夫候補(卒業後夫確定)たちに見送られ、マリアは政府がセッティングした場所へ移動していった。
「マリアさんとお呼びしても?」
「あ、はい」
「私は、体験授業を担当するしがない役人ですが、マリアさんがこれからお会いする男性たちは、我々のテストをトップクラスで合格した人物たちです。もちろん、精神的にも安定し、マリアさんの人となりも全て知っています」
「はい、聞いています……」
「で、ですね。本日の相手方は、マリアさんと面識があるようですよ? もしもあなたが、エヴァンス家の出自でなくてもかまわないと本心で思っているそうです。それは、テストが証明していますし、先ほどのご友人が言われたように、安心してドアをくぐってくださいね?」
「……はい。ありがとうございます」
付き添いの人は、マリアの態度に目を丸くしてまじまじと彼女を見降ろした。
「本当に、あなたは珍しいですね。あなたのような方は久しぶりに見ました。彼らもそりゃあ必死になるはずです」
「え?」
「知っての通り、この体験授業を受ける女性は少ないんですよ。それに、これを受ける人物は、たとえ女性であっても、あまり男性にとっては魅力を感じないタイプが多くてですね」
「は? はあ……」
「あなたの事は、当局も調べさせていただいたのです。一人の夫がいいそうですね? ですが、それは許されません。在学中のあなたの生活態度や言動、そして評判を聞くにつれて、今まで相手がいなかったのが不思議なくらいです」
「はい……。すみません」
「ああ、責めているわけではないんですよ? そのように望む女性は少ないとはいえ、あなたの他にもいますからね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ですが、皆さん諦めて在学中に3人決められます。体験授業のように、誰ともしれない相手とと思えば、見知った相手のほうがいいと考えるからでしょうね」
「ですよね……」
「マリアさん、あなたはとても運がいい。今日の相手は、きっとあなたを幸せにしてくれるでしょう」
「え?」
「では、私はこれで。どうぞ、お幸せに」
「あ……。あの、ありがとうございました」
どういたしまして、と、微笑みながら去って行く背を見ていたが、視線を白いドアに向けた。
──このドアの向こうに、私の相手たちがいる……。ううう、せめて、せめて経験を一度くらいはしておけば良かった……!
震える足、冷たくなった指先。マリアは、きゅっと唇を噛んで、そっとドアに細い指先を触れさせたのであった。
すでに、マリアの情報は独身男性たちに配られており、中には、マリアをずっと恋い慕い、諦めきれなかった男たちもいるのである。
マリアが体験授業をする事になり、希望する男たちは空前絶後の人数となった。エントリーするためのサーバーは、世界中から一斉に申し込みが殺到し、復旧に3日ほどかかるほど。
そもそも、体験授業自体が珍しいのである。
体験授業をする場合、まずは、政府が用意した1000以上の設問を解き、マリアと性格、家柄、体型、容姿など、ありとあらゆる面で相性のいい人物を選ぶところから始まる。
健康で優秀なDNAを持っている事は当たり前で、マリアのように、希望者が多数の場合、それら男性たちは本試験前に、出自や容姿、経済力などで大多数が振り落とされる。
よって、体験授業をマリアがする相手の候補者は、絞りに絞られ、どの相手も申し分のない人物になった。
体験授業は、初日に選ばれた3人と最終的に実際に会う事で相性を確かめる。それでうまくいかない相手がいれば、次の候補者がマリアの相手として次回の体験授業に現れるのだ。勿論、初日に出会う3人を夫候補として迎える事になれば、次の機会を狙う人物たちには体験授業でのチャンスがなくなる。
恐らく、初日の3人を選ばないで欲しいと望む男たちも大勢いるだろう。もしも、決まってしまえば第四以降の夫として、結婚後に彼らを通して縁談を申し込むだけだ。
その中には、法には触れない程度に強引に事を進めようとする人物も含まれているだろうし、そういった相手からも守れるだけの権力をも有するのがマリアの相手たちなのである。
「マリア、頑張ってね」
「スミレ……。ううう、行きたくないよぉ。なんなのよ、学生だからって授業だなんて、ふざけてるわっ!」
「まだ、そんな往生際の悪い事を言って! 施設に行かされちゃうわよ? ほら、お相手たちは安心できる人たちが選ばれてるんだから。ね?」
誕生日当日、まだ卒業前なのでスミレに側にいてもらいなんとか心を落ち着かせようと試みるが、緊張は増すばかり。勿論、スミレの未来の夫たちも側にいる。彼らは、マリアを励ます優しいスミレを背後から見て、ますます惚れ直したと言わんばかりに感動しているようだ。
「マリア・エヴァンスさん。時間ですよ」
「は、はい……!」
震える足を、両手で支えながら立ち上がる。不安を隠せていない瞳でスミレを見ると、スミレも立ち上がり抱きしめてくれた。
「マリア、大丈夫だからね? きっと皆さん、私の未来の夫たちのように優しくしてくれるわ? ねえ、マリア。ドアの向こうには、マリアを心から望んでくれている人たちばかりよ。だから、彼らに任せていたら大丈夫だから」
「うん、うん……!」
スミレと、スミレを溺愛している、先ほどの彼女の言葉に感動している夫候補(卒業後夫確定)たちに見送られ、マリアは政府がセッティングした場所へ移動していった。
「マリアさんとお呼びしても?」
「あ、はい」
「私は、体験授業を担当するしがない役人ですが、マリアさんがこれからお会いする男性たちは、我々のテストをトップクラスで合格した人物たちです。もちろん、精神的にも安定し、マリアさんの人となりも全て知っています」
「はい、聞いています……」
「で、ですね。本日の相手方は、マリアさんと面識があるようですよ? もしもあなたが、エヴァンス家の出自でなくてもかまわないと本心で思っているそうです。それは、テストが証明していますし、先ほどのご友人が言われたように、安心してドアをくぐってくださいね?」
「……はい。ありがとうございます」
付き添いの人は、マリアの態度に目を丸くしてまじまじと彼女を見降ろした。
「本当に、あなたは珍しいですね。あなたのような方は久しぶりに見ました。彼らもそりゃあ必死になるはずです」
「え?」
「知っての通り、この体験授業を受ける女性は少ないんですよ。それに、これを受ける人物は、たとえ女性であっても、あまり男性にとっては魅力を感じないタイプが多くてですね」
「は? はあ……」
「あなたの事は、当局も調べさせていただいたのです。一人の夫がいいそうですね? ですが、それは許されません。在学中のあなたの生活態度や言動、そして評判を聞くにつれて、今まで相手がいなかったのが不思議なくらいです」
「はい……。すみません」
「ああ、責めているわけではないんですよ? そのように望む女性は少ないとはいえ、あなたの他にもいますからね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ですが、皆さん諦めて在学中に3人決められます。体験授業のように、誰ともしれない相手とと思えば、見知った相手のほうがいいと考えるからでしょうね」
「ですよね……」
「マリアさん、あなたはとても運がいい。今日の相手は、きっとあなたを幸せにしてくれるでしょう」
「え?」
「では、私はこれで。どうぞ、お幸せに」
「あ……。あの、ありがとうございました」
どういたしまして、と、微笑みながら去って行く背を見ていたが、視線を白いドアに向けた。
──このドアの向こうに、私の相手たちがいる……。ううう、せめて、せめて経験を一度くらいはしておけば良かった……!
震える足、冷たくなった指先。マリアは、きゅっと唇を噛んで、そっとドアに細い指先を触れさせたのであった。
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