【完結】【R18】これから、白いドアを開けて体験授業に挑みますっ!

にじくす まさしよ

文字の大きさ
5 / 35

白いドアに向かう時

しおりを挟む
 結局、相手を決めることなく20歳になったマリアは、体験授業か施設に行くか、どちらかを選ばなくてはならなくなった。今更、家族が準備するお見合い相手と結婚する事は許されない。

 すでに、マリアの情報は独身男性たちに配られており、中には、マリアをずっと恋い慕い、諦めきれなかった男たちもいるのである。

 マリアが体験授業をする事になり、希望する男たちは空前絶後の人数となった。エントリーするためのサーバーは、世界中から一斉に申し込みが殺到し、復旧に3日ほどかかるほど。

  そもそも、体験授業自体が珍しいのである。

 体験授業をする場合、まずは、政府が用意した1000以上の設問を解き、マリアと性格、家柄、体型、容姿など、ありとあらゆる面で相性のいい人物を選ぶところから始まる。

 健康で優秀なDNAを持っている事は当たり前で、マリアのように、希望者が多数の場合、それら男性たちは本試験前に、出自や容姿、経済力などで大多数が振り落とされる。

 よって、体験授業をマリアがする相手の候補者は、絞りに絞られ、どの相手も申し分のない人物になった。

 体験授業は、初日に選ばれた3人と最終的に実際に会う事で相性を確かめる。それでうまくいかない相手がいれば、次の候補者がマリアの相手として次回の体験授業に現れるのだ。勿論、初日に出会う3人を夫候補として迎える事になれば、次の機会を狙う人物たちには体験授業でのチャンスがなくなる。

 恐らく、初日の3人を選ばないで欲しいと望む男たちも大勢いるだろう。もしも、決まってしまえば第四以降の夫として、結婚後に彼らを通して縁談を申し込むだけだ。
 その中には、法には触れない程度に強引に事を進めようとする人物も含まれているだろうし、そういった相手からも守れるだけの権力をも有するのがマリアの相手たちなのである。


「マリア、頑張ってね」
「スミレ……。ううう、行きたくないよぉ。なんなのよ、学生だからって授業だなんて、ふざけてるわっ!」
「まだ、そんな往生際の悪い事を言って! 施設に行かされちゃうわよ? ほら、お相手たちは安心できる人たちが選ばれてるんだから。ね?」

 誕生日当日、まだ卒業前なのでスミレに側にいてもらいなんとか心を落ち着かせようと試みるが、緊張は増すばかり。勿論、スミレの未来の夫たちも側にいる。彼らは、マリアを励ます優しいスミレを背後から見て、ますます惚れ直したと言わんばかりに感動しているようだ。

「マリア・エヴァンスさん。時間ですよ」
「は、はい……!」

 震える足を、両手で支えながら立ち上がる。不安を隠せていない瞳でスミレを見ると、スミレも立ち上がり抱きしめてくれた。

「マリア、大丈夫だからね? きっと皆さん、私の未来の夫たちのように優しくしてくれるわ? ねえ、マリア。ドアの向こうには、マリアを心から望んでくれている人たちばかりよ。だから、彼らに任せていたら大丈夫だから」
「うん、うん……!」

 スミレと、スミレを溺愛している、先ほどの彼女の言葉に感動している夫候補(卒業後夫確定)たちに見送られ、マリアは政府がセッティングした場所へ移動していった。

「マリアさんとお呼びしても?」
「あ、はい」
「私は、体験授業を担当するしがない役人ですが、マリアさんがこれからお会いする男性たちは、我々のテストをトップクラスで合格した人物たちです。もちろん、精神的にも安定し、マリアさんの人となりも全て知っています」
「はい、聞いています……」
「で、ですね。本日の相手方は、マリアさんと面識があるようですよ? もしもあなたが、エヴァンス家の出自でなくてもかまわないと本心で思っているそうです。それは、テストが証明していますし、先ほどのご友人が言われたように、安心してドアをくぐってくださいね?」
「……はい。ありがとうございます」

 付き添いの人は、マリアの態度に目を丸くしてまじまじと彼女を見降ろした。


「本当に、あなたは珍しいですね。あなたのような方は久しぶりに見ました。彼らもそりゃあ必死になるはずです」
「え?」
「知っての通り、この体験授業を受ける女性は少ないんですよ。それに、これを受ける人物は、たとえ女性であっても、あまり男性にとっては魅力を感じないタイプが多くてですね」
「は? はあ……」
「あなたの事は、当局も調べさせていただいたのです。一人の夫がいいそうですね? ですが、それは許されません。在学中のあなたの生活態度や言動、そして評判を聞くにつれて、今まで相手がいなかったのが不思議なくらいです」
「はい……。すみません」
「ああ、責めているわけではないんですよ? そのように望む女性は少ないとはいえ、あなたの他にもいますからね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ですが、皆さん諦めて在学中に3人決められます。体験授業のように、誰ともしれない相手とと思えば、見知った相手のほうがいいと考えるからでしょうね」
「ですよね……」
「マリアさん、あなたはとても運がいい。今日の相手は、きっとあなたを幸せにしてくれるでしょう」
「え?」
「では、私はこれで。どうぞ、お幸せに」
「あ……。あの、ありがとうございました」

 どういたしまして、と、微笑みながら去って行く背を見ていたが、視線を白いドアに向けた。


──このドアの向こうに、私の相手たちがいる……。ううう、せめて、せめて経験を一度くらいはしておけば良かった……!


 震える足、冷たくなった指先。マリアは、きゅっと唇を噛んで、そっとドアに細い指先を触れさせたのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました

えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。 同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。 聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。 ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。 相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。 けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。 女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。 いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。 ――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。 彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。 元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...