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第一の男
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ブゥンと機械の音がすると、すっと白いドアが消えた。マリアは震える足を叱咤して部屋に入る。すると、背後のドアが再び現れて入口が閉じられた事を悟る。
「ひっ!」
こうなると、この部屋で体験授業をしなければドアが開かない。相手がよっぽど猟奇的な人間で命の危険でもないかぎり。
だが、ここは体験授業の場。
選りすぐりの心身、社会的に健全な男たちしかいないのだ。
マリアは、後ろを振り返って、硬く閉ざされた白いドアを見て世界から取り残されたような絶望感を味わう。
「あ、あ……」
怖い、怖くてたまらず口がわななき涙が溢れて来る。
「グス……ッ」
やはり、お見合いや、これまでであった人たちから選べば良かったと後悔するけれどもう遅い。
数分、俯いて現実逃避をしていたが、ゆっくりと部屋の中を進んだ。
「ここは、リビング……?」
10畳ほどの空間には応接室のように家具が揃えられており、ソファや机、落ち着いた調度品が置かれていた。その向こう側に4つ、さらに白いドアがある。
「あっちの部屋の一つずつに、きっと相手の人たちがいるのよね……」
緊張のため、唾液が一滴もないのにこくりと咽を動かして飲み込む。ここからどうしていいのかさっぱりわからない。とにかく白いドアをくぐればいいとだけ聞かされていた。相手の素性は隠されていて、どんな相手なのかも知らないのだ。
いきなりドアが全部開いて寝室に連れていかれるとか……?
「ううう、どうしたらいいのかしら……」
不安で心がいっぱいになっており、ふらつく体をなんとか動かしてとりあえずソファに腰を下ろした。
すると、白いドアの一つ、一番右側から少し年上に見える背の高い男性が現れた。
「……!」
とうとう来ちゃったと思い、心と体が震え出す。ただ、一人だけのようでホッとした。
相手はマリアをじっと見つめながら、それでも優しい光を灯した瞳でこちらにゆっくりと歩みを進めた。
「マリア・エヴァンス嬢。私はアーロン、アーロン・トンプソンと言う……、言います。現在23歳で、あなたの3つほど上です。残りの二人はまた後で現れます。私たちは、先ずは貴女と一対一で話をしたくて。嫌でしたらすぐに二人を呼びますが……」
「いえ、あの、私としてもその方が嬉しい、です……」
マリアはアーロンの願いに、ひょっとしたら相手方の気遣いかもしれないと思い、ぶんぶんと頭を縦に何度も振った。とてもありがたい。いきなり四人でベッドインじゃなくて本当に良かった……!
「良かった。実は、一度お会いした事がありますが覚えていてくれると嬉しいのですが……」
腰にずしりと響くような低いバリトンのような声。鍛えているのか首も太く、胸板も厚い。フォーマルスーツに身を包んでいるが、それが窮屈そうなほど腕や太ももの生地がパツンパツンにもりあがっている。
一見、怖そうな相手ではあるけれども、柔らかい明るめのブラウンの髪に、はちみつを溶かし込んだような紅茶色の瞳、やや肉厚の唇から出される言葉はとても安心できるほど丁寧でマリアを気遣ってくれているのがわかった。
ただ、マリアには数えきれないほどの求婚者がおり、目の前の彼の事を思いだせない。
「あ、の……。すみません……」
「ははは、覚えてなくて当然ですよ。あなたには沢山の求婚者がいましたし、当時の私はどちらかと言えば痩せていてチビでしたから。それに、求婚者としてあなたに会った訳でもないのです」
「え?」
マリアは、自称痩せてチビだったという男をマジマジと見た。どう考えてもそのようには見えない。それに、彼の名乗ったトンプソンという名前に心当たりがありすぎて、正直なところ自分みたいな人間が彼の相手でいいのか、別の不安が押し寄せた。
「そう見つめられると照れてしまうが……」
「あ、ごめんなさいっ!」
頭に、大きな手の平を当てて照れくさそうに微笑む彼の姿を見て、体中に入っていた力がいつの間にかなくなっていた。やわらかく、ホッとするような雰囲気になり、相手の話も楽しいため、マリアは徐々に緊張を解いていった。
「ひっ!」
こうなると、この部屋で体験授業をしなければドアが開かない。相手がよっぽど猟奇的な人間で命の危険でもないかぎり。
だが、ここは体験授業の場。
選りすぐりの心身、社会的に健全な男たちしかいないのだ。
マリアは、後ろを振り返って、硬く閉ざされた白いドアを見て世界から取り残されたような絶望感を味わう。
「あ、あ……」
怖い、怖くてたまらず口がわななき涙が溢れて来る。
「グス……ッ」
やはり、お見合いや、これまでであった人たちから選べば良かったと後悔するけれどもう遅い。
数分、俯いて現実逃避をしていたが、ゆっくりと部屋の中を進んだ。
「ここは、リビング……?」
10畳ほどの空間には応接室のように家具が揃えられており、ソファや机、落ち着いた調度品が置かれていた。その向こう側に4つ、さらに白いドアがある。
「あっちの部屋の一つずつに、きっと相手の人たちがいるのよね……」
緊張のため、唾液が一滴もないのにこくりと咽を動かして飲み込む。ここからどうしていいのかさっぱりわからない。とにかく白いドアをくぐればいいとだけ聞かされていた。相手の素性は隠されていて、どんな相手なのかも知らないのだ。
いきなりドアが全部開いて寝室に連れていかれるとか……?
「ううう、どうしたらいいのかしら……」
不安で心がいっぱいになっており、ふらつく体をなんとか動かしてとりあえずソファに腰を下ろした。
すると、白いドアの一つ、一番右側から少し年上に見える背の高い男性が現れた。
「……!」
とうとう来ちゃったと思い、心と体が震え出す。ただ、一人だけのようでホッとした。
相手はマリアをじっと見つめながら、それでも優しい光を灯した瞳でこちらにゆっくりと歩みを進めた。
「マリア・エヴァンス嬢。私はアーロン、アーロン・トンプソンと言う……、言います。現在23歳で、あなたの3つほど上です。残りの二人はまた後で現れます。私たちは、先ずは貴女と一対一で話をしたくて。嫌でしたらすぐに二人を呼びますが……」
「いえ、あの、私としてもその方が嬉しい、です……」
マリアはアーロンの願いに、ひょっとしたら相手方の気遣いかもしれないと思い、ぶんぶんと頭を縦に何度も振った。とてもありがたい。いきなり四人でベッドインじゃなくて本当に良かった……!
「良かった。実は、一度お会いした事がありますが覚えていてくれると嬉しいのですが……」
腰にずしりと響くような低いバリトンのような声。鍛えているのか首も太く、胸板も厚い。フォーマルスーツに身を包んでいるが、それが窮屈そうなほど腕や太ももの生地がパツンパツンにもりあがっている。
一見、怖そうな相手ではあるけれども、柔らかい明るめのブラウンの髪に、はちみつを溶かし込んだような紅茶色の瞳、やや肉厚の唇から出される言葉はとても安心できるほど丁寧でマリアを気遣ってくれているのがわかった。
ただ、マリアには数えきれないほどの求婚者がおり、目の前の彼の事を思いだせない。
「あ、の……。すみません……」
「ははは、覚えてなくて当然ですよ。あなたには沢山の求婚者がいましたし、当時の私はどちらかと言えば痩せていてチビでしたから。それに、求婚者としてあなたに会った訳でもないのです」
「え?」
マリアは、自称痩せてチビだったという男をマジマジと見た。どう考えてもそのようには見えない。それに、彼の名乗ったトンプソンという名前に心当たりがありすぎて、正直なところ自分みたいな人間が彼の相手でいいのか、別の不安が押し寄せた。
「そう見つめられると照れてしまうが……」
「あ、ごめんなさいっ!」
頭に、大きな手の平を当てて照れくさそうに微笑む彼の姿を見て、体中に入っていた力がいつの間にかなくなっていた。やわらかく、ホッとするような雰囲気になり、相手の話も楽しいため、マリアは徐々に緊張を解いていった。
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