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彼が作る私だけのオムライス ※ 終

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 あふれる多幸感の中、はふはふ息を繰り返していると、汗ばんだ肌にすっぽり上から抱きしめられている事に気付いた。ひろしさんが、身動き一つせず、私が落ち着くまでこうしてじっとしてくれていたんだと思うと、胸がじぃんと温かくなり、私をもっともっと限界知らずの幸せへと導く。

 彼のが入っている中は、じんじんするけれど、初めの頃の引き裂かれるような激痛までは無くなっていた。

「ひろしさん、わ、私、大丈夫ですから」

「……はぁ。またそんな事を言って。それ以上言うと、容赦が出来なくなるから黙って」

 でも、動いていい?って右耳の近くで吐息と共にそう聞かれた。ぞわぞわしてくすぐったくなりつつ、コクリと頷く。

 私に密着していた彼が離れて、腰がゆっくり引かれる。じんじんしていた所が、またひりひりピリピリしたけど、大丈夫そう。
  覚悟していた激痛がないので、ほっとして、力いっぱいしがみ付いていた腕と手を、盛り上がる肩に乗せた。柔らかい皮膚の下に、丸みを帯びたカチコチの筋肉があるのがわかる。

 私の目をしっかり見つめながら、抜けそうになる手前まで引き抜いた後、少しだけスピードを速めてまた奥を目指すように腰が近づく。私の黒色が、彼のそれとくっついては離れるカウントがゆっくり増えた。

 私が痛くないようにゆっくりしてくれている事が、私をどれほど好きなのかを伝えてくれているようで、心が彼の愛で満たされる。
 

「ひろしさん、本当に大丈夫だから……」

「良かった……」

 私の中が気持ち良すぎるから今度から厚めのやつにしないと、と多分私に聞かれてるとは思っていないだろう彼の呟きが耳に届く。

 肌を打つ高い音が絶えまなく響くと、体が激しく揺さぶられ、もう何も考えられなくなった。気持ち良さそうな彼の表情を視界に捉えた瞬間、摩擦でじんじんしていたはずなのに、なんだかお腹の奥底が変なもぞもぞした感覚が小さく生まれる。

「あっ、あっ」

 自分ではコントロールできない言葉になっていない声が、ずちゅんと貫かれる度に漏れる。いやらしい彼の腰の動きに合わせて、私まで淫らな女の子になったみたいで恥ずかしい。だけど、なんだか嬉しくて、汗ばむ彼のむせ返るような色香に酔った。

「ゆかりちゃん、もうすぐで終わるから……」

 これが初めての体験なのに、何が、なんて聞かなくてもわかる。上がっていた彼の上半身が降りてきて、私の首筋に顔を埋めたかと思うと、一番敏感でとっくに剥き出しにされた場所に指先が触れきゅっと軽くつままれた。

「ああっ!」

 事前に、たっぷり丁寧にいじられたコリコリが、彼の指を待ちわびていたかのように一瞬で体中に快楽を思い出させた。胸がのけ反り、きゅうんと全身に力が入る。
 初めてなのに、こうしてイっちゃうのってエッチな証拠だって高校のクラスメイトが笑って言ってた事を思い出した。エッチでもなんでも、彼とこうして繋がれる瞬間がとても幸せで、体よりも心が悦んでいる。

  私の気持ちを全部伝えたくて、しがみつくように彼の大きな体に腕を回して言葉を必死に出した。

「ひ、ろしさん、好き、好き……好きなの……」

「ゆかりちゃん、俺も好きだ……!」

 一際大きく肌を打つ音と、衝撃が私を襲う。あんなにも激しく動いていた彼の体が小刻みに震えると、びくっと数回揺れた。薄いゴム越しに、彼が精を放っているのがとても嬉しい。

「はぁ、ゆかりちゃん……。好きだ」

 私を抱きしめながら、奥深くで繋がり合った場所から彼が出て行く。ずるずると最後に刺激されて、感覚が鋭くなりすぎたソコが、またキュって締まった。

「あぁ……」

 私の、思わず漏れ出た声を聞き、そんな風に反応されたら買って来た箱を全部使いきりたくなるとか言われてかぁっと全身の高まった熱がさらに上がった。

 息を整えて、完全に離れた彼の様子をぼんやり見つめる。自分が今どんな格好をしているのかも忘れて、彼が手に持っている、先がぽてって膨らみ重くなったピンクのゴムを縛っているのが、さっきまで本当にシていたのが実感できた。

 ふと、彼のソコを見ると、まだ大きく上を向いている。一回だと足らないのかと思った。

「もう、痛くないし、まだ、大丈夫、デスヨ?」

 何言っちゃってんの、私……って思うほど大胆な言葉が出てしまった。すると、ティッシュで拭こうとしていた彼の手がぴたりと止まって、コンビニの袋から出して開けたばかりのBenetttttttttonって書かれたカラフルな箱をじっと見た。

「ああ、もう……。ほんと、俺の好きな子はこうして滅茶苦茶煽ってくるし、可愛いんだけど。俺がどれほど我慢しているかわかってないな?」

 あと5回は出来るけど、もう少し慣れたらご期待に応えて6回と言わずに、たくさんするからねってキスされた。期待とかじゃないからってよわよわしく反論すると、彼が、いつものように優しく笑った。






 窓の外が白み始めた頃、彼の腕の中で目が覚める。あらぬところが痛い。特に股関節。中もちょっとひりひりするけれど、どちらかというと、体のほうが辛かった。

「あ……」

 あれほど張っていた彼の胸が、やわらかくなっていて、寝息と共に上下している。裸のまま抱きすくめられ、うっとり彼に縋り付いて眠ったんだったっけ。

 ぬるついていた場所を後から拭くと、ちょっとだけ血がついていた。もっと大量に生理の時くらい出血するのかと思っていたんだけど、大した事がなくて良かったと思う。

 今日は、大学の講義も昼から出し、リポーソも定休日だ。午前中いっぱいは彼と一緒にいられると思うと、それだけでとんでもなく幸せでニマニマする。

 彼を起こさないように、そっと身を起こすと、いきなり抱きしめられた。

「きゃ……」

「どこ行くの?」

「え? 寝てたんじゃなかったの?」

「たった今起きたんだ。良かった……。夢じゃなかったんだね。おはよう、ゆかりちゃん」

「おはようございます、ひろしさん」

 うわー、照れくさい。でも、嬉しい。ただ、彼の上に乗っかるように抱きしめられちゃったから、腰の辺りに、ちょんって硬くなったのが当たって、恥ずかしい。

「好きな子が朝起きたとき、ここにいるのってすごい幸せ」

「うん、私も」

 ちゅっちゅってキスをしてひとしきりイチャイチャした後、起き上がった。ひろしさんは、一緒にシャワーをあびるってからかうように聞いて来たけれど、それはご遠慮したい。彼と一緒だと、洗いたいところが洗えないし、何よりも、明るいシャワールームで裸を見せるなんてとても無理。

 彼も、トイレに行きたかったみたいだし、そのまま別れてシャワーを浴びた。しまった、ぼうっとしていたせいか、まだ夢心地が続いているせいなのか、着替えを持ってくるのを忘れた。ぱっぱとバスタオルで体を拭き取り、それ一枚だけを体に巻き付ける。
 それほど大判じゃないから、胸の先っぽギリギリから、足の付け根ギリギリまでしか隠せない。腕と手で、大切な場所を隠しながら、ひろしさんに見つかりませんようにと祈ってドアを開ける。

 でも、服が置いてあるのは、勿論さっきまで彼と一緒にいた部屋だ。トイレに行ったばかりの彼は、そこに当然いるだろう。

「……ゆかり、ちゃん?」

 はい、ドアを開けて部屋に入ると、彼がこちらを見た。とっくに服を着ていた彼がぽかんとした表情で、私のその姿を上から下まで見つめて、特に胸と足の付け根を凝視している。

「あの、服を持って行くの忘れて……み、見ないでくださいぃ……」

「ご、ごめん!」

 恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたいどころの騒ぎじゃない。全身真っ赤になっていると思う。彼が慌てて部屋から出て行ってくれたので、おしゃれな服を選ぶ余裕もなく、普段と同じような服を慌てて着た。

「ひろしさん、お待たせ……」

「あー……いや……」

 どことなく、腰が引けた彼も照れくさそう。なんだかおかしくなって二人で笑った。昨日放置だった汚れた食器を洗い、朝は、適当にごはんとみそ汁、作り置きしていた鮭の西京漬けがあったのでそれを焼いた。

「あ、パンが良かったですか?」

「いや、どっちでもいいけど、こうして彼女の手料理で朝を迎えるなんて初めてで嬉しいな」

「え? 初めてなんですか?」

「うん。恥ずかしながら、こうして彼女が出来たのも初めて」

 そうだった。彼の過去の事は聞いちゃいけないってかおりが言っていた。素敵な人なんだから、数人は彼女がいたのかなって思っていたんだけど。

 そっか、私が初めてなんだ……やだ、どうしよう、滅茶苦茶嬉しい。

 今までで一番嬉しい朝の時間を過ごしたあと、ふたりでアパートから出る。これも初めての経験でくすぐったい。

 彼の運転する車で、まだ少し早いからリポーソに立ち寄った。あっという間にお昼になり、今度は彼が、まだ店には出せないけどと言いながら、フライパンでオムライスを作ってくれる。

 食欲をそそる、新鮮なバターとケチャップ、卵が焼ける香りがあっという間に広がった。

 ケチャップのチキンライスを、薄焼き卵の上に乗せて、くるんとひっくり返ると、どこも破れていないし皺もない綺麗なオムライスが、ふたつの真っ白なお皿に盛られる。

 鮮やかな黄色の上に、真っ赤なケチャップベースのソースがとろりとかけられる。カウンターで彼のその様子を幸せな気分で見ていた私の前に置かれた。



「うわぁ、美味しそう……いただきますっ!」

「どうぞ、召し上がれ」

「これって、もうお店に出せますよ?」

「うーん……。これは出さない事に今決めた」

「え? どうしてです? 絶対にリピーター出来ますって」

「他の人に提供するよりも、ゆかりちゃんに食べて欲しいし、君とこうして食べたいって思ったから」


 いつもは、彼はマスターとして私の事を見ているだけだった。

  これから、ふたり一緒に食べるオムライスは、この間彼に連れて行ってもらったオムライス専門店のものよりも、比べものにならないほど美味しく、私を幸せな気持ちにさせたのであった。









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