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第一章

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 大きな卓の上には沢山の料理が並べられている。

「これで足りるかしら?」

 小百合さんは小首を傾げそんな事を言うものだから僕は思わず顔を引きつらせる。

「何人来る予定なんですか?」
「そうね、国光さんの関係の方が四人、鈴蘭さんの旦那様の仕事関連の方が三人とお聞きしていますね。」
「……。」

 僕はそれを聞いて、料理を見る。
 何とかなるだろうか…。

「まあ、足りないようでしたらすぐに何かを作ればいいですね。」
「……野菜の皮むき程度なら手伝います。」
「ふふふ、ありがとうございます。」

 口元を覆い笑う小百合に僕は苦笑する。

「さて、そろそろ来ますね。」

 そう小百合が言った瞬間、狙ったかのようにインターホンが鳴る。

「えっ?」
「ふふふ。」

 あまりのタイミングの良さに僕が驚いていると、小百合さんは何か含んだ笑いをする。

「まだまだですね、紫織さんも。」
「……。」

 未熟な僕にクスクスと笑いかける小百合さんに僕はもっと精進しないといけないな、と頭を掻きそうになり、その手が捕まれる。

「えっ?」

 素っ頓狂な声を出した僕は掴まれた手を目で辿り、持ち主を見た。

 そして、彼女の表情を見て凍り付く。

「しーちゃん、何しているのかな?」
「えっ?」
「せっかくセットした髪乱そうとしたよね?」
「えっと。」
「綺麗にしたのだから、乱すのは止めてね?」

 ニッコリと笑う鈴蘭さんだけど、その眼は決して笑っていない。

「お返事は?」
「わ、分かりました。」

 僕の返事に鈴蘭さんは満足そうに笑った。

「うん、よろしい。」
「おお、鈴蘭ちゃん久しぶりだな。」
「大きくなったな。」
「あっ、桜井のおじさま、福井のおじさま。」

 恰幅のいい二人の男性は僕もよく知っている。
 だから、あまり顔を合わせたくなかったので逃げようとするが、流石現役の警察官、逃げる僕に目を向けて来た。

「そこのお嬢さんは?」
「……。」
「あー、しーちゃんの事ですか?」
「へー。」
「……。」

 福井さんはマジで気づいていないが、桜井さんは気づいているのか肩を震わせている。

「……。」
「はじめまして。」
「……。」
「……ぷっ!」
「ふふふ。」

 遠い目をする僕。

 思わず吹き出す桜井さん。

 笑いを殺そうともしない鈴蘭さん。

「……。」

 流石にこの状況を見て何か思う事があったのか、福井さんはまじまじと僕を見て、ハッとなる。

「もしかして…。」
「……空野…紫織です。」
「マジかっ!」
「マジです。」
「はー、化けたな……。」

 感心したように言う福井さんに僕は遠い目をする。

「こんな完成度だったら、スカウトしたいな。」
「……。」
「……。」

 福井さんの言葉に女性陣の二人が凍り付くような目を彼に向ける。

「福井のおじさま?」
「あらあら、福井くん、それはどういうことかしら?」
「えっ?」
「安心しろ、お前の骨は拾ってやるからな。」

 桜井さんが福井さんの肩に手を置いた事で彼はハッとなり、何とか女性陣に分かってもらおうと口を開くが既に時遅く。

「……桜花乱舞っ!」
「金剛流、一の型 氷月。」

 小百合さんの鉄扇。

 鈴蘭さんの拳が福井さんを襲う。

 僕と桜井さんは合掌しながら、それを見守った。
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