【完結】パンでパンでポン！！〜付喪神と作る美味しいパンたち〜

第70話 澪の勇気

　大学を卒業してからだけど。

　まさか……自分が『パン作り』をするとは思わなかったわ。

　それがしかも、現実なのに『ファンタジー』と巡り合うだなんて……誰が予想していただろうか？　赤ちゃんだった時から、ずっとずっと知ってた幼馴染みの……水城みずき桜乃さくのちゃんの、お家にある古い蔵。

　その中で、自分が目にしたことが……最初信じられなかった。夢でアニメでも見ているんじゃないかと思ったんだけど……それは、実際に起きている現実で。

　私の目が、イカれているんじゃなかった。ピンク色のキッチンの中で、桜乃ちゃん以外に彼女のおじいさんや綺麗な黒髪のお姉さんも居たから。何が起きているのか、最初は当然信じられなくて。

　けど、もう一人の幼馴染みの駿しゅん君も来たから……私は決めた。

　私も、そこに加わりたいと思ったの！！

　幼馴染みだけで、ずるいって。

　まるで、わがままな子どもみたいに。だから……打ち明けるのに、うちの規格外品の豆腐は持っていったわ。餞別品は大事よね？　だって、覗き見しちゃったんだもの。

　そして、皆怒らずに受け入れてくれただけでなく……お姉さん、付喪神の美濃みのさんが一緒にパン作りしていい許可を出してくれたから。私にとって、新しい日常がスタートしたんだ。


「おいしー！」


　そして、一ヶ月くらいが経って……桜乃ちゃん達は夏休み。

　私は豆腐屋の仕事もあるけど、今日は休暇日だったから水城家の蔵にお邪魔していた。今日はチョコのお絵描きパンを作ったのよね？

　まさか、私が思いつきで描いたヘナアートが段蔵だんぞうさんの商売意欲に火をつけて、採用されるとは思わなかったけれど。

　うちの家のお祭りで出す屋台はもう決まっているから、ちょっと羨ましい。当日の交代時間には、絶対遊びに行こうと決めている。

　それにしても、今日のチョコクリームパンだけど。

　桜乃ちゃん達も思い思いに描いたイラストはすっごい出来だったけど、味は文句なしに美味しい。桜乃ちゃんのお父さんのパン並みに美味しいのよね？

　このパン……下手すると、ファンタジーで言うポーションとかの回復薬にもなるんだって。以前、別のパンで樹いつきおじいさんが色々完治したって聞いた時はびっくりしたわ。


(……私も豆腐で何か作れないかしら？)


　うちにも蔵はあるけど……ちっちゃい頃に遊んだきりで中に何があるかはあんまり覚えていない。だけど……美濃さんのパターンもあるし、ひょっとしたら付喪神がいるかもしれないわ。帰ったら、久しぶりにちょっと探してみようっと。

　今日のパンを堪能してからは、段蔵さんが桜乃ちゃんや駿君が描いたパンとかを袋に詰めて持たせてくれたの。帰って、父さん達に今日のことを伝えたら。


「いいなあ？　うちじゃ、そう言う菓子パンとか作れんし」

「けど、豆腐ドーナツとか聞きません？」

「あ！　段蔵さんに教えてもらったわ」

「……今からでも試作するか？」


　あと、ちょっとずつ……うちの店の商品にも良い影響を与えてくれている。勇気を出してあの輪に入れてよかったわ。

　とりあえず、豆腐ドーナツとかのレシピを検索してから……ちょっとだけ蔵に行ったけど。そう簡単に居ないのか、何も反応がなかったわ。