【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ

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第102話 男の悩み

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 ヒロの店への……危機は何とか去ったとは言え。

 俺は……彼女へ、少しでも触れてしまった。

 頭を撫でるとか、そんな簡易的なものではない。

 ヒロが怖がるだろうと……雷を見せないように、包み込むように抱きしめたのだ!?

 咄嗟のこととは言え……俺は、実に大胆なことをしてしまった。

 ヒロ自身は……離れた時に礼は告げてくれたが。抱きしめたことについての言及はなかった。

 つまり……俺は『男』に見られていないのか?

 ゼリーを堪能させてもらってから、俺はクレハと並んでカウンターで腰掛けていたが……ヒロはコファを淹れてくれている。俺は単体、クレハには甘く仕立てたものだ。


「……スインド~?」


 ぼんやり、ヒロの動きを追っていると……クレハがニヤついた笑顔で訊ねてきた。だいたいの予想はつく。


「……なんだ」

「ほんま、ヒロが好きなんやなあ?」

「…………悪いか?」

「ぜーんぜん。あんさんは色んな意味でヒロの助けになっとる。あちきは……今は信頼しとるで?」

「……そう言われるのは、光栄だな」


 店の運営などで……出来るだけ、ヒロの手助けになりたい。調味料などの調達だけでなく……それ以上のことも。

 想いを伝えねば……それは叶わないかもしれないと言うことはわかっている。

 だが……俺はこれまで。

 自分から、誰かに愛の言葉を伝えたことがないのだ!

 ザックの言うように……不誠実ではないと思ってたが、色んな女達と付き合ってきた。すぐに長続きはしなかったが。


「あちきは……ヒロのダチや。あのアホっぽいヒトの子が……ここまで、あちきやおじぃら長老らを変えてくれたんやで? せやから……あの子には幸せになってほしいんよ」

「……お前には、草の長老がいるからか?」

「…………あちきはええやん」


 赤くなっている顔を見ると、ヒロに色々言われそうだが。

 このアヤカシをここまで照れさせるとは……彼の長老は余程好かれているのだろう。クレハが素直になりにくいだけで。


(……しかし。俺も……俺自身、成すべきことがある)


 俺の居場所は……正確にはこの店ではない。

 両親から受け継いだ、チルットの『何でも屋』があるのだ。そろそろ……あちらにも戻らなければいけない。

 だからとは言え……ヒロとの繋がりを無しにはしたくないのだ。


「……どしたん?」


 俺が黙っていると、落ち着いたクレハがゆっくりと聞いてきた。


「……そろそろ。俺もザックのように、チルットへ戻らねば」

「……せやなあ? あんさんにもあんさんの仕事言うのがあるんやし。……それやったら、さっさとヒロに言いや?」

「……去る者には、応えてくれるとは」

「めちゃくちゃ離れとるわけやないし。……ヒロがそれだけで決め付けるか?」

「……それは」

「あの子、アヤカシからも結構好かれとるんやで? 取られたりしたらどないするん?」

「…………」


 たしかに……分け隔てなく、料理を作る真摯な気持ちは。

 人間だけでなく、アヤカシすら虜にしているのは事実。

 先ほどの斑と言う者もだが……ヒロは、この里で認められている人間だ。

 臆病になる前に……伝えるだけ伝えるべきだろう。

 コファを持ってきてくれた、ヒロの笑顔も見て……俺は決意した。
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