59 / 77
第59話 レイシアを考えて③(リデル視点)
しおりを挟む
「へぇ~? 真面目に公務をねぇ?」
「……冷やかしか? ディルス」
普段は宰相候補にまかせっきりの公務を、珍しく俺自身が捌いているのがそんなにも珍しいのか。
俺の実務は、結局『虹染め』優先だったから……即位するまでの仕事など、二の次でいいのは父上からも言われていたから気にしないでいた。それが今は、『王太子妃』候補になったレティのために、『時間をつくる』理由のために処理している。ディルスが報告ついでに眺めてきたのだが、にやついた笑顔なのがやけにムカつく。
自分は婚約者のリーリルと堂々と触れ合えるのに、俺は……俺は、レティの手に触れただけで心臓が高鳴るのを抑えきれないなどと、結構弱気だ!! 清めるたびに、どこもかしこも美しくなる女性が自分の婚約者となれば!!? 恋わずらいをただでさえ抱えているのに、緊張しないわけがないだろう!?
「冷徹王太子が、婚約者のために勤しんでるって聞いたぜ? ほーんと、あの嬢ちゃんに首ったけだな?」
「……悪いか」
「まさか? 今までお飾りボンボンでしかなかった、乳兄弟に春だぜ? 祝福しないわけないだろ。一応」
「……最後の言葉が余計だ」
「なーんだよ。口説き文句のひとつでも教えてやろっかと思ったのによ?」
「……そんなの。レティには効きやしない」
「あ? あの嬢ちゃん、意外と堅物?」
「……自分が粗悪品だと思っている節があるんだ。なら、俺も素のままでいるだけだ」
「ほ~。ま、たしか公爵令嬢だったのに、自分の婚約者に婚約破棄させたんだって?」
「だいたい俺も調べたが……記録が、おかしい」
「は?」
そう。俺がジャディス国に侵入した時と後の記録。それらが『矛盾』と言えるくらいに書き換えられていたのだ。俺やレティの記憶にあることと、文字で残された記録が全くと言っていいくらい違いが出ていた。
婚約破棄をさせたのはレティで間違っていないのだが。それを仕向けた当人は……レティの父親だと記されていたのだ。レティは父親にも宣告したとは言っていたが……どうも、俺には矛盾しか浮かんでこない。
つまり、レティの元婚約者は『態と』浮気の現場を作るように差し向けられていたのではと。
レティが、本気で『イリス国』の縁者であるなら……俺と接触があったことで、『帰す時期』を決めたことになる。娘本人には何も知らせずに、自分勝手に動いたように思わせて。
ディルスにもその記録を見せたが、やはり俺と同じような違和感を顔に出していた。
「クロノ様がわざわざ『俺たち』に休暇を言い渡すなんて……子どもの頃ならともかく、だいたい成人した年齢にはいっさい言ってこなかったのに? おかしくないか?」
「まあ、嬢ちゃんも成人手前くらいかそこらの年齢……だけど、疲れてないのが逆に変ってことか?」
「スキルで相応の魔力を消費したにもかかわらず、元気なのがかえって心配されたのか。だから、俺も念のため二日ほど間を置いたんだ」
「……なるほどなぁ? ジャディス国の周辺、もう洗ったのか?」
「そろそろ報せが来てもおかしくはない。……受け取り、一度頼めるか?」
「あいよ」
ひとりよりも、ふたり以上の確認が欲しいときがある。それが大将軍への道筋を確約されたディルスになら、頼んでも問題がない。女性であれば、婚約者のリーリルが適任だ。普段から、女官としてレティの話し相手にもなっているから適切者として、こちらも問題なかろう。
ある程度の書簡整理が終わったところで、宰相候補を呼んで確認のためにそれらを持って行かせた。久しぶりにまともな公務をしたことで、頭がいくらか疲れた。レティといつものような食事が出来ないのは残念だが、明後日でそれが叶うのだから今は少し仮眠を取っておくことにした。
「……冷やかしか? ディルス」
普段は宰相候補にまかせっきりの公務を、珍しく俺自身が捌いているのがそんなにも珍しいのか。
俺の実務は、結局『虹染め』優先だったから……即位するまでの仕事など、二の次でいいのは父上からも言われていたから気にしないでいた。それが今は、『王太子妃』候補になったレティのために、『時間をつくる』理由のために処理している。ディルスが報告ついでに眺めてきたのだが、にやついた笑顔なのがやけにムカつく。
自分は婚約者のリーリルと堂々と触れ合えるのに、俺は……俺は、レティの手に触れただけで心臓が高鳴るのを抑えきれないなどと、結構弱気だ!! 清めるたびに、どこもかしこも美しくなる女性が自分の婚約者となれば!!? 恋わずらいをただでさえ抱えているのに、緊張しないわけがないだろう!?
「冷徹王太子が、婚約者のために勤しんでるって聞いたぜ? ほーんと、あの嬢ちゃんに首ったけだな?」
「……悪いか」
「まさか? 今までお飾りボンボンでしかなかった、乳兄弟に春だぜ? 祝福しないわけないだろ。一応」
「……最後の言葉が余計だ」
「なーんだよ。口説き文句のひとつでも教えてやろっかと思ったのによ?」
「……そんなの。レティには効きやしない」
「あ? あの嬢ちゃん、意外と堅物?」
「……自分が粗悪品だと思っている節があるんだ。なら、俺も素のままでいるだけだ」
「ほ~。ま、たしか公爵令嬢だったのに、自分の婚約者に婚約破棄させたんだって?」
「だいたい俺も調べたが……記録が、おかしい」
「は?」
そう。俺がジャディス国に侵入した時と後の記録。それらが『矛盾』と言えるくらいに書き換えられていたのだ。俺やレティの記憶にあることと、文字で残された記録が全くと言っていいくらい違いが出ていた。
婚約破棄をさせたのはレティで間違っていないのだが。それを仕向けた当人は……レティの父親だと記されていたのだ。レティは父親にも宣告したとは言っていたが……どうも、俺には矛盾しか浮かんでこない。
つまり、レティの元婚約者は『態と』浮気の現場を作るように差し向けられていたのではと。
レティが、本気で『イリス国』の縁者であるなら……俺と接触があったことで、『帰す時期』を決めたことになる。娘本人には何も知らせずに、自分勝手に動いたように思わせて。
ディルスにもその記録を見せたが、やはり俺と同じような違和感を顔に出していた。
「クロノ様がわざわざ『俺たち』に休暇を言い渡すなんて……子どもの頃ならともかく、だいたい成人した年齢にはいっさい言ってこなかったのに? おかしくないか?」
「まあ、嬢ちゃんも成人手前くらいかそこらの年齢……だけど、疲れてないのが逆に変ってことか?」
「スキルで相応の魔力を消費したにもかかわらず、元気なのがかえって心配されたのか。だから、俺も念のため二日ほど間を置いたんだ」
「……なるほどなぁ? ジャディス国の周辺、もう洗ったのか?」
「そろそろ報せが来てもおかしくはない。……受け取り、一度頼めるか?」
「あいよ」
ひとりよりも、ふたり以上の確認が欲しいときがある。それが大将軍への道筋を確約されたディルスになら、頼んでも問題がない。女性であれば、婚約者のリーリルが適任だ。普段から、女官としてレティの話し相手にもなっているから適切者として、こちらも問題なかろう。
ある程度の書簡整理が終わったところで、宰相候補を呼んで確認のためにそれらを持って行かせた。久しぶりにまともな公務をしたことで、頭がいくらか疲れた。レティといつものような食事が出来ないのは残念だが、明後日でそれが叶うのだから今は少し仮眠を取っておくことにした。
11
あなたにおすすめの小説
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。
さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。
聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。
だが、辺境の村で暮らす中で気づく。
私の力は奇跡を起こすものではなく、
壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。
一方、聖女として祭り上げられた彼女は、
人々の期待に応え続けるうち、
世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。
三月べに
恋愛
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。
帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!
衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?
何故、逆ハーが出来上がったの?
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる