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親方のまかない
第4話 職人の粋なはからい
しおりを挟むトン!
カン!
トトン!!
儂は……今、仕事とは別の作業に取り掛かっておる。
いや、ある意味で仕事にはなっておるが……これは、儂の嘆願の結果でもある。
『陛下。イツキの嬢ちゃんへ、最高の包丁を贈らせていただきたいのじゃ』
個人の意見で作って渡しても良いのじゃが……イツキの嬢ちゃんはこの国の大恩人じゃ。加えて、陛下方……王族の方々へ日夜そのスキルを活かして料理を振る舞ったり、ご一緒に作られておると聞く。
であれば、陛下のご許可をいただき……最高峰の包丁一式を贈ることを、儂は叶えたいと思ったのじゃ。ワルシュの小僧の養女でもあるが、ハインツベルトのガキンチョと婚約となれば……いずれは貴族の一員となるのも同じ。
であれば、生半可な品は贈れんと思ったのじゃよ。
「師匠……いつも以上に真剣だ」
「あんな師匠いつぶりだ? 俺達に手伝いさせないくらいだし」
弟子らの声が少し遠くから聞こえた気がしたが、無視は無視と……儂は作業に没頭していく。
始めてから……だいたい三日程度で下準備が出来。切れ味、柄の宝飾などもすべて儂ひとりでこなしたのは何十年ぶりか?
出来上がった時には、満足のいく出来となっておったので……儂が強く頷いてから、ケースに丁寧に入れてから中央の厨房へと向かった。
「よぉ、来たぞ」
中に入らせてもらうと、ちょうど出迎えてくれたのがイツキの嬢ちゃんじゃったわい。
「あれ? ハクトさん、また何か?」
「今日はこの前とは別件で、嬢ちゃんに用があるのじゃよ」
「私ですか?」
皆目検討もつかんようじゃが、そこが何よりも面白い。
これから、自分に与えられるものを期待しとらん様子じゃ。儂ほどの細工師を目にしてもひとりの人間のような接し方をするのも、実は気に入っておるのじゃ。
「おぅ。嬢ちゃんに渡したいもんがあるのじゃ。あの若造は中に居るか?」
「料理長ですか? はい、居ますけど」
「なら、一緒が良い。入らせてもらうぞ」
「? どうぞ」
と、中に入らせて貰えば、小僧はすぐに儂に気づきおった。そして、儂が持っている包丁のケースを見て……酷く苦笑いしおったわい。
「マジか?」
「ふん! 儂じゃから用意出来た」
「だろうな?」
「あ、あの?」
イツキの嬢ちゃんは本当に何を持ってきたかわからないようなので……さっそく、と儂でも乗れる調理台のひとつを借り、ケースを勢いよく開けたのじゃ!
「儂の最高傑作と言っていい! 受け取ってくれ!」
と、勢いよくつげたのじゃが。
「え? 料理長、良かったですね!」
「「「だああああああ!!?」」」
素でとぼけた……と言うか、認識しとらんぞ。この嬢ちゃん!!?
「アホか!? お前さんのだぞ!?」
「え? このような凄い包丁セットですよね? 料理長にじゃ」
「お前さんに用がある以外、このじいさんが来るか!?」
「え、え??」
本当に……この嬢ちゃんは、神の使徒か何かか??
一応前置きはしたのに、自分への贈り物だと完全に思っていなかった。たしかに、小僧にも見せるような態度はとったが……単純に見せびらかすだけじゃったのに!!?
「儂は……この包丁一式を、嬢ちゃんのためだけに陛下からご許可もいただいて、こしらえたんじゃが」
「……こんな、素敵な包丁セットを?」
「そう思ってくれるんか!?」
「え、ええ……でも、もったいないです。私なんかに」
何故、ここまで自分を卑下するのじゃ??
謙遜以上に、自分への自信があまりないようじゃが……。すると、ワルシュの小僧が嬢ちゃんを軽く小突きおった。
「阿呆。このじいさんがわざわざお前さんのために作ったんだぞ? リュカルドの許可もあんなら……受け取ってやれ。お前さんは、国だけでなく世界を救った存在だぞ?」
「……アレルギーとかを見つけただけですのに」
「それでも、だ」
期間は短いじゃろうが、それでも義理の親子。
きちんと絆はあるようじゃな? 顔は全然似とらんが……職業の思いの根底はそっくりじゃ。
「……本当に、いただいて良いんですか」
「もちろんじゃとも」
儂が強く頷いたことで、嬢ちゃんも照れたような微笑みを浮かび。
早速、と。嬢ちゃんは儂が作った包丁でフライドポテトと言うものを作ってくれたわい。
芋は同じでも、切れ口と芋の芽取りが丁寧に仕事が出来たお陰で……揚げた後の食感が素晴らしかった!!
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