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国王のまかない⑧

第3話『暮れの再び年越し蕎麦』①

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 イツキは微笑むと、ヘルミーナに許可を得てからジェラルドを抱き上げた。その様子を見ると、俺の子だがイツキの赤児に見えなくもない。

 アーネストと一線を越えたようだが、まだ最近なので兆しがないのだろう。


「あーう、あう!! い、い!!」


 そして、どういうわけか……ジェラルドは俺達家族より、先にイツキの名前を呼ぼうとしているんだ!!


「ほんと。イツキ大好きね?」

「ふふ。イツキにはアーネストがいるから、ダメよ? ジェラルド」

「うー!!」


 和やかだ。

 実に、平和な光景。

 イツキがアレルギーの危険性を見つけなければ、家族のこう言った光景を見れなかっただろう。やはり、豪邸にせずとも住み心地の良い仕上げにさせようと、ハクト親方の弟子らに頼もうと決めた。

 それとは別に……『オソバ』と言うものだが。

 イツキがジェラルドをヘルミーナに渡したあとに、執事バトラー達とテーブルに置いてくれたが。

 大きめの、深い器とは別に黄色とオレンジのクシャクシャになった何かの皿。

 これが、食事なのだろうか?

 しかし、リュシアも一度食べていると言うことは……すごく、美味なのだろう。イツキの料理は特級料理人のスキルのお陰もあって、めちゃくちゃ美味いからな!


「お蕎麦は深い器の方です。横にあるのはかき揚げと言う揚げ物の一種となります」

「「これが……揚げ物??」」

「イツキ! 前に食べた『天ぷら』って言うのと同じ?」

「はい、その通りです」


 リュシアが非常に喜ぶと言うことは……物凄く美味いと言うこと。

 用意されていた、ナイフとフォークで食べるようだが……味付けしているように見えない。ただ、そちらの皿の端には岩塩を削ったものが少し置いてあったが。


「イツキ。この岩塩は?」

「はい、陛下。そのかき揚げはお蕎麦のつゆ……スープに浸して召し上がる方法もありますが。崩れ易いので、岩塩を少量つけて召し上がるのも大変美味しいです」

「……そうか」


 東方大陸に赴いた機会は少ないが……このような食べ物があるのは知らなかった。養父であるワルシュが未だに隠している部分は多いが、基本的に我ら王族だけでなく……誰にでも優しく手を差し伸べるイツキだから、深く知ろうとは思わない。

 念のため、レイドの配下はつけてあるが特にこれと言って……目立った報告はないのもあるが。

 それよりも、せっかくの料理だ。

 オソバは麺のようだから、伸びては美味しくないだろう。

 そう思って、フォークに絡めようとしたのだが。



 つるん



 パスタ以上だ。

 フォークから、オソバが……グレー色の細い麺が、なんの抵抗もなく……スープの中へ戻っていってしまった。

 それは俺だけでなく、ジェラルドを簡易ベッドに戻して食事を始めたヘルミーナも同じだった。


「まあ。難しいわね?」

「お父様、お母様! これはうどんと同じよ!」


 と言って、なんとリュシアは。

 適量持ち上げたら……思いっきり口に入れて……すすった!? 音を立てて、口の中に吸い込んだのだ!?


「ま、まあ!?」

「そんな……食べ方なのか?」

「んー!! 美味しい!!」


 俺達が呆気に取られていても、リュシアは気にせずに頬をピンク色に染め上げながら……オソバをよく噛んで飲み込んだ。

 イツキも軽く手を叩いていたので……あの食べ方が正解なのだろう。

 となれば……と、俺も続こうと……執事バトラーらが軽く目を丸くしているのを気にせずに。

 娘と同じような食べ方で……オソバを口に入れることにした!
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