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第一章 異界渡り
01.夢で落ちた場所は?-①
しおりを挟む(きょーうの夕飯はー、先輩が作ってくれたスップリーっ)
街中だから実際に口には出さないけど、気分は鼻歌を歌ってるくらいご機嫌さんだった。
専門学校から入社して2年目となる駅前の老舗イタリアンレストラン。そこでピッツァとドルチェを少し任されるようになってから特に忙しい最近は、ご飯もちゃんとしたのを食べれていなかった。
今日も10時と遅めの退勤をしようとしてたところに、先輩コックが揚げたてのスップリ(チーズ入りライスコロッケ)の袋を持ってきて、『ちゃんと食べなよ?』と茶目っ気たっぷりのウィンクをしてから厨房に戻って行った。
先輩感謝です! 惚れそう!とか思っても、先輩は既婚者で姐さん女房だ。
そこはさておき、最近物騒な事件が多いと聞くいつもの道から遠回りで我が家に向かっているが、特に問題はなさそう。
(まあ、一端の調理師見習いが歩いてたって誰も襲わないよね?)
同じ職場のツッコミ親友やウェイトレスの先輩とかの方が美人さんだ。自分は化粧映えする肌質とかは言われてても必要最低限しか化粧はしない。だって、ドルチェはいいけどピッツァだと汗だくになるし、万が一汗が落ちたらそれを捨てなきゃダメだもの。うちはそう言うとこがすっごく厳しい。とは言っても、昨今の飲食業界の衛生管理は特に厳しいけどね。
「はー、よーやく我が家だー」
去年引っ越してきたばかりの自分の城ーーと言っても1LDKのマンションーーに到着し、ロビーでセキュリティロックを解除してからエレベーターに向かう。ちょうど一階に来ていたのですぐに乗れたのがラッキー。
部屋は3階の角部屋だ。
「誰もいないけどただいまー」
一人暮らしを始めてからずっと習慣づけてる帰宅の挨拶をしてから、靴を脱いですぐに部屋の電気をつけた。口にした言葉通り部屋には人も生き物もいない。調理師と言う激務をしているからには、生半可な理由でペットを飼うわけにはいかないもの。実家も両親が共働きだったし、年の離れた兄達も部活や塾とかでいないことが多かったから面倒なんて見れない。祖父母達は他県に住んでいるから尚更。
荷物とスップリの袋をダイニングテーブルに置き、軽く手を洗ってからうーんと伸びをした。
「…………眠いかも」
せっかく揚げたてのスップリをもらったんで温め直してから食べようかとは道すがら考えてはいたが、体は食欲よりも睡眠欲を求めていた。
「うーん……明日は休みだし……でも、スップリぃ」
うだうだ考えて口にしながらも、足はベットに向かっていく。
先輩、申し訳ないです。ご飯は明日の朝からきちんと食べます。
そう思ったらもう体はベッド直前で、着替えもせずにコートを着たまま布団にダイブしていた。
昨日干したからふかふかやわらかーな質感にうっとりしてしまい、風邪を引きそうとかどうとかを気にする間も無く重い瞼を閉じてしまった。
◆◇◆
いい夢を見た。
ふかふかのベッドで寝ていたはずだったのに、何故か自分のベッドどころかそれを何十倍も広くしたマルゲリータの上で寝こけていたのだ。
焼き立てのはずが全然熱くなくて、けど起き上がってチーズの部分を触ればとろんと指にチーズとトマトソースがひっついてきた。舐めても夢だから味がしないと思ったのに、程よい塩気のゴーダチーズといつも仕込んでるトマトソースの味が合わさって最高に美味しい。
お行儀が悪いけど、大好きなピッツァに被りつけるからと勢いよく顔を下に向けたら……マルゲリータは消えてしまっていて黒い穴しか見えなかった。
(お、落ちる────⁉)
掴む場所はどこにもないのでもがいても仕方なく、重力に逆らわずにそのまま穴の中へ吸い込まれてしまった。
最初はいい夢だったのに、最後は最悪だ!
◆◇◆
「うーん……ピッツァ……マルゲリータぁ」
実に食欲に忠実な寝言と意識が浮上していく感覚が頭から体を巡り、二度寝したいのを我慢して起きることにした。
二度寝しちゃうと疲れ切った場合翌日の夕方まで眠り続けるから、出来るだけ起きるようにしている。それに昨夜テーブルに置いたままのスップリをちゃんと食べたい。完全手作りだから保存剤一切入ってないもの。先輩に申し訳ない。
「ふわぁーあ………え?」
目を擦る前からやけに明るいなとは感じていたけど……いつの間に外に?
ちゃんとベッドに寝た覚えはあるし、鍵だってかけた。夢遊病とかは特にないはずなのに……なんで芝生に座ってるんだろうか?
「え、え?……痛い」
むにっと軽くほっぺをつねっても痛みは感じたから夢じゃない。
泥棒に入られて拉致られたとか?
それにしては女の一人暮らしの家に上がり込んだからって意味がないような。おまけに倉庫に入れるでもなくどっかの高原公園とかに置き去りとかってなんでだ?
とりあえず立ち上がってはみたが……視線がえらく低くなった気がする。
「……なんで?」
元から高くはないが、平均身長よりは上だ。モデル体型でもないごく普通の成人女性だ。成人式迎えてからまだひと月程度だけど。
それでも、体はそれ以上上に行くこともなく視線の位置も変わらない。段々と嫌な予感がしたんで、とりあえず自分の体を見ようと手を顔に持ってきたら、
「僕の手がお子ちゃまに───────っ⁉」
びっくりし過ぎて、思わず一人称が素に戻ってしまった。
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