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第三章 交わる記憶
078.記憶の蓋口
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びっくりした。まだドキドキで全身の鼓動が高鳴ってるよ。顔の熱さは比較的早いこと落ち着いたけども。
(セヴィルさんが悪いもん!)
あんな公衆面前で僕に賛辞を贈ってくるなんてなんと言う羞恥プレイ。
嬉しくなかったわけじゃないけど、時と場合考えて欲しいよ……。僕らの近くにいた人達は口あんぐり、お目々をまん丸にさせて唖然としてたもの。
だけど、セヴィルさんがああ言うのはやっぱり滅多なことじゃないみたい。
僕にはあんまり実感わかないけど、冷徹宰相さんで有名らしいから。セヴィルさん基本冷静で時々微笑み、僕には優しくてエディオスさんには鉄拳制裁を下すことが多い人……あれ、後半が冷徹?
(冷徹ってどう言う意味だったっけ?)
とにかくこの馬鹿広いお城の一画だけでも覚えないと僕迷子確定だ。
けど、今目の前にあるのは室内よりもっと広いよ!
「ふわわ……!」
新緑深緑がこれでもかと生い茂り、樹々や茂みには花の季節なのか真っ白、ピンク、黄青赤なんかの花々が咲き誇っていた。
今の季節って夏じゃないのはセヴィルさん達が長袖着てるから違うと思ったけど、春なのかな?
「お花いっぱいですね!」
「今は神前の季節だからな」
「こうざき?」
「……そちらで暖かく過ごしやすい季節だとなんと言うのだ?」
「春って言いますよ!」
「春季の略称か。そうだな……今は後期の方で秋季。実りの季節にも値するからか花が溢れる年に二度目の季節だ」
「秋ですか?」
それにしては色彩が随分春めいているようだけど。
だけど、よく見たら花の隙間にさくらんぼのように実が成ってるのがあった。さくらんぼはこっちじゃチェイルだったけ?
「神前と言うのは月の名前のことでな。来月が神輪と言って、農作物などの収穫期が盛んになる。ここいら一帯の花々も散って果実などが熟すんだ」
「おお……」
一種の果物狩りし放題になるね。
すみません、花より団子な思考回路で。
だって、料理人だもんで美味しい食材には目がないもの。
「……カティア、果実取り放題でデザートのピッツアが作りたくなったか?」
「ええ⁉︎ どうしてそこまで!」
セヴィルさん僕の思考回路読み取ったの⁉︎
「お前は料理人だろう? 料理をしない俺でも専門分野の人間の考えやすいことはなんとなしにわかる」
「お恥ずかしいです……」
「悪いとは言っていない。むしろ、エディオスがそれを聞いたらすぐに許可を出すだろうな?」
「あはは……」
花より団子思考はエディオスさんも同じだったのね。
でもそれって、
「僕ずっとこのお城にいていいんですか?」
異世界から突然誰かによってフィーさんの領域に連れてこられ、そこで過ごす予定でいたのが偶然やってきたエディオスさんに料理の腕を見込まれたのと名前をどうにかするってことでお城に来ただけなのに。
でも、セヴィルさんの『御名手』と言う婚約者の肩書きもついちゃったからいちゃいけない理由もないか。
「……帰りたいのか? 元の世界に」
「フィーさん曰く厳しいそうですから諦めてます」
これはしょうがないけど、本当。
不自由がないわけじゃないけど、身体的要素と教養不足を除けばそんなに悪い環境ではない。
それに、クラウのご主人様にもなっちゃったんだもの。ああ言ったファンタジー要素満載の子を連れ帰って世話するなんて出来ないから。
「……俺の時はあの神がいたから出来たのか」
呟いた声を聞き漏らさなかった。
くるっとセヴィルさんを見上げれば、考え込むように顎に手を添えていた。
聞くなら、今がチャンスかも。周囲には庭師さんのような作業員の人とか誰もいない。
「あの、セヴィルさん」
「……ん?」
「えっ……と、初日に聞けなかったことなんですが」
「ああ。俺とお前が初対面ではないことか?」
以外にもすんなり聞けちゃいそう?
初日ではあんなに言いたくないって感じだったのに。
「聞いてもいいんですか?」
「いい加減、お前にも伝えようとしてたからな。立ちながらもなんだ、奥に東屋があるからそこで話そう」
休憩施設的なのがあるらしい。
手入れの行き届いてる道を歩いて行けば、確かにそんな場所が出て来た。ちょっとした池っぽいところの脇に石造りの東屋って言うものが建ってあったよ。中は大理石か何かの石で出来たベンチとテーブルだけがあった。
僕とセヴィルさんは少し間を空けてベンチに座り、セヴィルさんが魔法であったかいハーブティセットを出してくれた。カモミールのような上品な風味のお茶だけど、甘くて美味しい。
セヴィルさんも半分ほど飲み終えてから、カップをソーサーの上に置いた。
「色々疑問が多いだろうが、順を追って解決していく方向でいいか?」
「そうですね」
全然僕は覚えていないから、それは仕方ないもの。
「まずこれは先に謝っておく」
「ほえ?」
「初日にきちんと告げておくべきだったのが、日を置いてしまったことだ」
「え、そんな、別に気にしてないですよ?」
だって僕全然覚えていなかったもの。
大丈夫と顔の前で手を振れば、セヴィルさんはちょっと苦笑いされちゃった。
「お前はあの頃と変わらず聞き分けが良すぎるな?」
「あの頃って、僕がいくつの頃ですか?」
「同じだ。髪や目の色が違うから最初は別人かと思ったが、顔立ちがそのままだったから俺があの時驚いていたんだ」
「8歳くらいですか?」
その頃だと記憶があやふやになっちゃってるのはしょうがないか?
だって、物心ついて一年かそこらだから無茶があるよ。
「……そんな赤子でも首が座るかどうかの年齢だったのか?」
「こちらの基準の方が驚きですよ。あ、セヴィルさんはその時っておいくつだったんですか?」
「外見はフィルザス神くらいだな。年齢としては160前後だが」
「…………蒼の世界じゃそれでも超人ですよ」
不老不死?って疑いたくなるような年代なのに見た目フィーさんのような中学生の少年?
なんで同じ?人間で魔族かなんかのようなご長寿なんだろうか、不思議。
って、それよりも。
「フィーさんくらいの見た目のセヴィルさん? んー……すみません、やっぱり思い出せないです」
今でも超絶美形青年なのに、フィーさんみたいな美少年に会ってたらいくらなんでも覚えてる自信あるのに?
「まあ、俺は口止めされたがお前はひょっとしたらあの時の神が記憶を封印したかもしれないな?」
「神様ですか?」
「ああ。フィルザス神の兄の一人らしい」
「フィーさんのお兄さんって、僕がいた世界の?」
「そちらもいたが、もう一人いてな。その神がいなければ俺はこちらに戻ってこれなかったそうだ」
「もう一人?」
蒼の世界以外のお兄さん達の話ってほとんど聞いたことないな。お姉さんの方もだけど。
「そもそも、俺が誤って次元の割れ目に落ちて蒼の世界に渡航したことを揉み消したいためだったらしい。それ故に、急いで帰すために協力要請したそうだ」
「じげんって、空間の次元ってことですか?」
「そうだ。魔法はあちらでは全くと言っていいほどないと聞いてはいたが」
「想像力が働いて読み物とかで学べなくはないんですけど、全部絵空事ですから」
まさか、そんな絵空事の中に放り込まれるなんて予想だにしてなかったよ。
「……そうだな。俺もお前の世界に行ったのは今まで夢物語に近いものと思っていた」
あ、この表情やっぱり見覚えがある。
寂しそうに目を伏せちゃうとこ。
『お兄ちゃん行かないでー‼︎』
不意に、泣きそうな子供の声が脳裏に浮かんできた。
今のって僕がちっちゃい頃の声?
「どうした?」
よっぽど不思議な顔をしてたみたい。
セヴィルさんが心配そうにこちらを見てきた。
「あ、いえ。なんかちょぴっと思い出したかなーって」
「……封印が?」
「なんでしょうか? 本当にちょぴっとですけど」
声以外まったく思い出せなかったけども。
しばらくぽけっとさせてもらわせてもやっぱり思い出せないです。なので、セヴィルさんからのお話を聞きつつ思い出してみることにした。
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