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第三章 交わる記憶
079.異界渡りをした(セヴィル視点)
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もう180年以上も昔になるのか。
まだエディオスの従兄弟としてもだが側仕えの一人として宮城に上がっていた頃のことだ。
休憩も兼ねて中庭で休んでいたら、突然俺の真下の地面が無くなり、ぽっかりと穴が開いたんだったな。
「くっ、術式が間に合わない⁉︎」
浮遊か飛翔の魔法を展開させようにも何かに妨害されて全く歯が立たない。
それと、何か眠気を誘うような香りまでして頭がクラクラとしてきて、結局俺は抗えずに意識を飛ばしてしまった。
「……にいちゃん、お兄ちゃん大丈夫?」
次に目を開けた時は、真っ青な空の下で倒れていた。
ただ、一人ではなく幼い女子の声が聞こえ、俺も身体を揺さぶっていた。
「……ぁ、ああ、平気だ」
「よかったぁ。全然起きないんだもん。けど、お兄ちゃん王子様みたいな服着てるね?」
「王子様?」
俺は貴族としては普通の恰好でいるが?
身体を起こして幼子の方を向けば、平民にしてはやけに簡素な服装でいた。
黄色のシャツと下は膝あたりまでしかない黒のズボン。
最近は出会えてないフィルザス神のような雰囲気だが顔立ちが違い過ぎた。肌は白いが若干黄色っぽく、目が茶色。髪は背中まである綺麗な黒髪だった。
「……お前は?」
「僕?」
「……女、だよな?」
「あ、ごめん。お兄ちゃん達や従兄弟のお兄ちゃん達とよく遊ぶから癖なんだー」
「そうか」
周囲の環境のせいでは仕様がない。
俺は一人息子だから従兄弟のエディオスやアナ達しか兄弟代わりがいないからな。
「僕は奏樹って言うの。お兄ちゃんは?」
「カナタ、か。俺はセヴィルだ。呼びにくいようならゼルでいい」
「ゼルお兄ちゃん?」
「ああ」
しかし、ここはどこだ?
森の中にしてはこんな幼子が遊びに来るような場としてはふさわしくないくらい奥地だと思われる。
カナタは俺の名を教えれば、じーっと見つめてきた。
「お兄ちゃん外国の王子様?」
「外国? ここは神王国ではないのか?」
「しんおーこくって? ここ日本だよ?」
「ニホン?」
まさか、あれは次元の割れ目だったのか?
(と言うことは、ここはまさか異界?)
だとすればいくらか納得がいく。
俺の服装で貴族と結び付かないところや、カナタの簡素な服装を俺が見たことがないところだ。
「……カナタ、この近くに城はないか?」
「お城は遠くに行かなきゃないよ? でも、かんこーしせつだから誰も住んでないよ?」
「何?」
城が居住地でない?
ここは一体どう言う世界なんだ?
「……カナタ、よく聞いてほしい」
「なーに?」
「俺はカナタの言う外国のどれにも当てはまらない国から来た人間だ」
「そーなんだ!」
割と深刻な事を言ったつもりだが、やはり幼子だからかすごいとしか思わなかったらしい。
まあ、この外見だと80歳前後だからか教養の質を求めても仕方ないか。
「じゃ、そんなすっごい服着てたら町歩くと目立っちゃうね?」
「……そうだな」
とは言え、服装交換の魔法をこの世界でも扱えるか怪しい。
樹々や花々からもほとんどと言っていいほど聖気や魔力の流れを感じないからだ。
「んー、ちょっと待ってて!」
「は?」
急にカナタが走り出してしまい、俺が引きとめようにもあっと言う間に行ってしまった。
だが、本当にすぐ戻ってきて、手には布で出来た袋を持ってきていた。
「お兄ちゃんの服持ってきたの!」
「お前の兄のか?」
「うん! これもう着ないって言ってたし、お古でもらう予定だったからゼルお兄ちゃん着てみて!」
はい!っと元気よく俺に袋を差し出してきた。
中を見ればカナタよりは断然大きい男物らしい服が一式入ってはいたが、本当に借り受けていいのだろうか?
もう一度カナタを見れば、早く早くと促してきた。
「……では、そこの茂みで着替えてくる」
その前に、邪魔なマントだけ外して適当に畳んだのをカナタに預けた。
「マントだー!」
「……そんなに珍しいか?」
「舞台のお兄さんとかでしかないかなー? あと、映画とか」
「……わからないな」
文化の相違点が多過ぎるためか、よくわからない。
(だが、何故言葉だけは通じているのだろうか?)
そこは今考えるべきではないかと、早々に着替えることにして茂みに入る。着替えは貴族と言えど身支度は自分でする事を基本としているから自分で着替えられる。
だが、服の構造がそこまで複雑なものでないのが助かった。
今着ている側近用の服も一人じゃなかなか難しい構造をしているからな。脱ぐのは割りかし簡単ではあるが。
「これがズボンで、こっちがシャツか?」
カナタと似ているが随分簡素な割に生地がしっかりしている。それに、変わった手触りだな? 着心地も悪くない。
「ゼルお兄ちゃん着れたー?」
「ああ、今行く」
カナタが渡してくれた布袋に着ていた服がなんとか入ったので、それを持って茂みから出た。
「わー、かっこいい!」
「……そうか?」
よくわからない文字が染料か何かで綴られてる紺色のシャツと黒くて長いズボンだけだが。
靴や靴下はそのままだ。微妙に浮くかもしれないが、これくらいはそこまで目立ちもしないだろう。
「髪長いねー?」
「普通じゃないのか?」
エディオスなんかは短いが、俺くらいの丈に伸ばしてる男もいなくはない。あくまで、俺がいた黑の世界限定だが。
そう言えばフィルザス神も髪は短かったな。
「それくらいだとお姉ちゃんにも見えるー」
「……それは勘弁願いたい」
服装抜きにすれば女に間違われたことが数回で事足りないからな。
とは言え、切っても顔立ちのせいで間違われるので面倒だからと切るのをやめたのだ。
しかし、こちらの世界ではこのような服装でも異性に間違われやすいのか?
「んー……あ、お兄ちゃんちょっとしゃがんで?」
「? 何をするんだ?」
「ちょっと髪結ぶのー」
「は?」
髪を結ぶ? 余計に女に間違われやしないか?
けれど、カナタはやる気のようで俺に屈むよう促したので、仕方なく腰を落とせばカナタは自分の髪を結んでいた紐を外した。
「えーと……首の付け根なら、いいかな?」
カナタは俺の髪を丁寧にまとめ、髪紐でしっかりとしばってくれたようだ。
彼女の手が離れたら、髪の重みがいくらかなくなり頭が軽く感じた。
「うん! これなら多分大丈夫!」
鏡で見てみたいところだが、相変わらず魔法を行使しように魔力の流れを感じない。
とりあえずもういいかと聞けば俺はその場から立ち上がった。しばった髪の房を見れば、触らなければ一定の幅で収まっていた。
「じゃ、お兄ちゃんとりあえず僕の家に行こう?」
「……いいのか?」
「お兄ちゃん達もお母さん達もいないから大丈夫。町に行って公園で遊ぶにも、お兄ちゃんくらいの人はあんまり遊ばないと思うから」
「こうえん?」
「え、ゼルお兄ちゃんの住んでるとこには公園もないの?」
「すまない。色々呼び方が違うものも多いかもしれない。しかし、本当にいいのか?」
無人となってる民家にいきなりなんの前触れも寄越さずに上がるなど。貴族間でさえ先触れを出して訪れるのが普通だ。エディオスなんかは無視して俺やサイノスの家へ来ることはあるが、あれは一応王子だからな。
「うん。困った人は助けなきゃってお母さん言うもん。ゼルお兄ちゃん、おむかえが来るまで一人でしょ?」
「ああ、まあ……」
それは間違っていることの方が多いが、カナタを困らせても致し方ない。
(けれど、本当に俺は帰れるのか?)
次元の割れ目に落ちて異界渡りをしてしまったと言う奇異な事態を、果たしてエディオス達が気づいているだろうか?
最低創世神のフィルザス神ならば気づくはずだが。
ぐぎゅるるるー
ぐぎゅるり
考えにふけっていたら間抜けな音が聞こえてきた。
しかも、俺とカナタの腹から同時に。
(そう言えば昼餉も取って来なかったな?)
中庭でエディオスの探し物をずっとしていたせいで食堂に行くのをすっかり忘れていた。
こちらの刻限はわからないが、カナタも何も食べていない状況か?
「えへへ。お腹すいちゃった……」
「俺も、みたいだな」
「じゃ、やっぱり僕の家に行こうよ! 僕ごはん作れるから!」
「カナタが?」
こんな幼子が調理を可能にしている?
にわかに信じがたいが、出会って幾ばくも経ってないこの少女の言うことを疑う気は特にない。
幼いが、利発であるし行動力もしっかりしているからな。
「うん! ピザ生地とかソースは昨日作ってあるからすぐに出来るよ!」
行こう行こう、と布袋を持っていない方の手を引かれて俺はカナタと森を出ることになった。
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