【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

文字の大きさ
97 / 616
第三章 交わる記憶

097.ウスターソースにはカラメルを

しおりを挟む
 これが出来上がったら、次はカラメル作り。
 この工程はマリウスさんが見学することになった。

「星砂糖を鍋に入れただけですが?」

 三温糖やザラメなんかのブラウンシュガーなんかはこの世界じゃ星砂糖と言うそうな。
 氷砂糖よりは小さく、砂糖よりは大粒だからこの名称だとファルミアさん談。

「このまま火にかけて、わざと焦がします。コクと香ばしさの決め手はこの工程なんです」
「出汁などではなく、甘味で?」
「まあ見ててごらんなさいな、カティを信じなさい」
「はっ」

 では、作業開始。
 分量の砂糖のうち少しをカラメルにするのが大事です。
 お鍋に入れて弱火にかけてゆっくり溶かす。溶け始めたら更に極弱火にしてターナーで混ぜながら薄く煙が出るまで焦がします。

「け、煙が」
「ファルミアさん、お湯ください!」
「いいわ、一気に入れていい?」
「どうぞ」

 ここを失敗するとまた作り直しなので躊躇してる暇はない。
 お湯を加えてよく混ぜ、鍋底のも剥がすようにかき混ぜて湯の色が変わればカラメルソースの出来上がりだ。

「はぁー、成功です」
「私もこれは失敗しやすいからわかるわ」
「これが、必要なものですか?」

 マリウスさんはまだ信じられないようで鍋の中身を見つめていた。

「料理にもだけど、私はお菓子作りに使うことも多いわ。一度味見してみたら?」
「では……」

 常備してるミニスプーンを取り出し、まだ熱いカラメルソースをひとすくい。
 息でよく冷ましてからマリウスさんはゆっくりと口に入れた。

「……少し、苦い。ですが、香ばしさもあり甘味が程よい!」

 良かった、味も申し分ないみたい。
 マリウスさんの舌を信じて、次の工程に移る前にコックさん達の作業を確認。下準備はお願いした通りに出来上がっていたので、これで下ごしらえは完了だ。

「大鍋に計量した調味料も加えて全部入れて混ぜたら煮込むだけです!」

 他の調味料は酢、醤油、水に乾燥ハーブのセージとローリエにタイム。
 寸胴の大鍋に材料を投入してマリウスさんにかき混ぜてもらい、火を強過ぎないようにさせてから沸騰直前まで温めます。
 なぜかと言うと、加えた香辛料の香りが飛んでしまう可能性があるからだ。
 煮込んでいる間に片付けを、と思ったがここはプロの調理場。片付けなんて並行して取り行っているから僕らは火の番をするくらいしか仕事がない。

「これが煮込めたらどうするの?」
「粗熱を取ってから煮沸した密閉出来るガラス容器に入れて二、三日置いて熟成させます」
「うーん……今回は試食したいから時間操作させようかしら?」
「そうですね」

 普通に作っていたら出来上がったウスターソースを活用したレシピを試作出来ないもの。明日から式典祭だし、その後に持ち越すのも可能かどうか微妙だ。
 なので、じゃあ今のうちにと二人でこっそり打ち合わせすることにした。
 マリウスさんは他の仕事が出来たので、そのタイミングを見計らってましたよ?

「今回はピザソースだけだけど……あれで1Lくらい出来るから大量に使いたいのもあるわね」
「ハンバーグソースとかには?」
「あらいいわね?   粉物は手に入りにくい材料があるから無理だもの」
「中華そばとかですか?」
「紅生姜もね。お好み焼きとか焼きそばに挑戦したくても……麺まで手打ちはハードルが高いわ」

 僕だってそれは無理です。畑違い過ぎて。
 鍋の様子を見ながら打ち合わせを続けていれば、煮込みはあっという間に完了してしまったので火を止めて冷却の魔法で粗熱を取ることに。

「瓶詰めは濾す作業の時でいいから、時間操作させるわ」

 この作業はファルミアさんに。
 僕は魔法の勉強中なのとまだまだこの魔法には手が出せないため。
 ファルミアさんが鍋の前に両手をかざすと、手のひらが淡い紫色の光を帯びた。

「今回は詠唱の付与を入れておくわ。…………狭間の時、幾許かの時、閉ざせ広がれ我が手の内にーーーー【時間不動リザ・クレイム】」

 イシャールさんと同じ詠唱を口にすれば、帯びてた光が粒となって鍋の中に向かい、黒いソースの中に溶け込んでいく。
 最後のひと粒が入った途端、シュバって音がなりそうなくらい鍋ごと光に包まれ、消えた時に中を見れば少し黒茶が濃く思えた。

「これでいいと思うわ。あとは、先生の確認ね」
「僕なんかひよっこですよ……」
「何言ってるの。経緯は色々あってもあなただってプロの料理人なんだから自信を持ってよくてよ?」

 そこを突かれるとこそばゆい。
 たしかに普通の人に比べればプロの域かもしれないが、僕からしたら全然見習いの範疇だ。師匠達にも技術の一部を認められた以外に特に言われたことはないから。あの人達はあまり言葉で褒めることはなかった。悪いことじゃないけど、はっきりダメな時はちゃんと言ってくれる。
 それに慣れ過ぎてたからか、ファルミアさん達みたいに言葉で言われるのはいつも気恥ずかしい。
 ただ、このまま味見はすりおろした材料が邪魔になるので、全部ボールに漉してから晒しでぎゅっと絞り出した。

(……うまく出来てるかなぁ?)

 ミニスプーンで軽くすくい、飲める量を口に含んだ。
 まず先に辛味と酸味が主張してくる。
 だがそこまでキツさはなくてりんごや野菜の甘みが包み込んでくるように、まろやかさでカバーしていた。
 味は申し分なく、母が作っていたのと同じウスターソースの味だ。時間操作されていても、特に問題はない。

「これでいいです」
「じゃあ、私も」

 ファルミアさんもちょろっと味見されれば、すぐに顔がほころんだ。

「この味だわ!」
「おや、出来上がりましたかな?」
「ええ、見てちょうだいな」

 戻ってきたマリウスさんに、興奮された状態で彼女が告げれば、マリウスさんはボウルの中を見て首を傾げた。

「見た目はサイソースに近いですが……少し酸味の強い香りがしますね」
「とりあえず、味見してみたら?」
「そうさせていただきますね」

 なので、ひと口。

「……サイソースとは別物ですね。酸味と辛味が強いですが、野菜とメロモをあれだけ入れただけあって甘さがじんわりと伝わってきます。これは面白い!」
「魚には使いにくいけど、肉料理とかだったら使いやすいと思うわ。炒めてまかないに使う分には最適ね」

 肉野菜炒めとか定番ですね。
 ただ、いつものコース料理には加えにくい家庭料理だからファルミアさんが言う通り、よくてまかない行きだ。

「カラメルとやらは一長一短では難しいですが、他は下ごしらえの手間を抜けば然程大変ではありませんね」

 これは広めていいかどうかだけど、フィーさんが地球料理を食べたいって許可を出してくれてるから、いいかな?

(さっき、ファルミアさんが無理って言ってたけど……)

 思い返してみれば、出来なくもない日本料理があった。
 ピザソース作りと並行して材料は集めておこう!
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

処理中です...