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第三章 交わる記憶

99.粉物の王道、それは?

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「何してんだ?」

 声をかけてきたのはサイノスさん。
 サイノスさんはまた中層の食堂でご飯を食べる生活に戻られたが、今日は絶対食べていただきたいとお誘いしたのだ。

「これは私とカティがいた世界じゃ、異国人達にも人気があった主食の一つなの。小麦粉とかを使うから『粉物』って呼んでるんだけど」

 裏口スペースは今日もまたフィーさんの魔法で封鎖してあるので、地球用語や知識は大っぴらに披露出来る。作るのは僕で、説明はファルミアさんにお任せした。
 とろとろの生地に、卵、野菜、薬味を混ぜ込んで……ライドオイルを薄く塗ってある熱々の鉄板に、迷うことなく落としていく!





 ジュワァアアアアアアア!





 皆さんからしたら異質に映るだろうが、僕とファルミアさんにはたまらない音だ。
 小麦粉にキャベツとネギなんかが混ざった生地だけど、出来上がりを見たらどう反応が変わるか楽しみ。

「ここに薄切りにした豚肉を数枚乗せて」
「お、肉か?」

 食いついてきたのはエディオスさん。
 他の大半の男性陣(うち外見はホストでも中身は獣‘s)も食らいつき、ファルミアさんが他の生地にも乗せていけば不思議がってた目つきも変わっていく。

「底の生地と縁がある程度焼けたら……このコテと言う道具でひっくり返すわ」

 この工程は身長差が僕だと低過ぎるのでファルミアさんが担当。
 両手にフィーさんお手製のコテを構えて、焼け具合を目視で見極めてから一気にひっくり返された。

「全部ひっくり返せたら、蓋をして蒸し焼きするの」

 この間に僕らはトッピングの用意。
 ソースは混ぜ終えてるけど、ファルミアさんが急遽ヴァスシードから取り寄せてくださった具材の数々を見て改めて感嘆の息を漏らした。

(かつお節や海苔があるなんて)

 チャイナ服が普通だから中華文化かと思ってたけど、食文化は日本と酷似してる部分も多いらしい。それでも全く同じ用途じゃないのもあるから、ファルミアさん的には納得出来ないのもあるんだとか。

「「なーんかいい匂いーー」」

 ユティリウスさんとフィーさんがお鼻をヒクヒクさせながらそう言ってくださった。

「ふふ。この料理の真骨頂は、ソースを塗ってからよ?   カティ、もう焼けるだろうから準備はいいかしら?」
「はい」

 蓋を開けてからひっくり返してまた少し焼き、表面がカリッとなってから刷毛で用意しておいたソースのボウルを彼女に渡した。

「今日手作りしたカティ直伝のウスターソースとチャップソースを混ぜたこれを、焼いた生地の表面にたっぷり塗って」

 塗った端から鉄板に落ちて弾けていく音も堪らない。
 塗ったところから、僕はスプーンを使ってマヨネーズを格子のようにかけていき、仕上げにファルミアさんが青のりとかつお節をブワッとたっぷり乗せた。

「これが和食の一つで、『お好み焼き』って言うの!    ひとまず一人一枚よ?」

 今回はかなり大きめの鉄板を用意してたので、だいたい屋台で売られてるサイズを全員に行き渡るくらいに作れました。
 ナイフとフォークで食べるのは初めてだけど、箸文化がほとんどないこの世界じゃ仕方ない。コテも初心者の人にはなかなか難しいもの。
 全員の前に置いてから僕らも席に着いた。

「ふゅーぅ?」

 どう食べて良いかわからないクラウには、不思議なものでしかないだろう。

「これがオコノミヤキなんだ?」

 フィーさんは蒼の世界文化をいくらか知ってるからか、楽しそうに見つめていた。

「つか、飯ってこれだけか?」

 エディオスさんはお皿一枚だけしかない夕ご飯に物足りなさを感じたようだ。それは他の男性陣もだろうけど。

「まあ、食べてごらんなさいな?   きっとピッツァとは別の意味でやみつきになるはずよ」
「ほー?」

 さあさあと勧めるファルミアさんの言葉に、皆さん大きさは個人個人違うが切り分けたお好み焼きをひと口頬張っていく。

「「「「『ん⁉︎』」」」」
「まあ⁉︎」

 一斉に上がった歓声に、僕とファルミアさんはお互いに親指を立てた。

「何この甘辛いソース⁉︎」
「オーラルソースとイラル節がなんとも言えぬ味わい……」
「生地っつーのがふわふわで野菜が甘いな?   これは、サラダによく使うピライシャか?」
「お肉もカリカリでソースと合いますわ!   生地が蒸しパンのようで甘いのにソースと調和して手が止まりません!」

 などなどなど。
 僕はクラウに切り分けてふーふーして食べさせてから自分のに手をつけた。

「んーーっ、これぞ粉物の王道!」

 まさに日本のジャンクフード!
 たこ焼きやうどんとか蕎麦だって粉物だけど、ソース文化の王様だと僕はお好み焼きがダントツ一番だ。
 生地は生焼けもなくふんわりだけど、外はカリカリ。お肉もジューシーでなんちゃってお好みソースとの相性は抜群。
 マヨネーズとちょっとしなびたかつお節と絡めるとまろやかでいくらでも食べたくなる。次が、次がと欲しくなる味。熱々のうちにいただくのが大事だね。

(けど、山芋や紅生姜がなくてもこの味は出来て良かった)

 代用品は山芋をジャガイモに変えただけ。ジャガイモのデンプンでも焼き加減を注意すれば、それなりにふわふわになるのだ。紅生姜はやっぱりないし、一朝一夕で作れないから今回は断念。天かすはファルミアさんがささっと作ってくれました。天ぷらもヴァスシードじゃ時々作るようで。かつお節があるから天つゆは作れるし納得。
 モダン焼きもしてみたかったが、これも焼きそばの麺がないから断念だ。他の国々でも中華麺は未だ確認されてないんだって。ヴァスシードの国風文化はどっちかと言うと東南アジアと日本を混ぜたものだから、麺はあっても米の麺か素麺だとか。

「ふゅぅ!    ふゅゆう!」
「あ」

 食べるのに夢中になってたらクラウがソース塗れになってるのにようやく気づけた。
 お口も顔も手もお腹?まで見事にソースとマヨネーズ塗れ。急いでフィーさんに濡れ布巾を用意していただいて、全部をソース色に染めてしまった。

「せめてフォークが持てればいいのに」

 指自体がないからどうしようもないか。

「っかし、やべぇな!  ファルが言ったとーりに止まんねぇぞ!」
「「おかわり欲しいー!」」

 食いしん坊トリオも当然お皿を空っぽにされてました。
 けどそれは他の皆さんも一緒で、セヴィルさんも少し興奮気味でフォークを動かしてたんだよね。やっぱり、お好み焼きは老若男女を虜にしてしまう味だ。

「二枚目ねー……今のか、もう少し味付けを変えたのとかがあるけど」
「まだ味が変えられるの?」
「ピッツァ程じゃないけど、肉を魚介類に変えたり色々出来るわ。エイシュリンやコーカスもいいし、カッツも入れられるのよ」
「えい……こーかす?」

 字面だけじゃさっぱりわかりません。

「あら、ごめんなさい。エイシュリンが大雑把に海老で、コーカスがイカのことよ」
「おお」
「あれもたしかに合いそうだな?   けど、カッツもってくどくないか?」

 サイノスさんが口にした疑問に僕とファルミアさんの目が同時に光った。

「カッツは最高ですよ!」
「もち明太とかもちチーズが出来ないのも残念だけど、カッツだけも十分いけるわ!」
「お、おお?」
「ニホンジンって熱いねぇ?」

 フィーさんはけらけら笑いながら最後のひとかけらを口に入れていた。

「とりあえずどれでもいいから食わしてくれよ」
「俺もー」
『我らも』
「ふゅゆ!」

 待ち切れないメンバーが多いので、それから第二陣三陣と焼くことになった。
 チーズ入りだったり、ファルミアさんが提案してくれたエビ玉とかイカ玉も材料が尽きるまでどんどん焼いていって、お腹いっぱいになるまで食べました。

「あー……お腹いっぱい」

 チーズ入りのとか、二枚もおかわりしちゃったよ。
 ピッツァよりだいぶ重たいけど、これはこれだ。まさか異世界にまでお好み焼きを作ることになるなんて思わなかったが。

「しばらくはカティやミーアの作るものが食べられないのは辛いなー」

 こちらは全種類三枚もおかわりされたユティリウスさん。
 あれだけ食べたのにまだ物足りなさそうな顔をされています。彼だけじゃなくて四凶さん達とかもですが。

「そうね。帰る前には、カティのリクエストがあったエクレアやシュークリームは作るつもりでいるけど」
「あ」

 そう言えばそんなことを言ってたっけ?

「なんだ、その料理は?」
「料理よりお菓子よ。ゼルには無理でしょうね、クリームたっぷりだから」
「……遠慮する」

 食べたことはないようでも、クリームの単語にセヴィルさんの顔が真っ青になっちゃった。
 けどセヴィルさんには悪いですが、絶品スイーツ達は非常に楽しみだ。
 もちろん、僕もお手伝いするよ?
 そして、作り方を伝授してもらうんだ!
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