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第四章 式典祭に乗じて
116.式典祭1日目ー中層の秘密の扉ー
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お昼ご飯も終わって談笑したいところですが、厨房やホールでは皆さんお仕事の真っ最中。
シャルロッタさんとラディンさんも戻られることになったんで僕もついて行こうとしたら、
「ダメよ。君は半刻くらい休憩」
「え」
「あれだけの仕込みをして疲れないわけがないよ。きちんと休息は取らなきゃ」
「う、でも」
元レストランの厨房に立っていた身としては、まだまだ働ける。ちゃんと食休みだって充分取ったと思ってるのに、それでも一時間もお休みをいただけるのはさすがに気が引けちゃうよ。
けども、外見が今は8歳児だから言い訳が効かないし、前の世界での経験を言えるわけがない。
うーうーうめくようにしていたら、ラディンさんにぽんぽんと頭を撫でられた。
「焦っちゃいけないよ?」
「え?」
「君はかなり仕事の出来る子だ。だからって、まだまだ幼い。それなりに動けるのは理解出来ても、君が今まで経験してきたところとここは違う。それはわかっているでしょ?」
「……はい」
僕は素直にラディンさんの言葉に頷く。
そうだよね。僕が良くても周りが同じように扱うとは限らないもの。
それに、ここは黑の世界で要となる大国のお城。
規模だって動員数だって、前とは比べものにならない。無茶して倒れた方が皆さんの迷惑になってしまう。
「……わかりました」
「うん。いい子」
「小腹が空いたらそこのクッキーとかつまんでいいわ。ジュースや水はそこの水差しからいくらでも飲んでちょうだい。魔法で容量は増やしてあるから心配はないわよ」
「ふゅふゅ!」
食べ物の話題となるとすぐに食らいつくんだからクラウは……。
そして、時間になったら呼びに来ると言って二人は休憩室から出て行き、僕はクラウとぽつねんとなった。
「…………暇になっちゃったねー?」
「ふゅぅ」
おしゃべりするにも、クラウが神獣でも赤ちゃんだからか意思の疎通が出来ない。
クラウからも無理なようで、ずっと『ふゅふゅ』鳴くしか出来ないみたい。可愛いから特に気にしてないけど、ただ独り言のようにしゃべるのもなぁって。
「今から部屋に戻って本とか持ってくるにしても、お客さんで溢れ返ってるから出られないし」
それに子供の料理人とかがいると知られたら、シェイルさんが広めた噂ともいっしょくたになってるだろうからきっと群がれる。潰されるだけで済むわけがないだろうし、下手したら連れてかれる可能性もある。
ラノベとかの知識だけでしかないけど、未知の知識を豊富に蓄積させている存在はいつだって稀少価値らしいから。
なんてことのないティラミスのアレンジを出しただけで、この騒ぎだもの。この世界に来て、良い人達ばかりに巡り会えててもこのお祭りで来てる人達全てがそうとは限らない。
セヴィルさんがお散歩の時に言ってたように、隙を狙って犯罪をやらかす人だっているらしいからね。
「だけど、一時間もぼけーっとしてるのも無理だし。お昼寝するほど疲れてもないしなぁ」
何か暇つぶしはないものだろうか。
休憩室を見ても、まかないの卓以外は何席かの机に椅子だけ。
持ち寄ったレシピ本とか雑記帳とかの棚も一切なし。
ただ、唯一黒い扉が一番奥にある。
「ふゅ?」
「クラウも気になる?」
「ふゅぅ」
開けちゃいけないかもだけど、すぐ閉めればいいよね?
そんな安直な考えで、二人でその扉の前に立ちました。
「多分、開くよね?」
初日の椅子が引けなかった時以外、物に触れても持ち上げれないとかは特になくなったし。
それはともかく、
(むっちゃ中が気になる!)
なんかこう、冒険心をくすぐると言うか。
ただの扉なのにわくわく感が止まらない。
特にここは中層でも調理場のバックヤード。
貯蔵庫とかじゃないのはわかってるけど、何かを収納させてある場所かもしれない。
「ちょっとだけ、なら」
「何しようとしてんだ?」
「ぴょ⁉︎」
「ふゅ?」
いきなり声をかけられたので振り向けば、休憩室の扉を開けて僕を不思議そうに見ているイシャールさんが。
「え、あ、う」
「んだよ。暇過ぎてそこが気になったのか?」
「う?」
あれ、怒られるんじゃない?
怒鳴られる覚悟でガクガクしてたんだけど、拍子抜けしちゃうくらい全然普通の態度。
と、それよりも。
「お、お疲れ様です。休憩ですか?」
「おう。よーやっともぎ取れたからな」
腹減ったと卓の方に向かって行き、お皿にどかどかと盛り付けてくイシャールさんは豪快過ぎです。
テーブルの一つに座るとすぐに食べ出した。よっぽどお腹が空いてたんだね。
「そんなとこ突っ立ってねぇでこっち来いよ」
「あ、はい」
「ふゅぅ」
クラウを抱っこし直してから、イシャールさんの隣に座らせてもらいました。
「飯食ったか?」
「はい。美味しかったです!」
「ふゅふゅぅ!」
「ま、やわに鍛えてねぇからな」
それは身体能力の方で使うのでは?
けど、たしかに料理もかなりの修行が必要になるから、全くの間違いでもないかも。
「あー……こりゃ焼き加減荒いな」
そして、上の立場にいるからまかないの査定も厳しくされてる。
僕は単純に全部美味しくいただかせてもらったけど、イシャールさんは料理長だから人材育成もお仕事だもんね。一品一品ゆっくり噛み締めながら、眉間にシワを寄せつつも味や食感などを確かめていた。
「ふゅぅ?」
クラウには何をしているのかわからないからか、首を傾げるだけ。
イシャールさんの表情が険しいから心配してるかもだけど、大丈夫だよと僕は頭を撫でてあげた。
「…………はー、食った」
ひと通り召し上がられてから、イシャールさんのフォークは止まった。
お皿は綺麗に積み上げられて、全品完食。
最後に冷たいアイスティーで口の中を洗ってました。
「まあ、中の中ってとこだな」
今日の判定が決まったようです。
どれくらい厳しいのか僕にはわからないけど、良い方なのかな? 僕はここの勤務者じゃないので口出しはしないよ?
「っし。俺も少しは暇取れるから、あそこん中見せてやるよ」
「いいんですか!」
「おう。つか、開けれんの俺だけだしな」
つまり、鍵が必要な場所だったんだ。
それならさっきドアノブに手をかけても意味なかったんだね。
今度はイシャールさんと一緒に扉の前に立ちます。
「っつっても、そんなけったいなもんでもねぇぞ?」
「知らないからこそ、わくわくしちゃうんです!」
「ま、その気持ちは分からなくもねぇな?」
イシャールさんはズボンのポケットから小さい鍵がいくつも連なった鍵束を取り出し、その中から黒ずんだものを持って鍵穴に差し込んだ。
「半年は来てねぇからな……」
ギィーっと軋む音を立てて扉が開く。
中は真っ暗だったけど、すぐにイシャールさんが灯りの魔術で部屋を照らしてくれました。
その瞬間、僕は心臓を鷲掴みにされた。
「ふわわわわーーーーっ‼︎」
テンション上げ上げ。
アドレナリンMAX!
だってだって、厨房に比べれば小規模だけどもきっちりとしたアイランドキッチンが部屋にあったら驚くでしょう⁉︎
それに、半年も来てないって言ってた割には超綺麗!
あちこち銀鏡の世界!
「ここここ、ここってどう言う場所なんですか⁉︎」
鼻息荒いの重々承知でイシャールさんに迫る。
実際は首を上げまくっても彼の分厚い胸板が包まれたコックスーツしか見えない。
「ここか? 中層の料理長が代々受け継ぐ専用の部屋だ」
「ほぇー」
イシャールさんは僕の目線に合わせるようにしゃがんでから教えてくれました。
どれくらい前からあるかはわからないけど、そんな歴史ある大切な場所だったんだ……好奇心で覗こうとしてた自分が大変恥ずかしい。
「ま、今年はエディの即位式典の節目だったんで新作の試作しようにも時間が取れなかったからな」
「でも、綺麗ですよね?」
「状態維持の結界張ってるからな。俺くらいになれば、10年程度はこれくらい維持出来るぜ」
なんでもありなんですねぇ、魔法って。
「ふゅふゅぅ!」
クラウは冷蔵庫みたいな棚の前で自分が写ってるのにきゃっきゃとはしゃいでいる。扉とかにペタペタ触らないから好きにさせてるんだ。
「あ、やっべ。クラウ、ちぃっとどけ」
「ふゅぅ?」
何かを思い出したのか、イシャールさんはクラウのいる棚の前に向かっていった。クラウはすぐにそこから離れるが、気になったまま宙に浮いている。
イシャールさんは気にせずに引き戸を開けたが、すぐに大きくため息を吐いた。
「やーっぱ、ここにも大量にあったか」
僕も気になって彼の隣に行く。
けど、背がミニマムなんで台車がないと見えましぇん。
うーん、とつま先立ちしながら背伸びをしていれば、イシャールさんがこっちに気づいて僕のわき下に手を入れて持ち上げてくれた。
「ほら、これだ」
「…………これ」
棚の中には積まれた木箱。
その中には芋にような茶色い塊がゴロゴロと。
だけど、それは野菜ではないのを僕は知っている。
「……アルグタ?」
表面にざらざらとした皮を持つ、ビタミン豊富な果物。
キウイが大量に鎮座していたんです。
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