【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版

櫛田こころ

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第五章 新たな一員

150.エクレア作りは生地から!

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 ◆◇◆






「材料は、難しいのを避けて簡単なのにしたわ。作り方は本格的なのとあまり差はないけれど」

 場所は厨房は厨房なんですが、中層にもあったような料理長さん専用の厨房室を使わせてもらうことになった。
 ファルミアさんは前々からこちらをお借りして作ることがあったらしいのだが、一番の理由はセリカさんがいるから。
 事情は伏せてあっても、侯爵家のお姫様が料理をされるとなると色んな意味で注目の的になるからだとか。
 それと皆さん口は堅くても、給仕のお姉さんやコックのお姉さんだって場所を変えれば少しくらいおしゃべりはする。そこから広がって問い合わせ殺到になってしまっては大変で済まない。
 まだ正式に帰還されたって発表前だもの。
 なので、セリカさんがご一緒する時はこの厨房室を使うことになったんです。マリウスさんとライガーさんには事情説明してはあるので了承はいただいています。

『セリカ様がお帰りになられてようございました』

 マリウスさんは料理長になる前からセリカさんとは面識があって、ずっと気にかけてたそうだ。そのわだかまりがなくなって本当に良かった。

「あの……エクレアとはどのようなお菓子なのでしょうか?」

 セリカさんは僕と似たようなチュニックとズボンに着替えて、少し猫っ毛ウェーブの薄紫の髪は紺のリボンで緩くまとめています。
 結構ラフな恰好なのに、可愛いって正義だと納得出来ちゃう。

「エクレアは私とカティがいた世界の国から海を越えて更に遠い異国で生まれたお菓子なのよ。パイもあるけれど、薄いパンのような皮を作って中に生クリームや卵を主体に使ったクリームを入れ込むの。仕上げにココルルをかけて固めれば出来上がりだわ」
「む、難しいんですね」
「その国だと基本的なお菓子だから、お店ごとの腕前が試されるそうよ。今日はそうじゃないから楽しく作りましょう?   量はクラウやうちの四凶達がいるからいくらでも作って損はないし全員で全工程をするわよ」
「「はい」」
「ふゅぅ?」
「クラウはいい子にしててね?」
「ふゅ!」

 頭に乗ってるので撫でてあげれば、了解と言う風に右手を上げてくれた。
 まずはシュー生地の下ごしらえに準備から。
 Mサイズくらいの卵をたっくさんボウルに割っておく。この卵達は今日お城に納められた新鮮な卵なんで氷室保存されてないそうな。趣味範囲でたっぷり使えるなんてとっても贅沢だ。もちろん、出来上がったら厨房にお裾分けする予定はいつも通りしてます。

「妃殿下。バターの大きさはこれくらいでしょうか?」

 セリカさんが生地ベースの一つを担当して、ペティナイフで手際良くバターを賽の目状に切り分けていた。
 バルの時は料理されてるとこを見てなかったけど、たしかに手際が良い。学園勤めされてても、結構長い間ミービスさんのバルに住んでたからそれなりに出来て当然かも。

「ええ、いいわ。これと計量した牛乳を鍋に入れてあえて沸騰させるの」

 三人それぞれ使う鍋に材料を入れて、コンロで沸かしていきます。

「粉を振るう時間があるから今日は強火にしないけれど。沸騰したらこの中にメリケ粉を入れて火を止めるの」

 タイミングは泡がぶくぶく出てからだそうな。
 全員出来るだけ同時に入れてから木ベラで粉っぽさがなくなるまでよく練り込む。

「なんだか粘土細工を仕込んでる感じですね?」

 お菓子作りと言うよりは、中学で一度体験したことがある陶芸体験の土いじりに少し似ていた。
 綺麗な黄身色の生地が出来上がれば、これを中火で一分程練り上げて生地全体に熱を通すそうだ。火から下ろすタイミングは鍋底に薄く膜が出来たらいいんだって。

「これに溶き卵を分けて混ぜ込むの。最初はもろもろして当然だから気にしなくていいわ。混ぜ込んでいけば馴染むから」

 実際やってみると、少なく入れても分離しちゃってまとまるかどうか心配になるくらいだったが、しっかりヘラでこねていけば大丈夫でした。

「卵を全部混ぜ込んで、固さは生地を持ち上げてゆっくり落ちていくくらいまでになれば上出来よ。カティにわかりやすく言えば、3秒くらいで落ちればいい具合ね」
「はーい」
「びょうと言うのは?」
「時刻の数え方よ。ゆっくり数えていく区切りを秒と言うの」

 秒間はこっちの世界じゃないらしいからね。分も、15分か20分を八半刻と言うから感覚としてはそっちが多い。
 生地がもったりするまで混ぜ込み、アドバイス通りの固さになれば生地作りの第一段階はこれで完了。

「釜は温めておいたから、絹袋に生地を入れて絞る作業よ。仕込みももちろんだけど、皮作りはここが大事なの」
「空気の入り具合とかで膨らみ方が違うと言うますしね」
「私も毎回緊張するわ」

 要は生地を絞り袋で敷き紙に絞り出す工程だ。
 ビニール製は当然ないので、専用の絹で出来た袋に星口金を入れてしっかり引っ張り、中にそれぞれシュー生地をヘラですくって入れていく。
 空気が入り過ぎないように詰めたら、まずはファルミアさんが見本を見せてくれることに。

「ただ絞り出すだけじゃダメなの。平面にさせるんじゃなくて、膨らみがあるように絞るのがコツよ。とりあえず見せるわね」

 出来るだけゆっくり絞り出してくれましたが……それでも結構早い。レストランの先輩や師匠達に負けないくらい綺麗に均等の長さに絞っていく。

「いきなりここまでとは言わないから、平面にならないように二人とも注意してくれればいいわ」
「「はい」」

 けど、実際やってみたらこれまた難しい。
 特に僕は小学生の体サイズなんで手も小さく絞る力が弱い。
 握力と体力は元と変わらなくても体の構造がこれではピッツァ回しとは違って、色々不便です。
 セリカさんはそうでもないから、ゆっくりゆっくりでもきちんと生地を絞り出せていた。

「ふーゅゆぅ!」
「うー、頑張るよぉ」

 僕だって皆さんに美味しいものを食べてもらいたいもの。
 それから少し時間をかけて絞っていけば、とりあえずファルミアさんから合格点はいただけました。

「これを大体中火で四半刻程度焼いて、余熱で八半刻乾燥させれば出来上がるわ。砂時計でそれは測っておけれるから、今度はクリームよ」
「カスタードですね!」
「カスタード?」
「卵色のクリームなんですよ。やっぱりこの世界じゃないんですか?」
「シュレインでも見かけたことはなかったわ」
「ヴァスシードでもないわね。だから、私は個人的に作ってたのよ」

 だけど、チョコクリームはあるのはちょっと不思議だ。
 抹茶クリームや他のクリームはありませんでした。

「黑の世界じゃ、私が転生するまでは普通の生クリームにココルルを混ぜ込む以外だと、切った果物を入れるくらいが普通だったわね。悪くないけど、地球での記憶がある私には物足りなかったし、前世でも料理は趣味で色々作ってたから出来たのよ」
「この世界では……お菓子の種類が少ないのですか?」
「そうね。セリカにとっては貴族の方が富んでいて市井では少なく感じてたと思うけれど、私には貴族のでもまだまだ少ないと思うわ。蒼の世界は食の文化がかなり発展していたから色々あるの」
「市民でもスナック菓子とか駄菓子とか、安いお菓子はいっぱいありましたしね」
「その代わり、非常に肥えた人種が増える一方だったけど」
「あははは……」

 高カロリー、高糖質に高脂質な料理や加工品が多い時代でしたから。
 その分こちらの世界では、太った人はほとんどいない。添加物なんかの化学薬品的なのもないし、体に安心安全な食生活を送れてるからだろう。
 あとは、きっと運動量が違うのもあるだろうけど。

「話が逸れたわね?   で、クリームはカスタードって言うのが普通なんだけど、このお菓子は他にも生クリームだったりカスタードと一緒にしたり、普通のケーキであるように果物を混ぜ込んだのを使ったりと色々出来るの。カティのご希望はココルル入りのカスタードだったわね」
「けど、全部甘いですよねー……」

 唯一甘いものが苦手なセヴィルさんには何を作ったらいいのだろうか。

「ゼルはしょうがないけど、前よりは全然食べてるしカティが作るものならなんでもいいんじゃないかしら?」
「そうですか?」
「え、ゼルお兄様が甘いものを召し上がってるんですか?」
「昔はどこまでだったか私は知らないけれど、カティが作るのならひと口でも最低食べてるわよ?」
「……変わられたんですね、ゼルお兄様」

 ここまでセリカさんがびっくりされてると言うことは、昔はもっと口にしてなかったんだろう。もしくは、何かでトラウマがあったせいかも。
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