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第六章 実り多き秋の騒動
222.不気味な神域(途中別視点有り)
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「地図がまったく変わってる?」
「はい、見てください」
一度降ろしてもらってから、僕はセヴィルさんに地図を渡す。
セヴィルさんはざっと地図に目を通すと、少しだけ眉間にシワが寄っていった。
「これにも仕掛けがあったのか……」
「ただの地図じゃなかったんですね……」
「あいつが生み出す物自体、ただの道具だった試しがない。最近はふざけたのが多いが」
「あ、ハリセンですか?」
「ハリセン?」
「セヴィルさんが前に叩かれた時に使った、紙の束みたいなのです」
「……あれ、か」
あ、思い出して恥ずかしくなったのか、目元から耳まで真っ赤なっていくのがわかっちゃう。
あの時は、僕が起きたばかりだったのを駆け寄ろうとして、フィーさんに後ろからハリセンで叩かれたんだよね。
僕がセヴィルさんの初恋だって知って気を失ったのに、余計に煽ってどうするんだって。
僕も思い出して赤くなっちゃった顔を隠すのに、クラウに顔を埋めた。今更過ぎるけど!
「……だが、ここは本当に神域か? クラウ、間違いはないのか?」
「ふゅふゅぅ!」
僕に強く抱っこされたままでも、クラウはこくこくと頷いた。
その振動で思わず顔を上げちゃった僕は、当然セヴィルさんと目が合った。そして、お互いにぼんって音がなるくらいに顔が真っ赤になってしまう。
僕は、直視出来なくてすぐに顔を逸らした。
今日ずっとドキドキしてなかったわけじゃないけど、綺麗なお顔が近くにあると仕方がない!
そう思っておこう!
それよりも、今いるお化け森についてだ。
クラウがしっかり頷くのなら、本当に神域ってことみたい。
「け、けど、不気味……ですよね」
道も少し土が黒ずんでいるし、木や草も同じ。
空も、さっきいたところは快晴だったのに、ここはすぐにスコールが来るんじゃないかってくらいに真っ黒な曇り空。
空気も、見たことがない魔獣ってモンスターが出てもおかしくない緊張感を感じちゃう。
アミューズメントパークのお化け屋敷のセットに負けないくらい不気味なところだ。
「……たしかに不気味だ。だが、この奥に目標物があるのなら行くしかあるまい」
「そ、そそそ、そうですね……」
今回の収穫祭は、エディオスさんとセリカさんの距離を縮めさせるだけじゃなくて、クラウの神力補給のためもある。
その対象らしいキアルって果物を収穫しないと一番困るのはクラウだ。でないと、底無し胃袋の範囲がまた酷くなるそうだもの。
僕は地図を受け取ってから、もう一度よく見た。
「あれ、この地図?」
前の地図と違って、特に目立ったポイントとかがない。
順路の方も、曲がったりはあるけれどここまで辿ってきたのと同じ紺色の線がほぼまっすぐだ。
ゴール地点には、広場のようなところにテストの採点にあるような花マルのマーク。
こう言うお茶目なところはフィーさんらしい。
「他の組と合流させないようにしているのか、何故かこの線しかないな?」
たしかに、前の地図でも紫や緑の線はあっても皆さんとすれ違うことはなかった。
ここの場合は、余計にさせないような仕組みもあるかもしれない。
「……この地図を信じて、行きましょう!」
綺麗な神域にどうしてこんな場所があるのかは、帰ってからフィーさんに聞けばいい。
ここからの帰り方も今わからないけど、聖樹の時のようにまた何かあるはずだ。
セヴィルさんも頷いてから、また僕を抱え上げてくれた。
「この道を真っ直ぐでいいんだな?」
「はい」
「ふゅ!」
クラウも力強く頷いたからまず間違いはない。
セヴィルさんは僕達の声を聞いてから、地面を蹴った。
「少し飛ばすぞっ」
口を閉じてろ、とも言われたので速度が上がってく中僕は口をきつく閉じた。
すると、すぐに顔に当たる風の強さが増していった。
クラウと地図を落とさないように前を向けば、景色がこれまで以上の速度で移り変わって行くのがわかる。
フィーさんに抱えられた時に比べれば遅くても、ジェットコースターのように進んでいく。
口を閉じていなきゃ、舌をかんじゃうだけですまないくらいだ。
(セヴィルさん、僕とクラウのために加減しててくれたんだ……)
速度を上げたのは多分、僕がこの森を怖がってしまったから。だから、全速力じゃなくても早くキアルを取って小屋に帰るために急いでくれてる。
それに、他の組が今どの位置にいるかはわからないけど、男性側はきっとセヴィルさんと同じようにしてるはずだ。
セリカさんは当然だけど、勝気なアナさんだってこの場所はきっと怖い。
「ぶーゅびゅぅ!」
クラウだけは、絶叫とかが楽しいからお構いなしに声を上げている。ディシャスの上でもそうだったから、慣れたお陰で舌をかむなんてことはないみたい。
セヴィルさんは一回注意したけど、クラウは気にせずにきゃっきゃしてるから諦めて走る方に集中された。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(アナリュシア視点)
神域には、本当に訪れる機会が少なかった。
神王家直系の王女でも、王太子となるエディお兄様の妹でも、フィルザス様の御許可がない限りお兄様とご一緒に行くことはなかった。
だから、だからですけれど……目の前に広がる気味の悪い森が神域だなんて信じられませんわ!
時々護衛としてご一緒するらしいサイお兄様でも、この場所には来られた機会がないようです。
それともう一つ。
フィルザス様がお創りになられた地図が、聖樹を過ぎる前まで見ていたのとまるで変わってしまっていた。
「風景も、何もかも変わっていますわ!」
「俺も見ていいか?」
「あ、はい!」
サイお兄様にも見やすいように出来るだけ腕を伸ばそうとしたら、お兄様が少しだけ顔を近づけてくださった。
サイお兄様は幼馴染みの中でも群を抜いて背丈が高いから、そうしてくださるのはありがたいんですけれど……お慕い申し上げている殿方の御顔が近くにあるだけで心臓が跳ね上がりそうですわ!
「マジだな。こりゃ、フィーが仕掛けてたってわけか」
お兄様はちっとも気にされていないのか、地図の変化に関心されているだけ。
やはり、わたくしには魅力がないから?
それとも、幼馴染みでも妹分だから?
(……今は感傷的になっても仕方ないわ)
それよりも、さっさとここにあるはずのキアルを取りに行かねば。
「お兄様、道は一本だけです。皆様と途中で合流出来るかわかりませんが、急ぎましょう!」
「っと、そうだな。こんな薄気味悪いとこは、俺もお前さんもあんま居たくねぇしな?」
お互い頷き合ってから、地図にある広場を目指して一目散に駆け出すことになった。
舌をかまないように口を閉じながら前を見たけれど、どこを見ても神域と言う名からかけ離れた不気味な森にしか見えない。
むしろ、伝説にある『魔鏡の森』に似てるような……。
(まさか、ここが……?)
もしそうだとしても、人間の子をからかうのがお好きでいるフィルザス様にしては趣味が悪い。
戦闘経験のないカティアさんやセリカにお兄様達がご一緒でも、万が一のことがあったらと思うと背筋に悪寒が走った。
(……いいえ、そんな地であるはずがないわ)
サイお兄様に抱えられながら周囲の気配を出来るだけ探っても、魔獣の持つ独特な妖気は感じ取れない。
お兄様も特に何も言われないから、わたくし以上に気配を探りながら進まれているはず。
現在大将軍のお父上より若手の将軍ではあっても、魔獣討伐数は天下一品ですもの。
「もう少し上げるぞ、しっかり掴まっとけ!」
そう言いながらも、本当に速度を上げられたのでわたくしは思わず彼のたくましい胸板にしがみついた。
耳が当たると、聞こえてきた鼓動が思った以上に速かったのに驚きを隠せなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(セリカ視点)
ついたばかりの時は、子供のように叫んでエディお兄様にしがみついてしまった。
おまけに、女性の象徴である胸を押し付けるなんて破廉恥なことまで。
逃げ出してしまいたかったが、そうもいかない状況なので黙ったままお兄様に抱えられることにした。
だけど、
(み、密着するのを実感したら、し、心臓が落ち着かないわ!)
お兄様は走り続けることに集中しているから気づかれていないが、私はお兄様の鼓動を耳から受け取るだけ。
飛ばされた場所から移動する時と変わらず、お兄様の鼓動は速い。
きっと急いでいるからだと最初は思ったけど……もしかして、って思うこともあった。
幼い頃と違って、一応は成人した女性の身体を抱えてるのだ。ファルミア様にも認めていただいた女性らしい身体を抱えたことで、意識してくださったのかもしれない。
(そう、なのかな?)
ほんの少し顔を上げれば、真剣に前を見ながら走っているお兄様の横顔が見えた。
あの事件が起きた頃よりも男らしく、素敵な殿方の顔立ち。
美しさはゼルお兄様、軍人として人気が高いのはサイノスお兄様。
エディお兄様は、人間としては頂点に立つ若き神王としてとても人気が高い。
戻る前までは、街でも出回る姿絵で拝見はしてきたけれど……間近で見ると絵なんて霞んだものでしかなかった。
こんな素敵な方を想うだけでも畏れ多いのに、今抱えられてる状況は本当に信じがたい。
フィルザス様が提案してくださったことでも、こんな逢引があっていいのだろうか。
(逢引と言えば、カティアちゃんはまだ大丈夫でしょうけど……アナお姉様は大丈夫かしら)
片想いの期間は、下手したら私以上だから。
「……走っても走っても見えて来ねぇなぁ?」
走り出して八半刻過ぎようかとした頃に、やっとエディお兄様が口を開いてくださった。
私も前を見たけれど、風景は黒ずんだ木々と地面に激しい雨が降りそうな暗雲は変わらない。
地図を見ても、目印らしい箇所も特にないからどこを走ってるかもわからないのだ。
「キツくなったら俺の腕を強く掴めよ? そうじゃなきゃ、舌かむから服引っ張れ」
口を開く前に言われてしまったので、上手く伝わるように袖をぐっと引っ張った。
「んじゃ、フィーには負けっが落ちんなよ?」
そう言い切るよりも早く、お兄様は加減していた速度を思いっきり上げ、風のように走り出した。
頬にかかる風が痛くて、迷わずお兄様にしがみつく。
道は一直線じゃないから、時折右へ左へと揺れることもあった。
でも、終わりを迎える頃には段々と速度が遅くなっていく。
着いたのかと思って少し前を見たら、暗い森の中なのにそこは聖樹のように黄金に輝いていた。
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