チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號

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第2章

第百七十ニ話 宝玉の中で 其の二

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   ラッテの後を追いながら、鞘を十数個に切り分けた黒い玉の正体は、何か光線みたいな攻撃を繰り出すか、障壁のようなものを展開するものだと勝手に想像していた。

 黒い玉はそれぞれ一定の間隔を保ちつつ、ラッテを中心に遠ざかっていく。

 突如、体を貫くような大音響でドラムの音……そしてこの世界で聞くことはないだろうと思っていたシンセサイザーと重低音ベースによるテンポの速い演奏が続く。さらに重厚でマシンガンのようなエレキギターが鳴り響く。

 元いた世界の音楽をこんなところで聞くことになるとは思わなかったな……。

 ハスキーな男の声で聞いたことのない言語で歌が紡がれているが、ログにはご丁寧に訳が流れている。

~♫

” 望まない約束の時が来た、奴らは俺たちを支配し、すべてを奪っていく

 もう終わりなのか?こんな最後を俺たちは望みはしない

 この悲しみは運命なのか?

 そうだとしても抗い続けろ

 彼(か)の者はきっと来る

 彼(か)の者に祈れ、叫べ、必ずその願いは届く

 心に刻め、全てを見届けよ

 その功績を、起きた奇蹟を

 俺たちは必ず救われる ”

♫~

 エレクトリックな音楽とボーカルの声はマッチし、時には低音のしゃがれた声で、サビでは高音を伸びやかに、男の声には切実で訴えかける力を持っている。

 やべぇ、ギターが超カッコいい……。

 雷に打たれたようにイントロから一番が終わるまで全くと言っていいほど動けなかった。

 ……ふつふつと勇気が湧いてくる。

 このままラッテだけに任せていいのか、と心の声が聞こえる。

 俺にも何かできることはあるだろう。船の操作はロンダールに任せ、スティックを一本取り出し、精気を足に絡めて空中に飛び出した。

「俺も出る。ロンダール、ついてこなくてもいいから安全なところで待機だ」

「承知」

 あれだけの数を魔力での攻撃無しで倒すには無理があると勝手に思い込み弱気になっていたのかもしれない。魔力が使えなくても、俺には精気コントロールやクロック・アップがある。

 武器として真っ先にイメージしたのはメイスの先についている棘のある球だった。精気だけでは棘の鋭さは出せないが、巨大なドラゴンが相手なら鋭さは必要ない、十メートルの大きさのものを、ある程度の速さでぶつけてやれば大きなダメージを与えることは可能だろう。

 ラッテがまとっているパーツを真似して、精気を胴回りと腕に巻きつけ、ラッテに並ぶ。

「やはりアキトが一緒だと心強いな……」

「伝説の冒険者であっても、怖いものなのか?」

「全く恐怖を感じなくなってしまうと冷静な判断ができなくなるんだよ。それに来てくれたことで、全力以上の力が出せる。これに精気を注ぎ続けてくれ。大食らいかもしれないが、この状況だからな許してほしい」

 そう言うと、俺に向かってラッテ自身のモンスター・コアを放り投げた。

「任せておけ」と、力強く返すとラッテはモンスターに向かって一筋の光となって飛び込んでいった。


~♫

 ” 漆黒の闇夜に刻まれた、鈍く光る赤黒い文字

 招かれざる来訪者が、異界との扉をこじ開ける

 悪しきものを従え降臨し、やがて絶望が街を包むだろう
 
 祈れよ、叫べ

 願いは彼(か)の者に必ず届き、力となるだろう

 憂うことは何一つない、ただ一途に信じ続けろ

 心に刻め、全てを見届けよ

 明日へと続く希望の戦いを! ”

♫~

 一曲目が終わると次の曲が流れてきた。

 曲はヘビィメタル、パンクロックなどテンションが高まるものや、頭を振りたくなるものなど多種多様だが、全てに共通することは、のりやすいリズムで名曲ぞろいだった。
 それに曲から勇気と力をもらっているような感じがしたので、ステータスを見るといつもより数値が三割増しになっていた。

 ラッテは高速で飛び回り、巨大なドラゴンであろうと首を一撃で切り落としている。

 さぁ俺もやるか、……クロック・アップ発動!

 ラッテの邪魔にならないよう、棘の付いた球体数十個をコントロールして、モンスターたちにぶつけて倒していく。

 倒したモンスターから精気が霧散していくのが見えた。

 もったいないからあれも取り込みたいな……。そう思いついてしまうと即行動に移る。棘を突き刺した所から精気を吸い出し、外側の球体にため込むイメージを送る。

 精気搾取(エナジードレイン)

 精気を吸い取られたモンスターは、少ししぼむと地上へと落ちていく途中で光の塵となり、消えていく。

 棘のある球は精気をとりこむほどに大きくなり、ある程度大きくなったものは、半分に分けて一つは手元に戻してスティックに収めていく。

 ラッテも快調にモンスターを倒していき、三十分ほどで敵の半分は倒せただろう。

 俺は途中からクロック・アップを解除し、ノリの良い音楽に体を預け、作業(さつりく)を淡々とこなしていく。

 少し余裕ができたのかラッテが戻ってくる。

「この分だとあと少しでなんとかなりそうだな」

「あとはあの巨大な龍をどうやって倒すかだな……」

「ロウブレンの魔力撃は使えないから、あれを倒すだけの攻撃は俺は持っていないよ」

「他のモンスターと同じってことでちょっとやってみるか……、援護を頼む」

「わかった」と言って近づいてくるモンスターを倒しはじめる。

 棘のある球を寄せ集めて、龍の胴体よりも長い巨大な槍を作り出す。黄金に輝く槍に少し装飾をしてみる。……うん、美しくいい出来上がりだ。

 それを真上から超高速で突き刺し地面まで貫通させると、周りを一緒に飛んでいたモンスターがどれだけ倒されようとも悠々と空を泳いでいた黒龍だったが、悲鳴というより地響きのような大きな唸り声をあげ暴れ始める。

 精気の扱いはコツを掴んだので急速で精気を吸い出していくことができる。吸い出した精気で同じ槍を、二本、三本と本数を増やし、それをさらに胴体に突き刺していくと体全体が地面に墜落した。

 そうこうしているうちに頭がこちらに突っ込んでくるのが見えた。反対側からも尾が向かってきている。

「アキト、デカイのがこっちに向かって来るぞ」

 上空に逃げても上手く逃れられるかわからないな。

 クロック・アップ発動。

 静寂の中で、狙いを定めて頭と尾に斜めから二本ずつ貫くと抵抗することを諦めたようにおとなしくなった。

 たまにバタバタと暴れたりするが、あまり動きのない黒龍を相手に終わりがないと思われるくらい精気を吸い出す作業が続く。吸い出された精気を次から次へとスティックに注ぎ込む。当然俺一人では手が足りないので一緒に作業をしているロンダールがポツリともらす。

「果てしない精気の量ですな……」

「吸い出さないと帰れないんだから、やるしかないだろう」

 ラッテはしばらくの間、モンスターを倒していたが向かってくるのもなくなり、散り散りになったので今は待機している。

 山の上に作業場を移し、横ではテーブルを出してラッテ、ゾンヌフ、エルガードが、おつまみを食べ、酒を飲みながらこの光景を眺めている。

「なんとも想像を絶するような光景だな、ゾンヌフよ」

「言葉で表現できませんね……。まったくあんな化物をいとも簡単に倒してしまうとはアキトの戦闘能力は神をも超えているのではないでしょうか?」

「精気搾取(エナジードレイン)で倒すなんて想像つかなかったよ、やっぱアキトはすげーよ」

 なんだか楽しそうにワイワイやっている横で作業は続く。集中しないと作業スピードは落ちる。それだけ終わりが遠のくと思うと椅子には座っているが、飲み食いにあまり時間をかけることはできない。

「ロンダール、精気吸い出すだけにして、スティックに収めるのはあきらめないか?」

「何を言っておるのですか、そんなもったいないことは儂は許しませんし、カラル様も絶対に認めませんぞ、それにアキト殿の精気を吸い出す速度は儂とは比べ物にならないほど速い。これもまた修行と捉えて精進くだされ」

 精気の扱いは確かに上達した。こと精気に関しては厳しいロンダールだったが、そのおかげで今回は精気のことを多く学ぶことができた。いい機会だからその言葉に素直に従うことにした。

「ああ、そうだ、ラッテ、あの演奏はどこで手に入れたんだ?」

「嫁たちには『うるさい』とか言われて不評だけどな……。良いだろう、轟音結界……」

「不評なんだ……俺はあの演奏は好きだな」

「曲をかけると力が湧いてくるんだよ」

 ステータス向上効果が仲間にも波及する広範囲結界。実に素晴らしい道具だ。

 この世界にはクラシック音楽で使う楽器しかないと思っていたが、ああいう楽器と演奏もあることを知ってとても嬉しかった。

「他にも曲はあるんだろ?」

「ああ、俺のことを歌った曲やそうじゃないのもいっぱいある、全部で数百曲くらいかな」

「いいね、なんかこうリラックスできそうなの聞かせてくれよ」

「りょーかい」
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