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第2章
第百七十一話 宝玉の中で
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部屋の中に魔力が充満する。カチカチカチと時間を刻む音が聞こえ、しだいに視界にもやがかかり次の瞬間には部屋から外に切り替わる。
気温が低く空気が澄み、清々しさを感じる。
そこは霧がかかる山の山頂。そして呆然とたたずむ五人の男たち……。
しばらくすると霧の切れ間から山水画に描かれているような山々が遠くまで連つらなっているのが見えた。かなり広大なフィールドだな。
「ん!?……んん?」
先ほどまで自信満々だったラッテが少しおどおどし始めている?
「お~これは随分と広い亜空間、それも少し厄介ですなぁ」
ロンダールがぽつりともらす。
「厄介ってなんだよ……」
そう言いながら極私的絶対王国(マイキングダム)を発動…………あれ?極私的絶対王国(マイキングダム)発動……しない。箱魔法が発動しない。魔力が霧散し、大地に吸い込まれているのか……。火魔法もいくつも発動させたが結果は同じですべて消えていく。魔力無効フィールドか……。
「おーい、ラッテこの状況は経験済みなんだよな?」
「あ……あぁ……一度エルフの魔石の中に入ったことはあるんだよ。キアートの母が持っていたものでね……その時は俺一人で入って、全身に紫の炎をまとったサラマンダーと対峙したんだが、当時は魔法とか一切使えなかったから、魔力を吸い込まれるなんて思わなかったよ……」
魔石の種類によるものかもしれない。
「魔力のこともあるが、この広大なフィールドからそいつを探し出すのか?」
「いや、その時はこんなに広くもなくて、荒野だったし、すぐに見つけることができた。それで数時間かけてサラマンダーを倒したあとたどり着いたのがこの妖刀ロウブレンだったんだ」
妖刀ロウブレン……その刀で切れないものは何もないと思われるくらい不思議な金属でできている。この世界には存在し得ないオーバーテクノロジーな代物だ。
「今回も何か強力な武器が手に入ると安易に考えていたんだけどな……」
ラッテは予想していなかった展開に戸惑いつつも、楽しそうな顔をしているが、俺も同じだった。できることをしていくしかないな。
それにしても魔法が一切使えないのは、困ったものだ。一体どんなお宝が待っているのか、楽しみではあるが、ここは生き残ることが先決なので、三十分ほどかけて状況確認を行う。食料はアイテムボックスにあるものを全員で出し合うと一ヶ月ほど生活ができるほどあった。魔力が全く使えないが、この空間でも精気を自由にコントロールできることがわかった。
精気を使って通信ができる指輪を人数分をロンダールから受け取る。
「通信距離は数キロがいいところでしょう」
「ありがとう、助かるよ。戦力となりそうなモンスターを生成して戦わせる感じになるか?」
「それもありますが、儂はできんのですが、カラル様が使われている”魂宿剣(こんしゅくけん)”は魔力と精気を使っての武器でしたので、それを真似て精気だけで生成してみてはどうですかな?」
カラルの魂宿剣も相当な切れ味を持つ剣だ。
「スティックはどれだけ持っている?」
「スティックは百と三十、モンスター・コアは三千体分ほど持っておりますぞ」
俺も先日の異世界侵略からの防衛で亜種魔族が飼っているモンスターたちから随分と吸い上げているので、精気はいくら使っても気にしなくてもいいほど持っている。ロンダールから魂宿剣のコツを聞き、練習すること一時間……。
「刃先をもっと鋭くはなりませんかな?」
「……刃というよりか鈍器だな……」
魔力がないと切っ先の鋭さは再現できないようだ。空中に浮かせてコントロールはできるので、足場として使えるかもしれない。
妖刀ロウブレンの鞘を空飛ぶ船に変形させて周辺の捜索をしているラッテから連絡が入る。
「周辺にはめぼしいものは見当たらないな」
「わかった、一旦戻ってきてくれ」
行き当たりばったりに探しても効率が悪いかもしれないな。
「精気で擬似地脈を作れば、スティック一本でかなり遠くまで地中、地上含めて探索は可能ですぞ」
そんなこともできるのか、精気のコントロールもなかなか奥が深いな……。ロンダールがいてくれて良かった。
スティックから精気を取り出す、大地に手をおいて染み込ませる。目を閉じ大地の構造を感じ取る、山をくだり、川の下をくぐる。ダンジョン生成に必要な能力の応用だ。地中、地表に何があるのかどこに通路を通すのか設計するときに役に立つ。幅五キロ、距離も三百キロほどスキャンをしたがモンスターはそこら中にウロウロしている以外には人工物らしきものは見つからなかった。
ロンダールも同じ結果だったようだ。次に方向を変えてスキャンを行うがここもまた何も見当たらない。四方向だけでは隙間があるので八方向スキャンをするとある方向で建物らしき痕跡群を発見した。
ラッテの鞘から作られた飛空船に乗り込む。速度は俺の箱魔法よりも随分遅く時速五、六十キロほどだろう。目的地までの距離はおよそ二百キロ。移動中ずっと甲板にいるのは寒いので、広い船室に移動する。
「休めるときに休んどかないとな……」
ラッテが休むことを提案してくれた。俺もラッテも体力的には問題ないのだが、酒が入っている状態でここに来ているし、目を閉じて横になるだけでも少しは抜けるはずだろう。
全員がベッドを出して、横になる。
「すまない、我らが変なことに首を突っ込んでしまったばっかりに……」
皇帝エルガードは申し訳なさそうにしている。
「俺のためにエルフをナンパして合コンでも計画しようとしたんだろ?」
と、確認するとゾンヌフが嬉しそうに口を開く。
「エソルタ島の攻略進捗を把握しておくのも務めなのだが、直にその雰囲気を見るのは大切と思っていてな。前線の酒場を巡り、冒険者たちの生の声を聞いて必要なものがないか探ったりしているんだ」
「そんなの商人にまかせておけばいいものを……で、そのついでにあのエルフたちを見つけたと……」
「ああ、女エルフだけの冒険者集団なんて珍しいだろ?なんとしてもアキトのためにと思って、陛下にもお越しいただいたのだが……」
そんなことでわざわざ皇帝を出してくるなよ……。エルガードも「重要なアキト案件だからな……」とか言っちゃってるが、その気持ちは嬉しい。
「アキト殿はエルフが好きなのですかな?」
ロンダールが改めて確認してくる。
「まあ、好きっていうか……希少なものに惹かれるというか、性分というか……」
「その気持はよく分かるよ、アキト!キアートも幼馴染なんだが、周りの女とはぜんぜん違うな。守ってやりたいって本能で思ってしまうよね」
「おお、わかってくれるかラッテ!」
全員ベッドで横たわり、まるで修学旅行の就寝前のイベントのように盛り上がっている男子五人。
そんなこんなで休めたかどうかよくわからなかったが、お互いの親交を深めつつ、目的地に近くに到着した。飛び交う魔物たちと付近をうろつく魔物を一掃し、目的の建物にたどり着いたのだが、腐食具合から十数年以上経過したものだとしか分からなかった。
「ここでも手がかりなしか……」
「いや、そうでもなかったぞ、アレだ」
ラッテが指差す方向、遠くの空に黒い帯が見える。
「何だあれは?」
凝視することで分析能力が働く。
◇ ◇ ◇
黒龍
◇ ◇ ◇
他の情報がまったく表示されない……。黒ではあるが色の濃淡がなく、平坦に見え、生き物なのかどうかもわからない。
大きさは錯覚かと疑いたくなるほどで、幅は山の半分よりも太くゆうに五百メートルはあるだろう、頭も尻尾も全く見えずその全長を伺うこともできない。その黒い帯のような胴体が、まるで水の中を泳ぐように進んでいる、一体どうやって空を飛んでいるのだろう。
その黒い帯の付近をワイバーンやドラゴンが一緒に飛んでいる。数にして数千体以上。
「アキト、作戦を!」
「作戦つっても、戦力になるのはラッテと俺とロンダールの精気を使うくらいか?」
「後は召喚もありますぞ」
「おそらくあの龍は倒さないと、この空間から出ることはできない」
「戦いながら、方法を見つけていくか……となればラッテは先制攻撃を頼む、あの周りを飛んでいる奴らから片付けていこう」
「緊急退避は地中深くに潜りますので、指示を頼みますぞ」
「わかった」
ラッテは鞘を空中に放り投げ、ロウブレンで十数個に切り分けた。その幾つかにロウブレンから精気を送り込み、さっき乗ってきたものよりか少し小さい飛空船を作り出す。
「そいつは精気を流し込めば、コントロールできる。アキトとロンダールなら扱いは簡単にできるはずだ、それで近くについてきてくれ」
他にも鞘の断片は二つはブーツになり、二つは二の腕に巻き付き、残りの二つは背中あたりに巻き付いている。鞘から防具を作り出しているのか?
鞘の残りの三個を更に十数個に切り分け、丸い黒い球体に変化させた。アイテムボックスから、玉を取り出し、それぞれに埋め込んだ。
「なんだそれは?」
「まあ、験(げん)担ぎというか、雰囲気作りの一つだ、始まればわかるよ」
そう言ってラッテはその黒い球体と一緒に空中に飛び立った。なるほど防具だと思っていた物は空を飛ぶための物だった。俺たちも飛空船に乗り込みラッテの後についていく。
気温が低く空気が澄み、清々しさを感じる。
そこは霧がかかる山の山頂。そして呆然とたたずむ五人の男たち……。
しばらくすると霧の切れ間から山水画に描かれているような山々が遠くまで連つらなっているのが見えた。かなり広大なフィールドだな。
「ん!?……んん?」
先ほどまで自信満々だったラッテが少しおどおどし始めている?
「お~これは随分と広い亜空間、それも少し厄介ですなぁ」
ロンダールがぽつりともらす。
「厄介ってなんだよ……」
そう言いながら極私的絶対王国(マイキングダム)を発動…………あれ?極私的絶対王国(マイキングダム)発動……しない。箱魔法が発動しない。魔力が霧散し、大地に吸い込まれているのか……。火魔法もいくつも発動させたが結果は同じですべて消えていく。魔力無効フィールドか……。
「おーい、ラッテこの状況は経験済みなんだよな?」
「あ……あぁ……一度エルフの魔石の中に入ったことはあるんだよ。キアートの母が持っていたものでね……その時は俺一人で入って、全身に紫の炎をまとったサラマンダーと対峙したんだが、当時は魔法とか一切使えなかったから、魔力を吸い込まれるなんて思わなかったよ……」
魔石の種類によるものかもしれない。
「魔力のこともあるが、この広大なフィールドからそいつを探し出すのか?」
「いや、その時はこんなに広くもなくて、荒野だったし、すぐに見つけることができた。それで数時間かけてサラマンダーを倒したあとたどり着いたのがこの妖刀ロウブレンだったんだ」
妖刀ロウブレン……その刀で切れないものは何もないと思われるくらい不思議な金属でできている。この世界には存在し得ないオーバーテクノロジーな代物だ。
「今回も何か強力な武器が手に入ると安易に考えていたんだけどな……」
ラッテは予想していなかった展開に戸惑いつつも、楽しそうな顔をしているが、俺も同じだった。できることをしていくしかないな。
それにしても魔法が一切使えないのは、困ったものだ。一体どんなお宝が待っているのか、楽しみではあるが、ここは生き残ることが先決なので、三十分ほどかけて状況確認を行う。食料はアイテムボックスにあるものを全員で出し合うと一ヶ月ほど生活ができるほどあった。魔力が全く使えないが、この空間でも精気を自由にコントロールできることがわかった。
精気を使って通信ができる指輪を人数分をロンダールから受け取る。
「通信距離は数キロがいいところでしょう」
「ありがとう、助かるよ。戦力となりそうなモンスターを生成して戦わせる感じになるか?」
「それもありますが、儂はできんのですが、カラル様が使われている”魂宿剣(こんしゅくけん)”は魔力と精気を使っての武器でしたので、それを真似て精気だけで生成してみてはどうですかな?」
カラルの魂宿剣も相当な切れ味を持つ剣だ。
「スティックはどれだけ持っている?」
「スティックは百と三十、モンスター・コアは三千体分ほど持っておりますぞ」
俺も先日の異世界侵略からの防衛で亜種魔族が飼っているモンスターたちから随分と吸い上げているので、精気はいくら使っても気にしなくてもいいほど持っている。ロンダールから魂宿剣のコツを聞き、練習すること一時間……。
「刃先をもっと鋭くはなりませんかな?」
「……刃というよりか鈍器だな……」
魔力がないと切っ先の鋭さは再現できないようだ。空中に浮かせてコントロールはできるので、足場として使えるかもしれない。
妖刀ロウブレンの鞘を空飛ぶ船に変形させて周辺の捜索をしているラッテから連絡が入る。
「周辺にはめぼしいものは見当たらないな」
「わかった、一旦戻ってきてくれ」
行き当たりばったりに探しても効率が悪いかもしれないな。
「精気で擬似地脈を作れば、スティック一本でかなり遠くまで地中、地上含めて探索は可能ですぞ」
そんなこともできるのか、精気のコントロールもなかなか奥が深いな……。ロンダールがいてくれて良かった。
スティックから精気を取り出す、大地に手をおいて染み込ませる。目を閉じ大地の構造を感じ取る、山をくだり、川の下をくぐる。ダンジョン生成に必要な能力の応用だ。地中、地表に何があるのかどこに通路を通すのか設計するときに役に立つ。幅五キロ、距離も三百キロほどスキャンをしたがモンスターはそこら中にウロウロしている以外には人工物らしきものは見つからなかった。
ロンダールも同じ結果だったようだ。次に方向を変えてスキャンを行うがここもまた何も見当たらない。四方向だけでは隙間があるので八方向スキャンをするとある方向で建物らしき痕跡群を発見した。
ラッテの鞘から作られた飛空船に乗り込む。速度は俺の箱魔法よりも随分遅く時速五、六十キロほどだろう。目的地までの距離はおよそ二百キロ。移動中ずっと甲板にいるのは寒いので、広い船室に移動する。
「休めるときに休んどかないとな……」
ラッテが休むことを提案してくれた。俺もラッテも体力的には問題ないのだが、酒が入っている状態でここに来ているし、目を閉じて横になるだけでも少しは抜けるはずだろう。
全員がベッドを出して、横になる。
「すまない、我らが変なことに首を突っ込んでしまったばっかりに……」
皇帝エルガードは申し訳なさそうにしている。
「俺のためにエルフをナンパして合コンでも計画しようとしたんだろ?」
と、確認するとゾンヌフが嬉しそうに口を開く。
「エソルタ島の攻略進捗を把握しておくのも務めなのだが、直にその雰囲気を見るのは大切と思っていてな。前線の酒場を巡り、冒険者たちの生の声を聞いて必要なものがないか探ったりしているんだ」
「そんなの商人にまかせておけばいいものを……で、そのついでにあのエルフたちを見つけたと……」
「ああ、女エルフだけの冒険者集団なんて珍しいだろ?なんとしてもアキトのためにと思って、陛下にもお越しいただいたのだが……」
そんなことでわざわざ皇帝を出してくるなよ……。エルガードも「重要なアキト案件だからな……」とか言っちゃってるが、その気持ちは嬉しい。
「アキト殿はエルフが好きなのですかな?」
ロンダールが改めて確認してくる。
「まあ、好きっていうか……希少なものに惹かれるというか、性分というか……」
「その気持はよく分かるよ、アキト!キアートも幼馴染なんだが、周りの女とはぜんぜん違うな。守ってやりたいって本能で思ってしまうよね」
「おお、わかってくれるかラッテ!」
全員ベッドで横たわり、まるで修学旅行の就寝前のイベントのように盛り上がっている男子五人。
そんなこんなで休めたかどうかよくわからなかったが、お互いの親交を深めつつ、目的地に近くに到着した。飛び交う魔物たちと付近をうろつく魔物を一掃し、目的の建物にたどり着いたのだが、腐食具合から十数年以上経過したものだとしか分からなかった。
「ここでも手がかりなしか……」
「いや、そうでもなかったぞ、アレだ」
ラッテが指差す方向、遠くの空に黒い帯が見える。
「何だあれは?」
凝視することで分析能力が働く。
◇ ◇ ◇
黒龍
◇ ◇ ◇
他の情報がまったく表示されない……。黒ではあるが色の濃淡がなく、平坦に見え、生き物なのかどうかもわからない。
大きさは錯覚かと疑いたくなるほどで、幅は山の半分よりも太くゆうに五百メートルはあるだろう、頭も尻尾も全く見えずその全長を伺うこともできない。その黒い帯のような胴体が、まるで水の中を泳ぐように進んでいる、一体どうやって空を飛んでいるのだろう。
その黒い帯の付近をワイバーンやドラゴンが一緒に飛んでいる。数にして数千体以上。
「アキト、作戦を!」
「作戦つっても、戦力になるのはラッテと俺とロンダールの精気を使うくらいか?」
「後は召喚もありますぞ」
「おそらくあの龍は倒さないと、この空間から出ることはできない」
「戦いながら、方法を見つけていくか……となればラッテは先制攻撃を頼む、あの周りを飛んでいる奴らから片付けていこう」
「緊急退避は地中深くに潜りますので、指示を頼みますぞ」
「わかった」
ラッテは鞘を空中に放り投げ、ロウブレンで十数個に切り分けた。その幾つかにロウブレンから精気を送り込み、さっき乗ってきたものよりか少し小さい飛空船を作り出す。
「そいつは精気を流し込めば、コントロールできる。アキトとロンダールなら扱いは簡単にできるはずだ、それで近くについてきてくれ」
他にも鞘の断片は二つはブーツになり、二つは二の腕に巻き付き、残りの二つは背中あたりに巻き付いている。鞘から防具を作り出しているのか?
鞘の残りの三個を更に十数個に切り分け、丸い黒い球体に変化させた。アイテムボックスから、玉を取り出し、それぞれに埋め込んだ。
「なんだそれは?」
「まあ、験(げん)担ぎというか、雰囲気作りの一つだ、始まればわかるよ」
そう言ってラッテはその黒い球体と一緒に空中に飛び立った。なるほど防具だと思っていた物は空を飛ぶための物だった。俺たちも飛空船に乗り込みラッテの後についていく。
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