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第2章

第百五十三話 取り調べ

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 国境問題も一段落ついたので、エソルタ島の状況を見に行く。カラルはエソルタ島に拠点を持っているのでそこへ転移魔法陣で移動が可能だ。移動が完了した後に俺がカラルへの通信兼転移魔法指輪で転移する。

 転移先はエソルタ島カノユール王国、王都ザインの城下町の戸建て住宅だ。ザイン城門の目の前にあり、常に衛兵が門の前にいるのと、宰相のゾンヌフから警備兵に目の前の家に出入りがあれば、俺たちのことも含め、報告するようになっている。

 さてとゾンヌフに連絡するかな……極私的絶対王国(マイキングダム)でザイン城内を探る。どうやら会議中なので終わるまでの間、レイラやユウキ、ルーミエに連絡をとって、お互いの状況を報告や雑談する。

 そうこうしているうちに、ゾンヌフの会議も終わったので極私的絶対王国(マイキングダム)で話しかける。

「アキトだ。伝えたいことがあるが時間はあるか?」
 
 ゾンヌフも慣れたもので、突然の声に驚きもせずに答える。

「今からなら時間はある。城の前の家か?これからそっち行く」

「わかった。待っている」

 窓から城の方を見ているとマントを被った二人がこちらに歩いてくるのが見えたのでドアを開けて迎え入れる。ゾンヌフともう一人はエルゴート陛下だった。俺との握手も早々に、カラルに丁寧な挨拶をする皇帝。

「カラル殿、ますますお美しくなられて……」

 女好きではブレない陛下。特に咎めることなくスルーするがカラルもほどほどに相手をする。

「あら、陛下。お褒めにあずかり光栄です」

 応接に案内して、カラルにお茶菓子などを準備してもらう。その間にロスニェル国との国境付近で行ったことを報告する。

「では、明け方の国境付近が騒がしいという報告はアキトが起こしたものなのだな?」

「そうだ。警戒は高めてもいいが、くれぐれも国境には近づかないように注意を呼びかけてくれ。魔人も野放しにしているので、出会うとほぼ命はないと思った方がいいぞ」

「予も引っかかりそうな罠よな……」

 その場にいた俺たちは頷いていた。確かに女好きの皇帝は一発でアウトだな。

「これからは様子を見ながら、手段を変えて国境を警戒していく。当面は現状維持で頼む」

「わかった。……それにしても我々が頭を抱えてきた問題をこのように簡単に片付けてしまうのも流石だなアキト」

「まだ片付いてはないが、国境問題は実験的な意味も含んでいるから、長い目で見てくれ」

 カラルはお茶を給仕し終えて、俺の隣に座った。

 カガモン帝国の俺への要望は二点あった。一つは今報告した国境問題。もう一つは数年前の先代皇帝の暗殺事件に関してだ。こちらは毒殺であり、暗殺者は身元は不明で今は証拠と呼べるものは何一つ残っていない。こちらに関しても解決への手段は準備していて、当日にその犯人に関係する者がいないか確認することになる。

「で、もう一つ依頼があった暗殺事件なんだけれど……、これは陛下にも協力いただきたいと思っている。具体的に何をするのかは口で説明するのは難しいので実際に体感してもらった方がいいだろう」

 ゾンヌフは興味深げに乗り出した。そして俺は続ける。

「……それで試しに”最近触れた異性の体について”探っていこうと思う」

 今回の実験では相手の無意識のうちに答えを導き出すというものだ。今回問いかける内容は、一つ目は昨晩異性とアレをしたか?二つ目はその人数だ。

「嘘を言われると判断がつかないだろう?」と、ゾンヌフは疑っている。

「まあ、普通はそうなるよな~」

 と、とぼけながら、極私的絶対王国(マイキングダム)を発動し、心の中で一つ目の質問を投げかけ、そして命じる。『アレをしたのなら右耳の後ろを掻け』

 するとごく自然の動作で、違和感なく俺以外の三人の手が動いた。

 エルゴートは耳を掻いている。ソフィアとマアヤがエソルタ島にいるからであり、以前に二人を相手にして精力が持たないなんていう相談も受けていたので間違いないだろう。カラルは俺としたし……ゾンヌフも右耳の後ろをポリポリと掻いている。

「ゾンヌフは昨日家に帰ったか?」

「なんだ、そんなとこから始めるのか?こんなに忙しいのに帰られるわけないだろう。まったく……」

 帰っていないのにアレをしているのか?

 二つ目の質問を心の中で投げかける『その相手が一人なら頭を掻け、二人以上なら鼻の頭を触れ』

 エルゴートは鼻を触り、カラルは頭を掻いている。ゾンヌフは……鼻を触っている!?

 確かゾンヌフのところは奥方同士はあまり仲が良くない、加えて子供も小さいのでエソルタ島に来ているとは考えにくい。何かあるな……。

「大体のことはわかった。陛下はソフィアさんとマアヤさんと楽しい夜を過ごされたようですね」

「エソルタに来たのだ。当然だろう」

「カラルは俺と一緒だったし……さてゾンヌフ君」

「!」

 ビクッと体を震わせる宰相。

「君は昨晩、家にも帰らず誰とお楽しみだったのかな?」

「……い、異性に触れるなんて俺にはよくあることだぞ」

 ゾンヌフは俺がまだ異性に触れたかどうか、という最初の質問について探っていっていると勘違いしているようだ。

 話の次元はすでにそんなところにはない。極私的絶対王国(マイキングダム)の進化系で無意識に答えさせてしまうという、なんとも恐ろしい技を開発したのだ。

 ゾンヌフに追い込みかける。

 城の者に手を出したか?イエスなら顎に手を持っていけ。ノーなら手を膝に置け……違うようだ。

 となればエソルタ島での遊ぶところでの話か?イエスなら顎に手を持っていけ。

 ……お、イエスだ!

「宰相だもんな。城の中の女の子になんて手を出すわけないよな?」

 答えやすい質問を口にしながら、さらに具体的な質問を無意識下に投げかける。

「あ、当たり前だろう!」

 ネタばらしも含めて見ているエルゴートやカラルにもわかりやすく不自然な仕草をさせる。当のゾンヌフもどうして、おかしなポーズをしているのかもわからないまま、野球のブロックサインのように答えること数回。

 その結果ゾンヌフ君は、この城下町にある娼館のVIP特別室でエルフと獣人と人族の三人を相手にして、明け方まで乱ちき騒ぎをしていた。ということだった。

「ありがとう。よくわかったよ。家にも帰ることもできないほどの激務が続いてストレスも溜まってたんだな……。エルフ、人族、獣人の三人が相手か……」

「…………」

 バレているのかもしれないとゾンヌフは察知したようで、何も返してこない。最後のひと押しだ。

「娼館で明け方まで大活躍だったようだな。さっきの会議も眠くなかったか?……そうだ、これ飲んどけよ」

 机の上に体力回復のポーションを置いてやる。ゾンヌフの顔から血の気が引いていく。

「!!……アキト……いや、アキトさん!」

 エルゴートも俺が何も聞かずとも、真実にたどり着いていたことを理解する。

「三人相手にか……予は二人でもやっとだと言うのに……お前なかなかやるな」

「ち、違います陛下!これにはいろいろと……」

「ぷっ!!はっはっはっ……この忙しいのに恐れ入ったよ。よい、よい、お前には普段から苦労をかけておるからな。このことは他言せんから安心しろ」

 エルゴートは大ウケで腹を抱えて笑っている。

「そういうわけだ、ゾンヌフ。俺も”多分”誰にも言わないから、心配すんなよ」

「アキト!……さん。”多分”ではなく、”絶対”でお願いします」

 と、とすがりつく一国の宰相。

「ゾンヌフさん、顔をお上げになって……」

 俺の隣にいたカラルは席を立ち、ソファの後ろにまわり、腕を俺の首の前で交差させ軽くハグをすると、胸の柔らかくゆったりとした感触が首筋に感じられる。そして俺の頭の上から語りかける。

「お楽しみになられるのは元気な証拠で良いことですわ。……でもね、くれぐれもうちの夫をそのようないかがわしいお店に連れて行かないようにしてくださいねぇ」

 カラルの顔は見えないが部屋の空気が一瞬にしてヒリついた。一体どんな表情をして言えばそんなふうになるのか……それを見たゾンヌフだけでなくエルゴート陛下も背筋をピーンと伸ばし

「「はい!わかりました!」」と、軍人ばりの姿勢の良さと大きな声で答えていた。
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