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第3章 芽吹く恋、燃える恋
第31話 疾風のごとく(白雪姫視点)
しおりを挟む「こんなこと言いたくはないけれど、あなた、本当に勝つ気あるの?」
チッチッチッ――と、舌を鳴らしながら指を振る風間さん。
なぜかしら……イラっとするわ。
「勿論ただの漢字テストじゃありません。それだと間違いなく負けちゃいますし……」
「それは一体どんなテストなの?」
「作問は、花守先生にお願いしてあります」
わざわざ教師にテスト問題を作らせるだなんて、余計に心配だわ。ここでもし私が勝ってしまったら、次が一気にやり辛くなる。ここは、花守先生を信じるしかなさそうね。
――諸々の準備期間を設ける為、勝負の日取りはテストが終わる翌週に決まった。
そして憂鬱なままあっという間に月日は経ち、とうとうこの日がきてしまう。
5月23日金曜日――放課後を告げるチャイムが鳴ると、風間さんは「たのもー!」と、まるで道場破りのように意気揚々と私の教室である2年3組まで乗り込んできた。
何も知らない花守君は、突然の風間さんの来訪に驚嘆の声を上げる。
「夏樹ちゃん!? どうしたの?」
「は、春人先輩に用はありません! とっとと帰って下さい!」
「え……は、はい……」
肩を落としてトボトボと帰って行く彼の後ろ姿を、不覚にも少しだけ不憫だと思ってしまった。
「風間さんあなた……まだ彼へ素っ気ない態度を続けていたの?」
「はい……題して『アメとムチ作戦』です。この勝負に勝ったら、いっぱい春人先輩に甘えるつもりなので、かなり辛いですけど、今は我慢しています……」
「そう……まぁ、あなたがそれでいいのなら……」
彼はいついなくなってしまうか分からないのだから、今の内に甘えておきなさい……なんて、純粋無垢なこの子に言える筈なかった。
――程なくして、教室に花守先生がやってきた。
「揃ってるようね! じゃあ早速始めるわよ!」
そう言った花守先生は、テスト用紙ではなく、クイズ番組で見かけるようなフリップボードとペンを私たちに手渡した。
「先生……これは一体、なんのテストなんですか?」
「あれ、聞いてないの? 20年前に一世を風靡した私の大好きなバトルアクションアニメ――『ブラッドセブン』の技名クイズよ!」
思わず呆気にとられた私が風間さんを薄目で見つめると、彼女は「テヘヘ……」と、舌を出してとぼけていた。彼女はわざと負けようとしているのではと危惧していたけれど、どうやら、そんなつもりはサラサラないようね。
「伝説的なアニメですし何度も再放送されてますから、もちろん冬月先輩も見たことありますよね!?」
「え、ええ……」
さも当然かのように尋ねられて、つい勢いで知ったかぶりをしてしまったけれど、私はそんなアニメ知らない。マズイわ……このままだと的外れな解答をしてしまったら故意負けと判断されてしまうかもしれない。ここは正直に訂正しておいた方が良さそうね。
「あ、あのね風間さん……」
「じゃあ早速、第一問! デデン!」
私の言葉を遮っていることに気付いていない楽しそうな花守先生は効果音を自分の口から発すると、おもむろに黒板の上でチョークを走らせた。
そこへ書き出されたのは『疾風連撃・桜花疾風』という漢字の羅列だった。
振り返った先生が解説を付け加える。
「これは超初級問題だけど……舞い散る桜の花弁のように美しく華麗な連続攻撃を放つ主人公ハールトの必殺技よ。敵を翻弄し、一瞬の隙も与えない速さの剣技で敵を倒す――この技の正しい読みを答えなさい。早押しじゃないから、2人とも慌てずに答えを書いてね?」
ふぅ……心配して損したわ。風間さんも花守先生も、私を舐めているのかしら。こんな簡単な漢字の読み、誰でも分かるじゃない。普通に『しっぷうれんげき・おうかしっぷう』よね。…………で、でもよくよく考えてみれば、いくらなんでもここまで単純ではないのかしら。もしかしたら、何故か被っているこの『疾風』が鍵なのかも。まさか二度目の『疾風』は『はやて』と読むんじゃ……もしそうだとしたら『おうかはやて』だと、少しゴロが悪いわね。分かったわ――この答えは『しっぷうれんげき・さくらはやて』が正解ね。うん、なんかそれっぽいわ。これならもし間違っていても記憶違いで通せそう。
「そろそろいい? じゃあ2人一斉に解答をどうぞ!」
先生の号令と同時に、フリップを表向きにする。
「花守先生、これはいくらなんでも簡単すぎますよ~」
「ごめんごめん、まぁ一問目だからさぁ、これは流石に両者とも正解かな~」
和やかに談笑する2人は私のフリップを見ると、顔を曇らせ押し黙った。
「え……私、もしかして間違っていたかしら……こ、このアニメを見たのは随分と前だから、記憶違いをしていたのかも……」
「それにしても、ここまで違いますかね……」
あからさまに不満げな風間さんの表情で、自分の解答が的外れだったことを知った私は、彼女のフリップを覗くと……そこには『ブルーム・セ・レッソ』と、書かれていた。
――な、なぜカタカタなの……そしてなぜ『・』がひとつ増えているの……?
「今回は大目に見ますけど、次は真面目にやって下さいね?」
「え、ええ……」
「気を取り直して第二問、デデン! これは闇堕ちした主人公のかつての親友が劇場版でのみ披露した技だから、難易度はグッと上がるよ~」
次に黒板へ書き出されたのは『夢幻の崩壊世界』という、見たことのない寒気がするワードだった。
さっきの経験から考えれば、きっとまたカタカナね。こんなの絶対に当たる訳ないけれど、せめて怪しまれないようにしないと。
悩んだ末に私が出した答えは『ドリーミング・コラプスワールド』だった。
私のフリップを見た風間さんは手で口を押さえながら「プププ……」と、笑いを押し殺していた。やっぱりこの子、今ここで殺してしまおうかしら。
「これはかなり難問でしたし、流石の冬月先輩も当てずっぽうですか? 正解は『アンリミテッド・カタストロフィ』ですよ!」
ま、まさか……夢幻と無限をかけているのかしら。これはもう……恥を捨ててでも、知能レベルを落として挑まなければならないようね。
「さ、さすが風間さんね……やられたわ……ちなみに、これって何問あるのかしら?」
「10問先取が勝利条件ですが、先輩が望むならもっと増やしてもいいですよ?」
――嫌に決まっているわ……なによこれ、新手の拷問じゃない。
結局、私が一問も正解することなく風間さんの勝利へリーチがかかった10問目の技名は『凍剣乱舞・月下氷刃』だった。ここまで知能指数を極限まで下げていた私が導き出した答えは『アイスサーベルダンス・アンダー・ザ・ムーン』。これでどう? それっぽいわよね? そうだと言って? もう許してお願い……どうか今日は帰らせて……心が、すり減っていく気がする。
すぐに無情な解答タイムがやってきた。
クックック……と、勝ち誇った笑いの後に彼女は解答を声に出して叫ぶ。
「『とうけんらんぶ・げっかひょうじん』です!」
「正解!」
嬉しそうな花守先生は食い気味に風間さんを指さした。
カ、カタカナですら……ない。一体、違いはなんだと言うの……?
――私の精神はもう、限界だった。
「まだ、やりますか?」
「いいえ、私の負けよ……」
嬉しそうに全身で喜びを噛み締めていた彼女は、満面の笑みを向ける。
「じゃあ二回戦は来週の月曜日ですね!」
――私は恥ずかしさのあまり疾風の如く家に帰ると、土日をフルに使って『ブラッドセブン』全話を一気見した。
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