メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第1章

第6話 転校生は話したい

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「や、夜木君……こ、これ、昨日話した『マジカン』のインディーズ時代のオススメの曲と、歌詞に込められた想いを、私なりの解釈でざっくりまとめてきたので、よ、良かったら参考にしてみて下さい……」

 相変わらずのおどおどとした態度で、一冊のノートを向けてくる白峰さん。

 彼女と友達になってから1週間が経ち、席が隣ということもあって、俺たちは少しずつ距離を縮めていった。

「あ、ありがとう」

 受け取ったノートを開くと、そこには一冊まるまるビッシリと、文字とイラストで埋め尽くされている。

「え……!?   これ作るのとんでもなく時間かかったんじゃ……」

「は、はい……書いている内にどんどん愛と情熱が溢れてきてしまって……実は昨夜、徹夜しちゃいました……」

 確かに目の下にクマがうっすら確認できるも、その表情は穏やかだった。
 
 今、新進気鋭のロックバンド――『Magic Comber(マジックカンバー)』略して『マジカン』の熱狂的ファンである白峰さんとの会話は、主にそのバンドについて。勧められるままに聴いてみると、俺もすぐにその沼へどっぷりハマってしまっていた。

「えー?   何それ何それー!」

 突然、俺の席の前に現れた持田が食い入るようにノートを覗き込む。

「お前、ビックリさせんなよ……白峰さんが作ってくれたんだ」

「へぇ、めっちゃ詳しく書いてあんじゃん。白峰さんって『マジカン』好きなの?」

 持田からそう質問されるや否や、席を勢いよく立ち俺の後ろに隠れて身を縮こめる白峰さん。彼女はまだ、俺以外のクラスメイトとは口がきけないでいた。やっぱり緊張してしまうのだそうだ。まぁ、それに対し優越感を隠しきれない自分もいるわけで。

「おい持田、怖がらせるなって」

「おっと悪い悪い、やっぱまだダメかぁ。邪魔者は消えるとするわ~。んじゃ、また昼になー!」

「お、おう……」

 少し寂しそうな持田の背中を見送っていると、俺の椅子の後ろに隠れていた白峰さんが細々と囁く。

「ご、ごめんなさい……夜木君のお友達に……私……最低ですよね……」

「アイツも見た目はアレだけど、この位で腹を立てるような小さい男じゃないし、むしろ割と良い奴だから、少しずつ慣れればいいよ」

「は、はい……頑張ります……!」

 小さく両手でガッツポーズをして、白峰さんは自分の席へと戻っていった。


 ――さて、次の授業はなんだっけか……と、教室前方の時間割へ目を凝らすと、何者かにいきなり首根っこを掴まれ後ろに引かれる。

「ぐへぇっ……」

 情けない声を上げながら見上げると、不機嫌そうな遥香が、俺を物理的に見下していた。

「ちょっと顔貸して」

「もう掴んでるだろ」

「ついてきてって意味!」

「どこに?」

「い、い、か、ら、来い!」

 そのまま犬のように引きづられ、誰もいない廊下の隅っこまでやってきた。

「こんなとこ連れてきて一体なんだよ、お前、いつにも増して機嫌悪くねーか?」

「うっさいバカチン……」

 依然として仏頂面の遥香だが、何に対しておかんむりなのか、その理由が一向に分からん。

「俺、お前になんかした……?」

「別に。いっこだけ質問。どうやって白峰さんを洗脳したの?」

「は?   洗脳……?」

「だっておかしいじゃん。なんで白峰さんは奏向としか話さないの?   もしかして弱みを握ったとか?」

「そ、それは……」

 白峰さんとの約束があるから、いくら付き合いの長い遥香でも、俺と彼女が友達になった経緯は話せない。

「まさか奏向……白峰さんのこと、好きなの……?」

「ち、ちげーよ。俺、他に好きな人いるし……」

 咄嗟に口走ってしまったこの発言に、遥香は目を丸くさせていた。

「は……?   初耳なんだけど……で、だ、誰……?」

 ――お前だよ。
 なんて言ったって、どうせ振られる。

「言う訳ないだろ!」

「教えてくれないならあたし、今日学校早退する!   むしろそのまま不登校になるから!」

「はぁ?   なんでそうなるんだよ……」

 パチンと両手を合わせる遥香。

「お願い、ヒントだけでもいいから!   絶対笑ったりしないから!」

「ヒントは……同じクラスの奴……」

「も、もう一声!」

「もういいだろ!   それに、こんな形では言いたくねぇ!」

 今のは流石に匂わせ過ぎてしまっただろうか。でもいい加減、これくらいは前に進んでもいいだろう。

「え……それって……」

 さっきよりも肥大化した遥香の青い瞳が、一瞬キラリと光を放った気がした。

「ほら、もう授業始まるぞ!」

 俺が教室方向へ踵を返すと、少し前までの怖い顔が嘘だったかのように、満面の笑みを浮かべた幼馴染が軽快な足取りで隣に寄ってくる。

「ねぇ奏向~。今日のお昼、一緒に食べよ?」

「別にいいけど、いつもの友達はいいのか?」

「うん。今日は奏向と食べたい気分」

「ホント気まぐれだな、お前は」


 昼休みになると、持田と遥香が俺の席に椅子を持って集まってきた。

「流石に3人で1つの机は狭いな……」

 俺がそう呟くと、左からジトっとした視線を感じる。そこには発信源である白峰さんが、自分のお弁当を持ち上げて机の上を開放していた。ここ空いてますと、言わんばかりに。

「し、白峰さんも一緒に食べる?」

 コクリと頷く転校生。

「じゃあ、机くっつけてもいいか?」

 これにはコクコクコクコクと、リズミカルに何度も首を振った。

「サンキュー白峰さん」
「ありがとう、ごめんね?」

 2人からお礼を言われた白峰さんは照れたように顔を逸らしてしまったが、これは普段の彼女からしてみれば大きな進歩と言っていい。
 
 机を隣り合わせ、白峰さんの前に持田、俺の向かいに遥香が座る。

 疎外感を与えないように、空気を読んだ持田は何かと白峰さんにも話題を振るが、直接それに応えるのはまだ難しいらしく、俺が耳打ちを受けて通訳することで、4人での会話はかろうじて成立していた。

「でも良かったよ。俺、白峰さんに嫌われてるのかと思ってたから」

 白峰さんは忙しなく俺の耳に息を吹きかける。

「ゴニョゴニョ……」

 かなり役得ではあったけど、その度に遥香が向けてくるもの言いたげな目は、研いだばかりの包丁並に切れ味抜群だった。

「本当は普通に話したいけど、ごめんなさい……だってさ」

「全然、白峰さんのペースでいいよ~!   直接話せる日を楽しみに待つとするわー!」

 悔しいけど、持田がモテる理由が分かる気がする。

「ゴニョゴニョ……」
「えーと、私も早く皆さんと仲良くなりたいです……だってさ」

「……ねね、じゃあさ、今日の放課後みんなで遊び行こうよ?」

 遥香のこの提案に、白峰さんはセキセイインコのように激しく首を上下に振った。

「決まりだね。あ、でも持田くんは部活あるんだっけ?」

「そうなんだよー。今日ばっかりは休みたいけど……やっぱダメだ!   3人で楽しんできてくれ!」

「分かった。じゃあまた今度誘うね?」

「おい遥香、なぜ俺の予定は聞かないんだ」

「奏向はどーせ暇でしょ?   ま、もし予定あっても拒否権なんてないけどねぇ~」

「まぁ、予定なんてないけど……」

 放課後に遊びに行くなんて久しぶりだ。ましてや美人の女子2人を連れてだなんて、よくよく考えたら俺には少しハードルが高くないか?   という漠然とした不安感に苛まれる俺だった。
 
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