メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第1章

第10話 転校生はほっとけない

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「ねぇー、どこ連れてってくれるのかと思ったら、ほんとにここなのぉー?」

「お前はまた文句ですか?   嫌なら他所ん家の子になって好きなとこで飯食ってこいよ」

「わ、私はすっごく美味しそうなお店だと思いますよ……?」

 俺が2人を連れてやってきたのは、中学時代からたまに通っていた家系ラーメン店。

 最近食ってなかったから、無性に身体があの味を追い求めてしまっていたのと、気取ったようなオシャレな店へ不慣れ感満載で連れていき恥をかくよりも、自然体でいられる方が数段マシだと考えたからだ。

 入店して食券を買い、案内された奥の4人掛けのテーブル席へ腰掛ける。すると、白峰さんが卓上に置かれた調味料の小壺を指さした。

「それ、何が入ってるんですか……?」

「にんにくと、たぶん豆板醤かな」

「と、豆板醤って、辛いやつですか……?」

「そうだけど、苦手なのか?」

「私……実は前の学校で、辛いラーメンに関するちょっとした思い出があって……」

 前の学校のエピソードってだけで嫌な予感しかしない。まさか、彼女が食べていたラーメンに酷いことでもされたのか?

「し、白峰さん、ツラかったら無理に思い出さなくても……!」

「だ、大丈夫です。学食で私がラーメンを食べていると、同じクラスの人に、こうすると美味しいよって、卓上の一味を丸々一本分、入れられたことがあったんです……」

 ほれみたことか……俺の馬鹿、阿呆、間抜け。なぜ彼女をラーメン屋なんかに連れてきてしまったんだ。そんな苦い思い出を彷彿とせてしまうだなんて――知らなかったとは言え、俺は最っ低の男だ。

「白峰さん……ごめん……」

「な、なんで謝るんですか……!?   私、それがすっごく美味しくって、以来ラーメンは激辛じゃないと物足りなく感じてしまうようになったんです……!」

「へ……?」

 ヘリウムガスに毒されたような声が出た。

「お、おかしいですか……?」
 
「い、いや、全然……いっぱい使いな?   豆板醤……」

 白峰さんの前にその壺をそっと置くと、咲き誇るような満開の笑みを浮かべた。

「は、はい!   ありがとうございます……!」

 ――彼女は俺が思っているほど、決して弱くはないのかもしれない。

「あたしは辛いのって苦手だなー」

 遥香は昔から、カレーの中辛すら食べられなかった。

「お前の舌は子供なんだよ」

 俺のこの発言に対し、ここぞとばかりにメスガキモードが発動してしまう。

「へぇ、じゃあ奏向は辛いのいけるんだぁー?   あたしが激辛にしてあげよっかぁ?」

 コイツは限度ってものを知らないから、折角のラーメンが台無しになること請け合いだ。

「悪かった。俺が悪かったから頼む、それだけはやめてくれ……」

「ざぁこ♡」

「久しぶりに聞いた気するな、それ……」


 ラーメンを食べ終わり店を出る頃には、入店前は文句タラタラだった幼馴染も「まあ、こういうのもたまにはありかもね」などと、まんざらでもない態度に早変わりしていた。

 それからしばらく目的もなく街をブラついていると、俺と遥香はとある異変に気付く。

 ちょくちょく白峰さんの姿が見えなくなったかと思えば、いつの間にか何事もなかったように戻ってきているという、奇妙な現象が続いていた。気になった俺たちは、目配せを送り合い彼女の動きを観察することに。

 タイミングを見計らい、横目で様子を伺うと、転校生がまたもや姿を消している。

「まただ……」

「奏向、あっち!」

 遥香の指さす方へ視線をやると、白峰さんは車道を挟んで向かいの歩道に落ちていたゴミを拾い、コンビニのゴミ箱へと投入していた。

 こうした一連の作業を終え、小走りでこちらに戻ってくる。もしや、先ほどからずっとこれを続けていたのか……? それは流石に、人がいいにも限度があるだろうと、感心を通り越して呆れてしまった。

 彼女が歩きながら、やけに周囲をキョロキョロとしていた理由はこれだったのか。

「白峰さん、とても素晴らしいことだから、やめた方がいいとは言えないんだけど、せめて偶然目に入ったゴミだけにするとかでいいんじゃないか? きっとゴミを拾うことを仕事にしている人もいるだろうから……」

「そ、そうですか……? で、でも、どこか落ち着かないと言いますか……」

 驚くことに、彼女の善人っぷりは、これだけでは終わらない。

 道すがら配られたポケットティッシュやチラシ、フライヤーなどを全て受け取ってしまうのは勿論、ふらりと立ち寄ったアパレル店では、店員さんに勧められるがままに全ての商品を購入しようとしたり。

 ――無論、俺と遥香で食い止めたが。

 挙げ句の果てには、コンビニで飲み物を買った際、5千円札で支払ったにも関わらず、おつりを全て募金箱に入れようか迷い、しばらくレジの前で立ち尽くす始末。

 白峰さんは、天性のお人好しだった。

 でも俺はそんな彼女に……言葉には出来ない歯痒さを感じ、傲慢にも、なるべく傍にいてあげたい、なんて思ってしまった。
 

 歩き疲れた俺たちは、カフェでひと休みしていた。遥香は飲んでいたクリームソーダに刺さっているストローから、濡れた果実のような唇をパッと離し、尋ねる。

「夜空って、捨て猫とかほっとけないタイプでしょ?」

「ど、どうして分かったんですか……!?」

「いや、見てたらなんとなく分かるし」

「じ、実は……拾ってきた猫ちゃんが、先週でとうとう10匹目になってしまいました……」

「え……もうそれ猫カフェじゃん。写真とかないの?」

「あ、あります……ちょっと待ってて下さいね、えぇーっと……」

 白峰さんはスマホを取り出すと、両手を使っておぼつかない手つきで操作を始めた。しばらく待っていると、口をパカっと開けて、にこやかに画面をこちらへ向ける。

「こ、この子たちです……!」

 それは写真ではなく動画で、沢山の猫がキャットタワーに集まっている様子が流れていた。

「えぇ、ヤバい、見て見て奏向、超可愛くない?   触ってみたぁ~い!」

「ホントだ、可愛いな」

 俺たちの反応が嬉しかったのか、白峰さんは気恥ずかしそうに提案する。

「で、でしたら、今から私の家に遊びに来ますか……?」

「いいの!?」

「でも、いきなり押しかけたら迷惑じゃないか?」

 口ではこんなことを言ってはみたが、内心では白峰さんの家に興味津々だった。

「わ、私の両親は仕事で滅多に家へ帰ってこないので、遠慮しないで下さい……それに、あの子たちも寂しがってるかもしれないですし、私のお友達を紹介したい……です」

「そ、そういうことなら……」

 心中ではガッツポーズをしていた俺。

「ねね、じゃあ早くここ出ようよ!」

 俺は立ちあがろうとする遥香の手を掴んだ。

「待てって、俺のプリンがまだきてないんだ」

「はぁ?   ホント奏向って空気読めてないよねぇ。このノロマ~!」

「これは俺が遅い訳じゃねぇよ」

「せめてひと口で済ませてよ?」

「いや無理だろ」

「じゃああたしが半分手伝ってあげる」

「お前それ、ただ食いたいだけじゃないのか?」

「なんか文句ある?」

「あっさり認めて開き直りやがった……」

「ふふ……お2人とも、そんなに急がなくても、猫ちゃんは逃げたりしませんよ……?」

 白峰さんは綻んだ顔の口元で手を緩く握り、穏やかに俺たちを諭した。まるで地上に舞い降りた天使のようなその風貌に、うっとりねっとり見惚れてしまった。

 

 
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