メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第17話 転校生は勇気だす(夜空Side)

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 夏休み――それは私にとって、手放しで心弾ませられるものではありません。

 去年の夏休みの辛い記憶が、思い起こされてしまうからです。

 朝から夕方まで本と睨めっこをして、夜には原稿用紙と向かい合う。ずっと、これの繰り返しでした。なんの取り柄もない私を頼ってくれたクラスメイトの方々の期待に、どうしても応えたかったんです。

 その結果、自分のことを蔑ろにしてしまい、先生に呼び出されて反省文まで書くことになってしまいました。

 本当に辛くて、夏休みなんてこの世からなくなればいいのに、なんて思ったりもしました。

 新しい学校に転校してもそれは変わらず、夏がやってくることが億劫でした。

 でもそんな私にも、希望が持てる出来事が起こります。

 私にとって高校生になってから初めて出来たお友達の夜木君が、そんな去年の辛い記憶を塗り替えようと、手を差し伸べてくれたんです。

 彼は、私たった1人の為にわざわざ時間を割いて、本を読み聞かせてくれるのです。毎週楽しみにしていたその時間は、世界中に溢れるどの娯楽よりも、私にとっては価値あるものでした。

 私は、夜木君の声を聞くと安心します。

 夜木君の姿を見かけるとつい嬉しくなって、人見知りなのも忘れて自分から声をかけてしまいます。

 夜木君の笑顔を見ると、3日はご飯を食べなくても平気なくらい満たされた気持ちになります。


 そんな夜木君から夏休み前に、夏休み中も会いたいと言ってもらえた時は、心臓が飛び出るかと思ったくらい、嬉しかったんです。

 でも、夏休みが始まって1週間が経っても、夜木君から連絡が来ることはありませんでした。

 やっぱりあれは社交辞令だったんだ……そう思って落ち込んでいると、飼っている猫のカナとターが初めて他の猫ちゃんと積極的にコミュニケーションをとっている姿を見て、私も自分から行動しなくちゃって思いました。

 だから私は、勇気を振り絞って夜木君にメールを送ったんです。

 すると『今から会える?』とのお返事が。

 お恥ずかしながら舞い上がった私は、無意識の内にその場で飛び跳ねていました。

 今、その待ち合わせの公園へ向かっているところですが、緊張してちゃんとお話しできるか不安です。

 公園のベンチに腰掛けていた夜木君を見つけると、私は身だしなみを整えて、一歩を踏み出しました。

「や、夜木君……暑い中お待たせしてしまってすみません……」

「全然、俺も今ついたとこ」

「ど、どこかお店とか入りますか?」

「せっかくだから外で読書もアリかなと思ったんだけどどうかな?   今日はそこまで気温も高くないから、あのパーゴラの下なら日陰になってて涼しいだろうし」

「は、はい……夜木君にお任せします」

「もし嫌だったらちゃんと言ってくれよ?」

「い、嫌じゃありません……!   すっごく素敵なご提案だと思います!」

「ならよかった」

 そう言って笑う夜木君の顔を見たら、なんだか安心して今までの不安が吹っ飛んでしまいました。

 読書を始めると、夜木君の声がとっても心地よくて、私はこの時間がずっと続いて欲しい、いっそ夏休みが永遠に終わらないで欲しいと思っていました。

 やっぱり夜木君は、不思議な人です。

 あんなに憂鬱だった夏休みを、こんなに素敵な時間へと変えてしまうだなんて。



 本を読んでくれている夜木君を見つめていると、汗をかいたからなのか、首元の絆創膏が剥がれかけていました。

 私は鞄の中に絆創膏を入れていたので、貼り替えてあげようと思いました。

「夜木君、絆創膏剥がれてますよ?」

 すごく驚いた様子で飛び上がる夜木君。

「え、マジ!?」

 彼が慌てて首元を触ると、指先に引っかかって今まで隠されていたものが露わになります。

「あ……」

 見られてはいけないものを見られた……そんな顔をしていました。

「それって……」
 
「じ、実は虫に刺されちゃって……」

 夜木君はそう言って誤魔化していましたけど、私はこれを知っています。

 前に通っていた女子校で、とあるクラスメイトがみんなに見せつけて自慢しているところを、偶然見かけたことがあったからです。

 このキスマークは、きっと遥香ちゃんがつけたのだろうと、本能的に察してしまいました。

「夜木君と遥香ちゃんは、やっぱりお付き合いをされているのでしょうか……?」

 夜木君は俯いて、悲しげな表情を浮かべていました。

「やっぱそう思われるよな……でも違うんだ。これにはちょっとした事情があって……」

「それはどんな事情ですか?   もしかして、お2人は割り切った関係……みたいなことでしょうか……?」

「違う。断じて違う。色々あって詳しいことはまだ言えないんだけど、白峰さんだけには誤解されたくないから、都合いいかもしんないけど信じて欲しい……」

「分かりました……夜木君がそう言うなら、信じます」

「ありがとう。いつか、ちゃんと説明するから……」
 
 絆創膏を貼り替え、また読書を再開しましたが、すぐに夜木君の声が止みました。

「夜木君……?」

 隣の様子を見ると、座ったまま眠っているようでした。

 スヤスヤと眠るその顔がとても愛おしく思えた私は、少し距離を詰めてまじまじと観察してしまいます。

 意外とまつ毛が長くって、学校では気付かなかったお髭がちょびっと伸びていて、やっぱり男の子なんだと再確認してしまいました。

 そしてふと、魔が差します。

 ――もしも私が夜木君にキスマークをつけたら、どうなってしまうのでしょうか。
 
 遥香ちゃんに怒られてしまうのでしょうか。

 ですがお付き合いはしていないとハッキリ言っていましたし、どうなのでしょうか。

 って、わわわ私は一体何を考えているのでしょう!?

 冷静になると恥ずかしくなってしまいました。

 で、でも、ちょっとくらい、なら……

 
 
 
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