メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第27話 幼馴染とお泊まり2

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 ――いったい、今は何時なんだろう。

 この状況下において絶対的にどうでもいいことを考えてしまっているのは、脳が、身体が、現状を把握しきれていないからだろう。

 現実逃避からくる、一種の拒絶反応なのかもしれない。

「布団、入るよ……?」

「おい待てって……!」

 俺が拒否したにも関わらず、この幼馴染はのそのそと俺のベッドに上がり込んだ。

 慌てふためいた俺は、せめてもの抵抗で再び背中を向けるのがやっとだった。

 誰かこの侵略者を不法侵入で捕まえてくれ。そう願っていると、遥香が指先で俺の背中をなぞり始める。

「なんて書いたか、当ててみて……?」

 背中に全神経を集中させると、おそらくカタカナで「スキ」と書かれていた。

「わからん……」

 俺は、当然のように嘘を吐く。

「じゃあこれは……?」

 書き終わるのを待ってみると、次の言葉は「ウソツキ」だった。

「わからん……」

 次第に込み上げてくる、なんとも言えない感情。心が痛くなって、熱くなって、今すぐ振り返って抱きしめたいとも思う。でも、まだそれは出来ない。しちゃいけない。

「奏向は……やっぱあたしに興味ない? ここにいるのがもし夜空だったら、こっち向いてくれてる……?」

「興味あるに決まってるだろ。これがたとえ白峰さんでも、同じだ……」

「じゃあなんで何もしないの……? 奏向変だよ……男のくせに……」

 男のくせに――今まで幾度となく向けられてきたこの言葉に、反論など出来なかった。だけど今回だけは、すんなり受け入れられない。

「男だから……だよ」

「どーゆー意味……?」

「2人のこと……もっとよく考えたいんだ。男として、中途半端なことだけはしたくない。だから、こういう女の武器を使って誘惑するような真似、できればもうして欲しくないと思ってる。俺、お前が大切な存在だからこそ、遥香とのこの先について、下心を判断材料に入れたくない。お前はそんなことしなくても、もう十分過ぎるくらいに魅力があるんだから……」

 俺が心からの本心を伝えると、遥香はしばし黙り込んだ。

 すると、今度は指でなぞるのではなく、俺のTシャツの背中部分を両手でギュッと握ってから言う。

「奏向のばか……そんな嬉しいこと言われたら、戻っても眠れなくなっちゃうじゃん……」

 服越しに伝わる、遥香の小さな手の感触。

 それはきっと、俺たちが今の状態でとっていい、最大限のスキンシップ。

 俺がそれ以上を自分から望むようになった時、その時には、俺の口からそれを遥香に伝えたい。なんとなく、そう思った。

「俺はもう、お前をただの幼馴染だなんて思えない。だからこそ余計に、この先へ進むにはそれなりの覚悟がないと、駄目なんだ……」

「わかった……焦っちゃってごめんね……? あたし、自分のことばっかで、奏向がそんなに真面目に考えてくれてるなんて全然知らなかった……」

「たまにはこうやって腹割って話すのも、悪くないな……」

「うん……ねえ奏向……」

「ん?」

「大好き……」

「お、おう……」

「なんで今までは、こうやって素直になれなかったんだろ……ねぇ奏向、大人になったらタイムマシン作って?   そしたら中学生まで戻ってすぐに告りに行くから」

「中学生の俺は、飛び跳ねて喜ぶだろうな……でも俺はお前より勉強できないから、遥香が自分で作った方がきっと早く完成するんじゃねーか?」

「それもそだね……じゃあ大学は、やっぱ理系のほーがいいかな?」

「そしたら大学では、とうとう俺たちは離れ離れだな」

「じゃあやっぱ文系でいーや」

「俺の進路でお前の将来決めるなよ」

「だって、あたしの進路の第一希望は奏向のお嫁さんだし」

「小学生みたいなこと言うなお前……」

「小学生の時からの夢だし仕方ないじゃん」

「てかそろそろ戻れよ……母さんにバレたらこの家出禁になるかもしれないぞ?」

「もしそうなったら、奏向は寂しい?」

「ま、まぁな……」

「もうしょうがないなぁ。じゃあこれからも毎日来てあげるね……?」

 顔は見えなくとも、その声色からどんな表情をしているのか丸わかりだった。幾度となく見てきたメスガキの、あの挑戦的なしたり顔。
 
 俺の頭と心に、嫌というほど焼きついてる。

「家もいいけど今度、どっか遊びに行くか、2人で……」

「……」

 すぐに言葉は返ってこず、ガサッという衣擦れの音だけが聞こえた。

「どした……?」

「今危なかったよ奏向。勢いでチューしそうになっちゃったじゃん……でもどしたのいきなり……?」

「外でのお前も、見てみたくなったっつーか、せっかくの夏休みなんだから、たまには出かけてみてもいいかなって……」

「そっか……めっちゃ嬉しい……」

「あ……あと、こんな時になんなんだけど、白峰さんと今度ライブを観にいく約束があるのですが……?」

 遥香の溢した深いため息で、俺の背中の半径5センチくらいが温まった。

「もしかして……さっきの言葉はその為の方便だったりしないよね?」

 突如幼馴染の声が低くなったかと思えば、同時に背中が強くつねられる。

「イッ……イタイッ……ち、違うって、全部本心だから!」

「ホント奏向ってそーゆーとこあるよね」

 呆れたようにそう言うと、遥香は俺の背から手を離した。

「す、すいません……」

「ざぁこ……」

「なんか今の、いつもと違うな……」

「ちょっと怒ってるから」

「ど、どうしたら、機嫌が直りますか……?」

「じゃ、手ぇ握って……10秒くらい」

 遥香の右手が、脇の間を通って伸びてくる。

 触れ合う面積は少なくとも、神経が集中する急所を他人に触られたことで、ブルリと身震いが起こり、鳥肌が立つ。

「わ、分かった……」

 俺が左手でそれを捕まえると、遥香は指を絡ませるように強く握った。所謂、恋人繋ぎだ。

 手を繋ぐなんて、恋人じゃなくてもするような行為であると分かっているのに、雰囲気や状況によって、こんなにも違うのか……

 何故か、とんでもなくエロいことをしているような気分になる。

 すでに10秒以上経っているが、遥香は手を離そうとはしなかった。

「離せって、言わないの……?」
 
「こ、今回は……俺が空気を読めてなかったのが悪かった訳だし……反省してます……」

「いいよ……もう許してあげる」

 遥香は手を解くと、ベッドから降りる。

 ありきたりな表現かもしれないけど、心にポッカリ穴が空いたような感情が押し寄せた。
 
「ホントごめん……」

「デート、楽しみにしてるから……ちゃんとプラン考えといてよね?」

 さっきより少し遠くなった声を残し、その後には幼馴染の去っていく音だけが耳へ届いた。

 

 
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