30 / 54
第2章
第28話 転校生とライブ1
しおりを挟む「ねぇ奏向、起きて……?」
「うわっ!!」
まさかまた夜這いに来たのか!? そう思って飛び起きたものの、カーテンの隙間からは眩いばかりの朝日が差し込んでいた。
「なんか、今日はすんなり起きたね」
「お、おはよう……遥香……」
昨夜のことを思い出すと、顔を合わせるのが小っ恥ずかしいと感じてしまう。
「おはよう……奏向ママが朝ごはん作ってくれたよ……?」
心なしか、遥香もいつもよりオドオドとしていた。
「お、おぅ……」
「ねぇ……デートのこと、ちゃんと覚えてるよね? あたしの夢じゃないよね?」
「夢じゃねぇよ……」
「よかった……場所はどこでもいいけどさ、今度は映画以外がいいな……」
「分かってる。考えておくよ」
「うん……」
まだ機嫌が悪いのか、それとも俺と同じような気まずさを感じているのか、どちらなのかは分からなかったけど、俺たちの間にはぎこちない空気感が漂っていた。
今日の朝食は、いつもの3倍豪華だった。
「母さん、なんで朝飯にナイフとフォークが並んでるんだ? こんな光景今までの人生で見たことないんだが……」
「何言ってんの。いつも通りでしょ」
「見栄張るなよ。客が来てるといっても遥香だぞ?」
「遥香ちゃんに変なもん食べさせらんないでしょうが」
「おいその言い方、いつもは俺に変なもん食べさせてんのかよ」
俺と母との無益な掛け合いに見かねた遥香が呆れた様子で仲裁に入った。
「2人ともやめなよ? ご飯冷めちゃうよ?」
「お、おぅ……いただきます」
「そうね……」
俺よりも先に朝飯を食べ始めていた遥香はバターロールをひと口大にちぎりながら尋ねた。
「そういえば奏向、夜空と行くライブっていつなの?」
「来週だけど」
「ふーん。そっか」
いいこと聞いた♪ と、言わんばかりの顔だった。
「おいお前まさか……また俺の部屋に何かするつもりじゃないだろうな?」
「どうだろうね~?」
「マジでやめてくれ……まだ写真も全部剥がし終えてないんだからな」
「ふふ~ん♡」
含みを持たせた満面の笑みを浮かべる幼馴染。
「おい母さん、来週絶対にコイツを俺の部屋に入れないでくれ!」
「知らないわよそんなこと。遥香ちゃんが来てくれるなら私は歓迎するだけよ」
「じゃあ俺の部屋に鍵つけてくれよ!」
「そんなことにお金使う訳ないでしょう? バイトでもして自分で稼ぎな!」
どうやら、俺に味方などいないらしい。
いや、1人だけ……白峰さんだけは、いつも俺の味方でいてくれてるか……
***
――ライブ当日も、遥香はやっぱり俺の家へやってきた。
出かける直前に玄関で釘を刺しておいた。
「頼むから、何もしないでくれよ? やっと写真も全部剥がし終わったんだからな……?」
「安心しなって、奏向の嫌がることはしないから。それより写真はどうしたの? まさか、捨てちゃった……?」
「捨てられる訳ないだろ。全部保管してある」
遥香の顔がカァッと赤くなる。
「ねぇ奏向……ハグしていい……?」
「だ、駄目に決まってるだろ!?」
「冗談だって。じゃ、行ってらっしゃい。遅くなる前に帰ってきてね……?」
まるで新婚の夫婦みたいだ……なんて思ってしまった。
「な、なんか変な感じだな……」
どうやら幼馴染も同じことを思っていたようで、ほんのり頬を赤く染めていた。
「そだね……これ1回やってみたかったけど、実際やるとやっぱまだ照れちゃうね……」
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃ~い!」
待ち合わせのライブ会場へ先に到着すると、そのすぐ後に白峰さんは小走りで俺の元へと駆け寄ってきた。
Tシャツにワイドパンツという動きやすそうでシンプルな服装だったが、それでも一際目立ってしまうのは流石と言わざるを得ない。
「夜木君、お待たせしました……!」
「俺もさっき来たとこ!」
「ほ、本当ですか……? 良かったです。私、ライブって初めてなので緊張しちゃいます……」
「言われてみれば、俺も初めてだ」
「ふふ……ではお互い初めて同士、今日はどうぞ宜しくお願いします……」
ぺこりとお辞儀をする白峰さんの姿に、体の中に溜まっていた邪気が、全て浄化されたような気がした。
「まだ開始まで時間あるし、グッズとか売ってるみたいだけど、見てみるか?」
「はい……! ずっと前からライブ限定のタオルが欲しいと思っていたんです……!」
「いいなそれ。記念になるし、俺も買おうかな」
「じゃあ、お揃いになりますね……?」
相変わらず破壊力抜群のキラリと輝く嬉しそうな笑顔に、心臓が撃ち抜かれた。
白峰さんと遥香……この魅力的な2人の女性に優劣をつけることなんて出来ない。
ちょっと待て。じゃあ俺は何を基準にしてこれから2人と接していけば良いのだろう。
「夜木君、どうしたんですか……?」
物思いに耽っていた俺の顔を心配そうに覗き込む白峰さん。
「ご、ごめん、行こっか!」
「はい……!」
祭りの屋台みたいにズラッと並ぶグッズ販売のテントを見ていると、小さい頃に遥香と行ったお祭りを思い出した。
今思えば、あのヘアピンを未だに付けている理由はそういう事だったのかと、こんな所で気付かされてしまう。
――俺は深く考えるでもなく、無意識のうちにタオルを2枚購入していた。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる