メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第28話 転校生とライブ1

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「ねぇ奏向、起きて……?」

「うわっ!!」

 まさかまた夜這いに来たのか!?   そう思って飛び起きたものの、カーテンの隙間からは眩いばかりの朝日が差し込んでいた。

「なんか、今日はすんなり起きたね」

「お、おはよう……遥香……」

 昨夜のことを思い出すと、顔を合わせるのが小っ恥ずかしいと感じてしまう。

「おはよう……奏向ママが朝ごはん作ってくれたよ……?」

 心なしか、遥香もいつもよりオドオドとしていた。

「お、おぅ……」

「ねぇ……デートのこと、ちゃんと覚えてるよね?   あたしの夢じゃないよね?」

「夢じゃねぇよ……」

「よかった……場所はどこでもいいけどさ、今度は映画以外がいいな……」

「分かってる。考えておくよ」

「うん……」

 まだ機嫌が悪いのか、それとも俺と同じような気まずさを感じているのか、どちらなのかは分からなかったけど、俺たちの間にはぎこちない空気感が漂っていた。

 
 今日の朝食は、いつもの3倍豪華だった。

「母さん、なんで朝飯にナイフとフォークが並んでるんだ?   こんな光景今までの人生で見たことないんだが……」

「何言ってんの。いつも通りでしょ」

「見栄張るなよ。客が来てるといっても遥香だぞ?」

「遥香ちゃんに変なもん食べさせらんないでしょうが」
 
「おいその言い方、いつもは俺に変なもん食べさせてんのかよ」

 俺と母との無益な掛け合いに見かねた遥香が呆れた様子で仲裁に入った。

「2人ともやめなよ?   ご飯冷めちゃうよ?」

「お、おぅ……いただきます」
「そうね……」

 俺よりも先に朝飯を食べ始めていた遥香はバターロールをひと口大にちぎりながら尋ねた。

「そういえば奏向、夜空と行くライブっていつなの?」

「来週だけど」

「ふーん。そっか」

 いいこと聞いた♪   と、言わんばかりの顔だった。

「おいお前まさか……また俺の部屋に何かするつもりじゃないだろうな?」

「どうだろうね~?」

「マジでやめてくれ……まだ写真も全部剥がし終えてないんだからな」

「ふふ~ん♡」

 含みを持たせた満面の笑みを浮かべる幼馴染。

「おい母さん、来週絶対にコイツを俺の部屋に入れないでくれ!」

「知らないわよそんなこと。遥香ちゃんが来てくれるなら私は歓迎するだけよ」

「じゃあ俺の部屋に鍵つけてくれよ!」

「そんなことにお金使う訳ないでしょう?   バイトでもして自分で稼ぎな!」

 どうやら、俺に味方などいないらしい。

 いや、1人だけ……白峰さんだけは、いつも俺の味方でいてくれてるか……

 
 ***


 ――ライブ当日も、遥香はやっぱり俺の家へやってきた。

 出かける直前に玄関で釘を刺しておいた。

「頼むから、何もしないでくれよ?   やっと写真も全部剥がし終わったんだからな……?」

「安心しなって、奏向の嫌がることはしないから。それより写真はどうしたの?   まさか、捨てちゃった……?」

「捨てられる訳ないだろ。全部保管してある」

 遥香の顔がカァッと赤くなる。

「ねぇ奏向……ハグしていい……?」

「だ、駄目に決まってるだろ!?」

「冗談だって。じゃ、行ってらっしゃい。遅くなる前に帰ってきてね……?」

 まるで新婚の夫婦みたいだ……なんて思ってしまった。

「な、なんか変な感じだな……」

 どうやら幼馴染も同じことを思っていたようで、ほんのり頬を赤く染めていた。

「そだね……これ1回やってみたかったけど、実際やるとやっぱまだ照れちゃうね……」

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃ~い!」


 待ち合わせのライブ会場へ先に到着すると、そのすぐ後に白峰さんは小走りで俺の元へと駆け寄ってきた。

 Tシャツにワイドパンツという動きやすそうでシンプルな服装だったが、それでも一際目立ってしまうのは流石と言わざるを得ない。

「夜木君、お待たせしました……!」

「俺もさっき来たとこ!」

「ほ、本当ですか……?   良かったです。私、ライブって初めてなので緊張しちゃいます……」

「言われてみれば、俺も初めてだ」

「ふふ……ではお互い初めて同士、今日はどうぞ宜しくお願いします……」

 ぺこりとお辞儀をする白峰さんの姿に、体の中に溜まっていた邪気が、全て浄化されたような気がした。

「まだ開始まで時間あるし、グッズとか売ってるみたいだけど、見てみるか?」

「はい……!   ずっと前からライブ限定のタオルが欲しいと思っていたんです……!」

「いいなそれ。記念になるし、俺も買おうかな」

「じゃあ、お揃いになりますね……?」

 相変わらず破壊力抜群のキラリと輝く嬉しそうな笑顔に、心臓が撃ち抜かれた。

 白峰さんと遥香……この魅力的な2人の女性に優劣をつけることなんて出来ない。

 ちょっと待て。じゃあ俺は何を基準にしてこれから2人と接していけば良いのだろう。

「夜木君、どうしたんですか……?」

 物思いに耽っていた俺の顔を心配そうに覗き込む白峰さん。

「ご、ごめん、行こっか!」

「はい……!」
 
 祭りの屋台みたいにズラッと並ぶグッズ販売のテントを見ていると、小さい頃に遥香と行ったお祭りを思い出した。

 今思えば、あのヘアピンを未だに付けている理由はそういう事だったのかと、こんな所で気付かされてしまう。

 ――俺は深く考えるでもなく、無意識のうちにタオルを2枚購入していた。

 
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