メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第35話 転校生と仲直り

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 遂に夏休みの宿題が……終わった。

 俺はそのまま仰向けに倒れ込むと、大きく腕を伸ばす。

 この上ない達成感に包まれながら時計を確認すると、既に遥香が家を飛び出していってから約3時間ほどが経過していた。

 窓からは綺麗なオレンジ色した光が差し込み、まるで3日間家に籠りっきりで頑張った俺を祝福してくれているかのよう。

 これで明日からは、なんの気兼ねもなく残りの夏休みを堪能できるというものだ。

 でも、不思議と夏休みが早く終わって欲しいと思っている自分もいた。だってそうなればまた、白峰さんに会うことができるから。会いたくないと言われた俺が、一体どんな顔をして話しかけて良いのかは分からないけれど、それでも一生会えなくなるよりかは、幾分かマシだ。

 彼女の屈託のない笑顔を、また隣で見ていたい。

 もしもそれが許されるのであれば、俺はそれ以上何も望まない。

 ――だから神様……どうか次の席替えでも、俺を白峰さんの隣の席にして下さい。

 特に神人深くもないくせに、こんな時ばかり神頼みな自分に、思わずため息が漏れた。

 俺って男は、つくづく成長しないらしい。


 その時、扉からコンコンと音がする。

 この雑なノック音で、遥香が戻ってきたのだとすぐにわかった。

「奏向ー?   宿題終わったー?」

 声と共に、扉がゆっくりと開く。

「今終わったとこだよ。それよりお前こそ白峰さんに変なことしなかっただろうな……?   って……え……!?」

 体をくにゃりと捻らせ肘枕をつき、だらしのない体勢で幼馴染を迎えた俺は言葉を失う。

 何故なら扉の奥には、つい先日振られたばかりの転校生が気まずそうに立っていたから。

「し、白峰さん……!?   なんで俺ん家に!?」

 慌てて体を起こし、勢い余った俺はなぜか正座をしていた。

 その問いには、もじもじと手をこまねく白峰さんに代わって遥香が答えた。

「なんでって、奏向だって夜空と早く仲直りしたいでしょ?」

「は?   仲直りって……どういうこと……?」

 遥香に背中を押された白峰さんが、俺の汚ったない部屋の敷居をよろけながら跨ぐ。

「そ、その、夜木君……この前は、すみませんでした……!」

 そう言って彼女は、深く腰を折った。

「ど、どういうこと……?」

 俺の頭の中にはクエスチョンマークが無数に浮かび、到底すぐには理解出来ない現状に目が回りそうになる。

「前に言ったことを、取り消させて欲しいんです……勝手なことばかり言って、本当にすみません……!」

「それってつまり……俺と、また会ってくれるってことで、いいのか……?」

 彼女は申し訳程度に頭を上げて言う。

「は、はい……私と一緒に、シマウマさんを見に行って欲しいです……」

 その言葉を聞いた俺は、安堵から体中の力が抜け落ちてしまい、足を崩し大の字で横になった。

「そっか……よかった……」

「や、夜木君、大丈夫ですか……!?」

 膝に手をつきながら俺の顔を不安気に覗き込む白峰さん。

「う、うん大丈夫大丈夫……安心して力抜けただけだから……」

「じゃ、これで仲直り完了だね?」

 俺たちの様子を黙って部屋の外で見届けていた遥香は、嬉しそうに軽快な足取りで入室すると、そのまま俺のベッドへ腰掛けた。


 俺はとりあえず、状況を整理する為にも一度部屋を出て1階へ麦茶を取りに向かった。

 3つのコップが並ぶ木の盆を抱え、自室の扉に手をかけるが、あまりの緊張からその手が止まる。

 こんな経験初めてで、まるで自分の部屋じゃないみたいだ。

 中からは、2人の会話が微かに聞こえる。どうやら和やかな雰囲気ではあるようだが、俺にはひとつ疑問があった。意を決して入室すると、白峰さんにそれを尋ねてみる。
 
「白峰さん、一応確認なんだけど、遥香に脅されたりしてないよな……?」

「ちょっと奏向それどーゆー意味!?」

 遥香の不満げな声に被せるように、白峰さんは、珍しく感情を顕にした。

「そ、そんなことありませんっ……!   遥香ちゃんは私の為に、今日わざわざ会いにきてくれたんです。いくら夜木君でも、そんなこと言うのはヒドイですっ……!」

「ご、ごめんっ!   それならいいんだ!」

「謝るなら私にじゃなくて、ちゃんと遥香ちゃんに謝って下さい……」

 睨むとまではいかなくとも、俺をジッと見つめるその瞳からは、芯の強さのようなものを感じた。

「そ、そうだよな……ごめん遥香……」

「ま、このくらいいつものことだけど……ありがとね夜空。でもまた喧嘩みたいになっちゃってるよ?」

 遥香にそう言われると、白峰さんは我を取り戻したように両手をバタバタとさせながら慌てだした。

「す、すみませんでした夜木君……!   つい感情的になってしまいました……」

「全然……今のは俺が悪かった訳だし……」

「ねね、なんかまだ2人ともギクシャクしてるしさ、この後みんなで夜ご飯外で食べに行こうよ。もちろん奏向の奢りで!」

「そうだな……遥香には宿題も手伝って貰ったし」

「で、でも私は、何もしてません……!   それに私も遥香ちゃんにはお世話になったので、今日くらい遥香ちゃんの分は私が奢ります……!」

「い、いや、俺が奢るって!」

「今日は夜木君が我慢して下さい……!」

 白峰さんは一向に引いてくれなかった。なんだか、いつもとは別人みたいだ。

「で、でも……」

 俺たちのこの無益なやりとりを見ていた遥香は、声高らかに笑い始めた。

「アハハハハ……なんか2人であたしを取り合ってるみたいじゃん。悪い気はしないけど……」

 恥ずかしくなった俺と白峰さんは、互いに見合わせていた顔を、同時に逸らす。

 まさかこんなにもすぐ願いが叶うだなんて、もしや遥香は神様よりも絶大な力を持っているのではなかろうか。夕焼けも相まっていつもより神々しくも見える幼馴染に、思いがけず手を合わせそうになってしまう俺だった。
 

 
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