メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第42話 転校生と宇宙人

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 これから一体、何を言われるのだろう。

 手を伸ばせばすぐに届く距離にいる白峰さんが、なぜか少しだけ遠く感じる。

 たとえ何を言われたとしても、以前みたいに狼狽えていてはダメだ。男らしく、凛とした態度で臨まなければ。

「夜木君は、UFOを見かけたことはありますか……?」

「へ……?」

 先程の決意も虚しく、なんとも情けない声を上げて隣を向くと、彼女は黒く淀んだ空を朧げに見上げていた。

 それにつられた俺も、ぼんやりと空を眺めながら答える。

「な、ないけど……」

 そこには星もなく、ただただ吸い込まれそうな闇が広がっていた。

「私も、ありません……」

「まぁ、なかなか見られるもんじゃないよな」

「でも、それによく似たものには出逢いました……」

「……もしかしてUMAとか?」

 静けさの中で、ふふ……と、白峰さんの鼻から抜ける笑い声が、夏の終わりの夜風へと溶け込んでいく。

「……そうかもしれません。それじゃあ、UFOが夜にばかり目撃されているのは、何故だと思いますか……?」

 続く突拍子もない質問に込められた真意など俺には分かる筈もなく、思ったことをそのまま答えるしかなかった。

「うーん。それはやっぱり、夜は景色が綺麗に見えそうだからじゃないか?」

「それもあるかもしれませんね……でも私は、夜は寂しいからだと思うんです……」

 微かに憂いを孕んだような声だった。

「だ、誰にとって……?」

「お互いに、ではないでしょうか……?   宇宙人さんからすれば、見知らぬ星が真っ暗になってしまったら、きっと寂しくなってしまうと思います。だから本当はいけないことだったとしても、自分のことを見つけて欲しいと心の片隅で思っているのではないでしょうか。逆に、夜に空を見上げる私たち人間も、どこか心に寂しさや孤独を抱えていて、本来なら見える筈のないものを探している。そんな相互関係が成り立っているように思えるんです……」

 どこか詩的な彼女の言葉には、何か深い意味が込められているのかもしれないが、俺にはそれがわからない。

「やっぱ白峰さんは凄いな。そんなこと、俺は深く考えたこともなかった」

「それも……寂しかったからなのかもしれません……」

「どういう意味?」

「寂しい夜を紛らわせる為に、私はUFOを待ち続けていたのかもしれないと、最近ふと思うようになったんです。今までの私は、自分自身を変える努力をするのではなく、周りの変化だけを求めていました……」

「ごめん……俺馬鹿だから、さっきから言葉の意味がよく分からなくて……」

 彼女の視線が俺へ向けられたのを、なんとなく第六感で感じとった。

「夜木君は、私にとってのUFOなんです……それを気づかせてくれたのも夜木君です……」

「じゃあさっきのUFOに似たものって、あれは俺のことだったのか……?」

 首を曲げると、やはり目が合った。

「はい……突然私の前に現れて、オカルト映画の牛さんみたいに眩いばかりの光で包み込んでくれたかと思ったら、たちまち連れ去られて、改造させられてしまいました……」

「そんな物騒な……」

「でも、本当なんです……私は夜木君と出逢って、沢山のことを教わりました。お友達との接し方や図書委員の仕事に……トラウマの克服方法。それに……恋をすると、どういう気持ちになるのかまで…………本当に、今までの逃げてばかりの私じゃないみたいに思えるんです」

 ――今、恋って言ったか?

 俺に芽生えた小さな疑問を考慮させる隙など与えずに、白峰さんは続ける。

「あの日から……私の世界は変わってしまったんです。夜木君と出逢って、遥香ちゃんや持田君ともお友達になれて、私にとっての夜は、寂しいものから、明日が待ち遠しいと思えるものへと変わりました……」

「俺は大したことはしてないよ。たまたまあの日偶然会って、初めて仲良くなったのが俺だったってだけで、白峰さんならきっと誰とでも仲良くなれた筈だし……」

「それは違います……夜木君じゃなきゃ、駄目だったんです……あの日に出逢ったのが夜木君だったから、私は前へ進もうと思えたんです。す、すみません、そのお礼を伝えたかったんですけど、随分と遠回りをしてしまいました……」

 慌ただしく立ち上がった白峰さんは、座っている俺の前に立ち、深々と頭を下げた。

「夜木君、本当に、ありがとうございました……!」

「そ、そんな、やめてくれよ!   感謝してるのは俺も同じなんだ!」

 これには俺も、思わず立ち上がる。

「夜木君が……私に、ですか……?」

 目を丸くさせて驚いた様子の白峰さん。

「俺も白峰さんと出会ったおかげで、このままじゃダメだって思うことができた。男として成長したいと思わせてくれた白峰さんに、すごく感謝してる……」

「お世辞だとしても、そう言って頂けて嬉しいです……」
 
「だから俺はスラスラとお世辞を言えるような経験値なんて、持ち合わせてないって……」

 白峰さんは、ひっそりと微笑んだ。

「ふふふ……なんだか、初めてお話しした時のことを思い出しちゃいますね……?」

 ――そうだった。

 あの時も確か、似たような会話を。

 彼女がいつもより少し大人びて見えるのは、この公園が薄暗いからだろうか。

「白峰さんに比べて、俺はまだダメなまんまだな。全然成長してねーや……」

 自然と、頭が重くなる。

「夜木君……」

「……?」

 消え入りそうな呼びかけに顔を上げると、白峰さんの顔は、この暗さでもハッキリと分かるくらいに紅潮していた。

「好きです……」
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