【R18】君は僕の太陽、月のように君次第な僕(R18表現ありVer.)

茶山ぴよ

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第1章 新担任

第16話 過去(1)

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突然の告白。

聡は―――もちろん、なんて答えればいいか、なんてわからないで呆然としていた。

自分は教師で、彼は単なる教え子である。

そして自分には結婚を約束した恋人がいる。

それを再確認させればいい。

頭の冷静なところでは理解しているのだが、口に出せない。

ただ、将の顔を眺めていた―――眺めていたというより、顔のほうをむいて目を開いていたという状態―――。

―――流れにまかせて言っちゃったぜ、俺ってば。

将のほうは、告白したところで、正気に戻った。一瞬後悔したが、ええい、本当のことだ、と開き直った。

初めて自分から好きになったひと。

心の片隅に芽生えた淡い思いは9月になって急に将の心を支配し、

それが年上だろうと、担任教師だろうと、婚約者がいようと、口に出さずにはいられなくなったのだ。

1000万回「好きだ」といえば思いが通じるなら、たぶん今の将は愛の言葉を繰り返すだろう。

「アキラ」目の前の聡にもう一度呼びかけてみる。

「あたし……」

聡は握りこぶしを握って、うつむいた。

そんな聡をみて、これは『もう婚約者がいる』、

もしくは『私は教師、あなたは生徒よ』と1分以内にいわれるな、と将は覚悟した。

まあそんなことは告白した時点で『想定の範囲内(←古いか、あははby将)』だけど。

どうしたら、彼女が俺に振り向くか。

そりゃ決まってる。博史より俺のほうが彼女を幸せにすると確信させればいい。

しかしどうやったら彼女は幸せを感じるのか?彼女の幸せって何だ?

将は1秒のあいだに考えた。

「アキラ、俺は」と、あてどもなく、思考の海へ漕ぎ出したところへ

「お兄ちゃんだ」

思いもかけないところから聞き覚えのある子供の声。

声のほうを振り向く。義弟の孝太がなぜかいた。

後ろにはメートルに案内されてまさにこちらに来ようとしている父・鷹枝康三と義母がいた。

父と義母も孝太の声で将の方に気付いたようだ。

孝太は子供ながらに蝶ネクタイのついたかわいらしい正装をしていた。

―――そうか、今日は孝太の誕生日か。

将はすべてを理解した。

「お、お父様っ?」

聡は、こないだ学校に来た義母と、テレビで見る官房長官の組み合わせで、

それが瞬時に将の両親だと言うことに気がつき、立ち上がると、ぺこりと挨拶した。

康三は、今日は世間で人気を集めているクールビズ姿ではなく、きちんとスーツを着た正装に近い姿をしている。

テレビよりも痩せていて、端正なおもざしは将によく似ている。

義母が康三に耳打ちをした。

「お兄ちゃんも一緒に食べようよ」

「孝太、来なさい」康三は孝太を連れ戻して、聡には目で挨拶した。

義母も軽く会釈をした。

しかし康三は、将の席のすぐ近くを通ったのに、声もかけずに個室のほうへ消えた。

孝太だけが個室に入る寸前まで将のほうをなんども振り返った。

   ◇

「ちょっと、飲みすぎよ」

将の、ワインを飲むペースはあれからあきらかに早まった。

まるで1杯を一口のように飲み続けている。

エシュゾーは聡に1杯注がれただけで、あとは全部将が飲んでしまった。

追加してグラスワインも頼む。

シャンペンも2/3は将が飲んだことを考えると2本ぐらい将が開けたことになる。

「まだ足りないよ~。せっかく飯がうまいのに、ワインが足りないと哀しいじゃん……」

明るくふるまっているが、聡には将の気持ちも理解できなくはなかった。

家出した息子とはいえ、あれが実の父の態度だろうか。

テレビで見る官房長官のにこやかな姿とはまるで違う。

冷たい目で将を一瞥したきり、まるきり無視していた。言葉の1つもかけず……。

「食後酒っ……マールちょうだい」

将はデザートの途中でさらに酒をオーダーした。

マールとはワインの絞りカスでつくった焼酎のような強い酒である。

聡の鼻先を強いアルコールの匂いがツンと突いた。

顔にはあまり出ないタイプなのかもしれないが、目が完全に据わっている。

「もう一杯!」というのをなんとか制止して、お勘定を頼む。

様子が変な将に配慮してか、ギャルソンは勘定を一瞬、聡のほうに持っていこうとした。

が「勘定はこっちでしょー!」と将は大声を出す。

財布からカードを取り出して、ぽいっと皮の皿に載せる。

「ごちそうさまー」

「あの、代行をご用意しましょうか?」とメートルが気を利かすが

「大丈夫、大丈夫。まだお茶するから」と将は却下してしまった。

いちおう、ギャルソンの手前、すくっと立って、多少軸をぶらしながらもまっすぐ歩く……店内までは。

広い通りに出て、ギャルソンが見えなくなった瞬間、将の体がぐらりと揺れる。

あわてて聡は支えた。熱い体温。息がもろ酒臭い。

「アキラ、大丈夫、大丈夫だよ。少し酔いをさませば……」といいつつ、離れるとグラグラする。

「ちょ、ちょっと……」

ぐらつく将を抱きかかえるように支える。

182センチの大男の体重が聡にかかり、聡も倒れそうになるのを踏ん張りながら横断歩道を渡る。

しかし、歩行者の横断を告げる音楽が止んでしまった。

わたりきれないと判断した聡は、抱きかかえるように将を中央分離帯の植え込みの縁に座らせた。

将は聡にしがみついたまま離れようとしない。

「アキラぁ。俺さ」

「何」

「俺……」

聡の肩に首を埋めたまま、吐息のように呟いた将の声は、動き出した車の音にかき消された。

「しっかりして」聡はそういって肩にからみついた将の腕をはがそうとした。

するとなおさら、がっしりとしがみついてくる。

「……このままで。このままでいさせて」

将は聡の肩に顔をうずめたまま、うめくように呟いた。

酔っ払っているから引き剥がすのは簡単だろう。しかし聡は突っぱねる気になれなかった。

聡は将のとなりに座り、しばらく将の肩を受け止めて、通りを眺めていた。

車の、赤いヘッドライトがつぎつぎと流れていく。

再び、歩行者の横断を告げる音楽。行き交う通行人が二人を好奇の目で見ながらも、

それぞれが行くべき道を歩いていく。

家庭の中に居場所がない。

そんなことは今の世の中、悲劇とも言えないほどありふれたことだとも言える。

しかし実母をわずか6歳か7歳のときに失い、残された父にあのように冷遇されたなら。

将はどんな10年を過ごしてきたのだろう。

夕陽に照らされた将のいたずらっぽい笑顔。きらめく水しぶきが蘇る。

目の前の焦点をわざとぶらす。夜の街は揺らめく赤やピンクの光の集合体になった。

そのまま焦点がぶれたまま、光は重なって揺れた。聡は知らず目に涙を溜めているのだった。

   ◇

何回、人々がここを横断しただろうか。

将が頭をあげた。

「……大丈夫?」

聡は何度かよけいに瞬きをして、目に溜まった涙をどこかにやりながら将を気遣った。

将は呆けた目をしながらもうなづき、立ち上がる。

多少ぐらつきながらも、歩こうとする。しかし車がびゅんびゅん来る大通りにそのまま出ようとして、

「だめよ、まだ赤だってば」と聡に止められる。

「あ、うん」その目はまだボーっとしている。

あまりに危なっかしい姿に聡は支えようとするが、将は

「もう大丈夫」と振りほどいた。

信号がやっと青になった。将は元きた道を戻る。

「酔いをさますんじゃないの」

「……もう大丈夫だから」

そうはいってもまだまっすぐ歩けていない。

「じゃあ代行よぶわ」聡はバッグに携帯をさぐる。

「いらねえよ」

「でも」

「大丈夫」

「だめよ」

「いいったら」

将は多少だらしない口調ながら足を速めていった。

駐車場についてしまった。

「だめよ。事故を起こしたら……、万が一、人をはねたらどうするの」聡は車のドアのまえに立ちはだかった。

「大丈夫だよ」将はそんな聡をどけようとする。

「大丈夫じゃないわ」

将は一瞬聡の顔を見た。心配そうな顔をしている。

それを見ると将はいったん視線を下に落とした。そのまま目だけで聡に向き直る。

「万が一、人をはねても……あの親父がなかったことにしてくれるさ」

「な……」

聡は固まった。そんな聡の肩をつかんで将は続ける。目には強い光が戻っていた。

聡にとってこんな将を見るのははじめてだ。

「俺は何をしたって許されるんだ。人を、例え、刺し殺したとしても。親父のチカラでな」

聡が驚いたのか呆れたのか確認もせず、将は聡の首をひったくるようにして、唇をあわせる。

突然の隙をついて舌までも差し込む。

「……アキラ!」

次の瞬間、将の頬に熱い衝撃が走り、酒で足元がふらついていた将はよろめいた。

顔をあげると髪をふりみだして息が荒くした聡が睨みつけていた。

「何てこというの!」

叫ぶその顔からは今噴き出したらしい涙がぼたぼたと落ちている。

「情けない……見損なったわ」
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