【R18】君は僕の太陽、月のように君次第な僕(R18表現ありVer.)

茶山ぴよ

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第1章 新担任

第21話 勉強の意義(4)

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聡は放課後、兵藤憲一の話を聞いた。

東京からJRの快速で1時間半程度のところに実家があるという兵藤は、

あの寿司屋に弟子入りし、住み込みで修行しているのだという。

ただ、「高校はくらいは出ておけ」という主人の方針で、店から比較的近い荒江高校に進学したのだという。

「どうして、お寿司屋さんで修行することになったの?」

聡が訊くと、兵藤は少しだけ頬を赤らめて

「僕の叔父が寿司職人だったんですけど、5年前からニューヨークで店を開いてるんです」

スシブームに乗って、叔父の店はいまだに客が絶えないという。

勉強がそれほど好きじゃなかった兵藤は腕一本で海外までも渡り歩ける寿司職人に憧れを抱いたというわけだ。

「そうなの……。じゃあ兵藤くんもいずれは外国に?それで英語を頑張ってるの?」

英語だけ、特に頑張っている兵藤に理由を求めた。

「それはわからないんですけど……。そういうチャンスがあるかもしれないし、

それに店に結構外国の方がいらっしゃるんです。だから……」

将と違って、幼くみえる丸刈り頭の兵藤だが、敬語もしっかりと使えるし、

その視線は自分の未来をしっかりと見据えている。

自分の将来に関係があるから、勉強を頑張れるのだろう。

 

 

聡が兵藤を呼び出して話を聞いているしばしの間、補習組は自習になっていた。

聡目当てで放課後居残っている将は、とてもつまらない。

株取引も終了している今の時間、特にやることもない。

将は窓側に座り、校庭ごと夕陽に染まりながらサッカーに興じる生徒をぼんやりと見ていた。

そのオレンジ色は、将に土曜日の海辺の聡を思い出させた。

びしょぬれになりながら、何がおかしいのか笑いあっていた記憶は将を少し幸せにした。

そして強引にした2回のキス。

その感触を思い出し、将は唇に拳をあてる。

と、教室の入り口が開いた。聡が入ってくると思った将はあわてて視線をそちらに向ける。

兵藤一人が教室に戻ってきた。

―――なーんだ、ケンちゃんだけかあ。

がっかりした将の視線は、また元の窓辺に戻ろうとして、止まった。

少し離れた斜め前に座る、松岡の腕にひどい擦り傷を見つけたからだ。

軽いものだからか、包帯などは巻いていないが、それゆえにまだ新しい海老茶色の傷は目立った。

肘から腕にかけて広い範囲にわたっている。

「松岡クーン」

将は机に乗り出すようにして、松岡を呼んだ。

松岡は将に呼ばれてギョッとしたように身震いしながら振り返った。

「何ですか?」

同級生なのに松岡は将に敬語を使った。そのくせ将の顔をまともに見ず、おどおどとしている。

将はおかまいなしに訊いた。

「その腕どうしたの?」

「え……」

ふいに訊かれ、松岡はあきらかにとまどっていた。

「……何でもありません」

そういうと松岡は前を向いて、勉強に集中するふりをした。

―――何でもないってことないだろ。

将はその態度を見て不審に思った。そのとき聡が入ってきたから、すっかり忘れてしまったのだが……。

 

 

「今日の英語は、教科書もノートも使いません」

次の日。聡はHRの時間にそう宣言した。クラスは、何が始まるのかとざわめいた。

「静かに。……ですから、英語の時間はみんな視聴覚室に移動してください」

将は目の前、教卓の上の聡を見上げた。何かを決意しているようである。

今日の英語は昼食が終わってすぐの4時間目だ。

将は、昼食はいつも井口らとつるんで学食を利用する。

先週、教室からピザを注文して、多美らにこっぴどく叱られたので、

安いけれど美味しくない学食で我慢しているのだ。

ネギとなぜかピンク色に着色されたカマボコで嵩を増した親子丼をかきこむと一人、

職員室の窓を校庭側からのぞく。

職員室には屈強教師らが宅配弁当を食べながら憩いのときを過ごしていた。

が、その中に聡はいなかった。将は視聴覚室に向かった。



DVDの説明書を熱心に読んでいた聡は、急に後ろから温かい体温に包まれた。

誰かに急に抱きすくめられたのだ。

嫌な思い出がある視聴覚準備室だ。聡は思わず「キャ」と声を出しかけた口をふさがれる。

「俺だってば」

手を振りほどいた聡の前に将がいた。将がいきなり聡を後ろから抱きしめたのだ。

「もう!何するのよ!」

聡は心臓が止まるかと思うほどびっくりしたのだ。まだドキドキしている。

「いいじゃん。もうデートした仲なんだし。……何してんの」

将は聡の手元を覗きこむ。

「見りゃわかるでしょ。仕事よ。そっちこそ何してんのよ」

「何って。アキラと二人になりたかったんじゃん」

「先生、でしょ」

「アキラでいいじゃん。マイ・スイート・ハニーアキラ。昨日はケンちゃんと何話してたの」

聡はバカ、といいながら、

「ちょっといろいろ将来のこととか。そうだアンタ、大学進学考えてるの」

と教師の顔に戻って訊いた。将は軽くうなづくと、逆に聡に訊いた。

「ね、博史って何大?」

何でそんなこと訊くのよ、という聡に、いいから、と食い下がる。

「××大」

地方の国立大だが、将でも知っているとてもレベルの高い大学だ。

「ふーん。じゃ俺、もっといい大学に行く」

「何それ」

「アキラが好きだから。博史に負けたくない」

聡の心臓が再び体中に響くような音をたてはじめた。

それは静かな視聴覚教室のこと、聞こえてしまうのではないか、というほどだった。

ふいに午後の授業の予鈴チャイムが鳴った。聡は助かった、とホッとした。

「バカなこといってるんじゃないの」とあしらいの言葉を何とか舌に乗せた。



将は何食わぬ顔をして、井口らと合流して、生徒らの一番後から視聴覚室に向かった。

そのとき、はるか前を歩く松岡の腕の傷に目がいった。

傷は昨日より色が濃くなり、カサブタ化しているようである。その横顔をみてハッとした。

唇の横が少し赤く腫れている。

直感的に、近くにいた前原を見た。

前原は将に殴られて以来、将と直接話をしないが、クラスの中の不良グループの一人として、

井口らとはまあまあ親しくしているらしい。

こうして視聴覚室などに移動するときも、誰と同じグループの中で将とは離れたところを歩いていた。

前原は将の視線に気付くと一瞬睨み返したが、すぐに目をそらした。



 

   

視聴覚室で、聡はマイクを使って言った。

「今日から、映画とか音楽を使って、英語の基本をやります」

再び生徒はざわついた。

「日本語もそうだけど、言葉ってのは、他人に何かを伝えるためにあるんだよね。

で、一番手っ取り早いのは、話すことと聞くこと。

それは、字に頼っていたらいつまでたっても覚えられない。

なので、今日から教科書は使わないで、耳と口と体を使った授業をやります。ただし」

嬉しさからかさらにざわめきが強くなる生徒ら。

「授業にきちんと参加しないと、テストの点がとれないように問題をつくります」

少し静かになる。

「だから。そこ!」

早くも視聴覚室の暗さに、机の上につっぷしていた不良の一人、ユータを聡は指差す。

皆に注目されてユータは起き上がって頭に手をやりながらニヤニヤする。

「寝ないように。わかりましたか」

「はぁい」

茶髪の頭を軽く前にゆらす。

「あと。大学を受験したい人は、個別に対策をしますので、放課後の補習なり、添削なり……希望の方法をあとで聞きます」

聡は照明を消すと、映画を流し始めた。
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