『私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~』

あらお☆ひろ

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⑪「中之島の夕食~吉野寿司の箱寿司~」

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⑪「中之島の夕食~吉野寿司の箱寿司~」
 午後4時半、大阪の背骨にあたるメイン通りの御堂筋を南下し、淀屋橋を越え淡路町で健は東に入った。ビジネス街のビルの1階にある「吉野」の暖簾がかかった店に入った。1階はガラスショーケースが並んでいて、客席は2階になっているようだった。2階へのエントランスには、「CLOSE」の札がかかっている。
「健さん、お店もう終わってるんとちゃうの?」
「せやな、夜は5時からの営業やからな。店は予約制やから、今日ここに来たんは、お持ち帰りの箱寿司と吉野巻きを買いに来たんや。まあ、昼に来てたらカウンター席で、職人さんが箱型でお寿司作るところも見れたんやけどな。」
と言い、ショーケースの中を覗き込んで、箱寿司3枚折詰と吉野巻きを頼んだ。

 商品を受け取ると健はそそくさと、店を出て今度は北に向かって歩き始めた。途中のコンビニでビールと日本酒のワンカップをいくつか購入すると「今日も雨は降りそうにないので中之島公園でゆっくり月見酒しながらお寿司食べよう。」とのことだった。
 午後5時、空はまだ明るいが東の空にほぼ満月に近い月がのぼっていた。公園のベンチに健のバッグから出した100均のエア座布団を出し、膨らませてくれた。希を座らせると、健はベンチをまたいで座り、ふたりの間にさっき買った寿司を並べた。
 
 包みを開けると見たことのない文字が希の目に入った。
「健さん、「養う」ちゅう字の上半分に、「食べる」の代わりに「魚」って書いてあるんやけど、これってなんて読むの?吉野って前に書いてあるから「すし」って読むんかな?普通は「寿ことぶき」に「つかさ」って書くか「魚偏うおへん」に「作るの右側」か「旨い」って書くやんな?」
 希が尋ねると、感心した顔をして
「ほー、食い気の前に、そっちに目がいったか。結構結構!人間、「一生勉強」やからな。確かに、希ちゃんが言うように、「寿」に「司」の「寿司」が一般的やな。これは、江戸時代に縁起を担いでつけた当て字やねんけど、それが一般的になったんやで。
 「魚偏」に「作」の右側の「鮓」いう字は、本来の意味は「塩辛」、「魚偏」に「旨」は「なれずし」のことやねん。まあ、どれを使ってもおかしくはないねんけどな。
 「養うの上半分」に「魚」は、本来「ふか」って読むねんけど、干物の意味もあるねん。大阪寿司は、元は生魚乗せる江戸前寿司と違って、平安時代からある、観劇や旅の時のお弁当やったときの名残で残ってんねん。せやから、「押し寿司」に限っては、その字を使うことがあるんやで。」
と健は説明した。



 包み紙を開け、折蓋を外すと色とりどりの押し寿司がぎっちり入っていた。3枚折詰なので約2人前になるらしい。ぎゅっと圧縮された少し甘めの酢飯はボリュームがあるので腹持ちが良いとの説明を受けた。「今日の寿司は石川里留という大阪で一番の押し寿司職人が作ってるはずやで。」と健から説明があった。
 後にわかることなのだが、この時に食べた押し寿司を作った職人が、今のバッテラ寿司の元祖と言われる「寿司常」の4代目になる。明治24年創立の初代の中恒吉、二代目の中浅吉、そして三代目の中恒次が昭和63年に死去し、一度は降ろした老舗の暖簾を平成28年に石川里留氏が復活させたのが、舟形のバッテラで有名な現在の「寿司常」であることを、希は10年後に知った。



 健はワンカップ、希はビールを飲みながら、箱寿司をほおばっていく。
「健さん、ずっしりボリュームがあって美味しいなぁ。押し寿司って初めて食べたわ。ビールともばっちりやねんけど、私も冷で日本酒飲んでみたいねんけどええかな?」
とベンチに置かれた健のワンカップを掴むと一気に一口飲みこんだ。
「がおっ!昨日のマッコリも美味しかったけど、冷の日本酒も美味しいなー!やっぱり寿司には日本酒ってかー!」
と大きな声を上げた。
 
 ワンカップを手放さないので仕方なく、健はバッグから次のワンカップを取り出した。嬉しそうに、寿司をほおばり、日本酒を飲んでいた希がはたと空を見上げて、
「今日の月はもうちょっとで満月…。でも、その後は徐々に削れて消えていくねんな。月はまた満ちて来るけど、私は消えたらそこでお終いなんやな…。」
と呟いて、動きが止まった。健が、言葉をかけようとすると、
「健さん、後ろ向きな話をするつもりはないねんで!安心して!死ぬにしても、たくさん美味しいもの食べて美味しいもの飲んで、笑って過ごせたらええなぁってね。明日の三重県の取材旅行も楽しみにしてるで!」
と呟く希の目から涙がこぼれたのを健は見逃さなかった。
「希ちゃん、無理せんでええねんで。怖いもんは怖いでええねん。ただ、おいちゃんが言うのは、「怖がるだけやったらあかん!」ってことやねん。いざ死ぬときに「やり残したこと」がたくさんあって、「後悔して死んでいく」より「やりたいことやり切って満足して死ぬ方」がええやろってことや。
 もちろん、明日、明後日は、いろんな有能な神様が希ちゃんの味方してくれることを期待してるけどな。まあ、旨いもんは期待しとってええで!おいちゃんに任せとき!」

 希は健の手をぎゅっと握り、「ありがとう、健さん、ありがとうね。」と泣きながら呟き続けた。健は、何も言わずゆっくりとワンカップをすすり、箱寿司をつまんだ。しばらくすると、希も泣きやみ健に言った。
「明日は、何時にどこで待ってたらええの?あっ、今日のお礼にお別れの前に背中掻いてあげるわな。」
「明日は、6時半に門真市駅待ち合わせ。じゃあ、今日の締めに背中も頼むわ。カラカラカラ。」
 健は、背中を希に預け、ワンカップの飲み干し笑った。



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