その花びらが光るとき

もちごめ

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 国王が森の入り口で、手に持っていた杖を掲げてなにやら呪文を唱えると、森全体が淡く光って、白い幕がドーム状に広がっていく。
 もう一度杖を高く掲げると、パンッ!! と膜が弾けた。


 「アル・カーラ」

 その呪文を唱えると、森の入り口に虹色に輝くトンネルができた。
 そのトンネルを国王を先頭に宰相、王子たちと進んでいく。

「さあ、私たちも行きますよ」
 
 エルストが私の腰を押して、前へ進むように促しているので恐る恐る足を進める。
 虹色のトンネルの中は外が見えなく、ただ真っ直ぐに進むしかない。
 
「このトンネルからはぐれちゃうとどうなるんだろう?」
「さあ。きっと異界の狭間をさまよって二度と戻れなくなるんじゃないんですか?」

 ……。絶対にはぐれないようにしよう。


 トンネルはそんなに長くもなく、すぐに抜けた。
 抜けた外には小さな湖があり、その真ん中には石板が立っていた。

 (きっと、あれだ!)


「さあ、つきました。女神、あの石板に聖なる力を込めていただきたい」

 国王を始め、みんなが私にすがるような目で見てくる。

 (やるしかない)
 まだ自分に力があるなんて信じられないけれど、ここまで来て『やりません』 は許されないだろう。
 とりあえず、どうなるかはわからないけれど、形だけでもやってみよう。


 真っ直ぐに湖に向かって歩いていく。
 ほとりからゆっくりと足を水の中に入れてみる。

 (冷たい!!)
 
 水の冷たさに驚き一瞬躊躇するが、後ろから刺さる視線が痛くて、またゆっくりと中へと進んでいく。

 (うう、冷たいよ。さっさと行って、適当に手を当てて帰ってこよ)

 水の高さは膝までしか無かったことに一安心するが、あまり水の中に浸かるのには抵抗がある。
 とにかく早く早くと足を進めて、石板の前までたどり着いた。

(石板に手を当てればいいんだよね)


 冷たい古びた石板に手を当てる。


 急に黒い煙のようなものが意識の中に入り込んでくる。
 
 (何!? 何かが頭の中にはいってくる! 嫌だ!! 気持ち悪い!!)

 異変を感じたのはほんの一瞬のことで、すぐに自分の意識とは切り離された。

 残されたのは、ひどくだるく感じる身体で、立っているがやっとの状態である。

 フラフラっとして、すぐにその場に座り込んだ。
 胸の位置まで水の中に浸かり、水面に自分の顔が映し出される。

(あれ? 私、こんな顔してたっけ?)
 
 自分は誰なのか、どうしてこんなところにいるのか、違和感を感じる。

 それと同時に、ひどく寂しくて悲しい気持ちが胸の奥から一気に込み上げてきた。

 さみしい。かなしい。いやだ。
 どうしてわたしなの。
 なんで私が女神をやらなきゃいけないの!

 帰りたい!!

 込み上げてきたものが溢れ、声を出して子供のように泣いた。

 様子がおかしいことに気づいたらしく、エルストが水の中で急いで駆け寄ってきた。
「どうした!」

 顔を見ればひどく焦ったような、戸惑ったような顔のエルストがいた。
(こんな表情もするんだ)
 そうぼんやりと意識の外で思ったが、悲しい気持ちが止められず、大きな声で泣きじゃくった。

 ひどく困ったような顔をしながらも、そっと抱きしめて、その有様を泣き止むまで胸の中で隠してくれていた――。
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