その花びらが光るとき

もちごめ

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 はあ、はあ、はあ、はあ……。

(ちょっと、歩くスピードが速いんだけど……)
 
 歩くというより、最早走っていると言った方が正しいと思ったが、少しでも歩みを止めてしまうと姿を見失ってしまいそうなので、必死に後をついていく。


(それにしてもどこに向かっているんだろう。もうずいぶんと歩いている気がする。城の中にこんな場所があったんだ)


 普段全然運動なんてしていないため、すぐに足がパンパンになって重たい。しかも足がもつれてきたため、少し歩く速さをゆっくりにしてもらおうと、だいぶ前を歩く侍女に向かって「ちょっと待って、」 と声を掛けようと思うのだが、乱れた息がなかなか整わずに思うように声が出ない。


「ぜえ、はあ、」 と荒い息をしながら、はたから見るととてつもなくみっともない姿だろうな……、なんて考えて、息を整えるために少し立ち止まりかけたのだが、そうこうしているうちに侍女は廊下の先を曲がってしまい、姿を見失いそうになる。


 こんなところで見失ってしまっては大変! 帰り道もわからない! と焦って、自分も急いでその後を追って角を曲がろうとした。


 その時、曲がり角から突然に飛び出してきた体の大きな男とぶつかりそうになり、(ぶつかる!!) と思い、横へとずれようとしたのだが、いきなり乱暴に腕を取られ、口元に布を押し当てられた。



 その瞬間香って来た甘ったるい匂いに、”どこかで嗅いだことがある” と感じた。

(まずい!!) と思ったがひと足遅かった。



 少しずつ目の前の景色が揺れ始め、意識が混濁し始める。


 だんだんと薄れゆく意識の中でなぜだかエルストさんの顔が浮かんだ。



 胸に咲く、花びらが熱い……。
 


***

 ガタンゴトンと規則正しく揺れる振動に、深いところにあった意識が持ち上がるのを感じる。
 重たい瞼を二、三度瞬いてから持ち上げた。

 どうやら何かの乗り物の中にいることは目覚めてすぐに理解できたが、中の様子が薄暗くていまいちよくわからない。


 意識が消える前のことを思いだし、状況的にあまりよくないということだけは分かった。

(はあ、最悪。何であそこでもっとよく考えなかったかな……)

 今頃自分を探しているだろう臨時の護衛の事を考え、申し訳なく思った。



 とりあえず、寝転がったままでは置かれている状況の整理も確認もできないと思い、起き上がろうとしたが、違和感に気づく。


(手を縛られている……)


 攫われた人は手を縛られるのは物語の中でよくあるのだが、実際に自分がその状況に陥るととても厄介なことこの上ないと感じた。


(どうやって抜け出せばいいのかな?)

 ひっぱても、こすってみても、きつく縛られているらしく皮膚がこすれる痛みを感じるのみで、緩む気配は全く見られない。

 それでも痛みをこらえ何とか少しでも緩まないか、と悪戦苦闘をしていたら狭い空間の中で自分ではない男の人の声が突然聞こえてきてビクッと身体が震えた。

 クスクスクスと、どこに笑いを誘う状況があったのかわからないが、とにかく楽しいらしく狭い空間に奇妙な笑い声が響く。

 こんなことをするのはあの人くらいしかいない、と自分の中である程度の検討はつけていたのだが、まさかその本人と今一緒の空間にいるなんて悪夢でしかない。と、その声のしたほうに顔を向け、目を凝らしてみる。


 薄暗い視界の中でだんだんと浮かび上がるシルエットに、”そうであってほしくはない” と思っていたが、やはりと確信を得る。


「レネット殿下……」
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