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第六章 父と特訓、筋肉アップのサマーバケーション(十五歳)
058 ルーカスを人に戻す方法
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その日私は里帰りのついでに、ミュラーの元を訪れていた。
まるで緑の絨毯が敷かれたように、綺麗に刈り揃えた芝生の上。中央には、美しく飾られた小さなテントが設けられ、白いテーブルと椅子が置かれている。
テーブルの中央に置かれているのは、美しい花々のアレンジメント。その周りには白い陶磁器のティーセットと、色とりどりのお菓子が並んでいる。
「誰しも、後ろ暗い感情を抱く部分がある。そしてそれらを全て浄化するなど無理なこと。何故なら「生きる」という行為と、負の感情は切り離せないものだからだ。つまり、神より授かったクリスタルをもってしても、人の心を善のみで染める事は出来ぬということだ」
私に得意げに講説を垂れているのは、神よりローミュラー王国を観察するよう命じられていると言い張る、悪魔のミュラーだ。
相変わらず天使のような見た目をした少年である彼は、左右が黒白に分かれたおかしなスーツに身を包んでいる。
「お前も、フェアリーテイル魔法学校で、その事を感じ取っているんじゃないか?」
ミュラーに問いかけられ、私はピンクのマカロンを口に放りこみながら頷く。
確かにホワイト・ローズ科の生徒だからといって、天辺からつま先まで清廉潔白な人などいない。そしてブラック・ローズ科の生徒にだって、悪に惹かれる心を持ちつつ、それぞれの思う善の気持ちだって秘めているからだ。
(人間は白黒つけられないもの)
それはミュラーの言う通り、学校で痛いほど実感している。
私は未だ密かに戦争中である、ホワイト・ローズ科のエリーザを思い浮かべ、ミュラーの意見に至極納得した。
「だからこそ人は悪を捨てきれず、グールもまた、悪だまりによって生まれ続ける」
ミュラーはそこで一度言葉を切ると、テーブルの上に乗った紅茶カップを手にとる。
「それに、良い悪いはさておくとして、人は欲に忠実な生物だ。それはグールにも当てはまる。彼らも自分の欲に忠実に生きたいと願っている。だからこそ、グールは自分たちの能力を制御するクリスタルの存在を排除したい。そして私達はそれを阻止しなければならない」
説明を終えるとミュラーは目を閉じ、紅茶の香りを楽しみはじめた。
「そういえば、ランドルフがグールの能力を、強制的に解除する薬の開発をしているらしいけど」
私はふと思い出したように口にすると、ミュラーがあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「あの男……また余計なものを作り出して」
ミュラーはカップを置くと、口元に手を当て考え込むような仕草を見せる。その間に、私も紅茶を飲み、渇いた口を潤す。
「人は何度も過ちを繰り返している。より強固な力を得ようと、己が倒した敵を食らうこともそうだし、自らの美貌を保つことに執着した王妃が、うら若き乙女の生き血風呂に入浴したり。今回、ランドルフが行っている研究も、神の意志に逆らう愚行でしかない」
ミュラーは忌々しいといった感じで、目の前に置かれた白いマカロンを睨みつけた。白いマカロンにしてみれば、八つ当たりもいいところだろう。
「まぁ、何も無理にグールの力を解放しなくても。私もそう思うけど」
私は呟きながら、黄色いマカロンに手を伸ばす。
「クリスタルで欲望を抑えつけられているとは言え、本来グール化し、人を捕食出来ず枯渇した思いを抱える者は自我を失い、欲望に従い行動しがちだ。疫病により、数を増したのもグールが台頭した原因だろう」
ミュラーは両手を広げると、大仰に嘆いてみせた。
「でも、全てのグールがそうなわけじゃないわ。ルーカスは何とか自我を取り戻したし」
私は何気なく言ったつもりだったのだが、その瞬間、空気が変わった気がして顔を上げる。そこには今まで見たこともない程、冷徹な目つきをしたミュラーの姿があった。
「えっと……?」
私はゾッとするような彼の眼差しに戸惑った声を出す。
「それはお前が神の子の子孫だからだ。普通の人間であれば、今頃彼の餌となっていただろう。そもそも、お前はあの時、あの青年に食べられても良いと諦めていたようだが」
ミュラーが批判的な表情を私に向ける。
「それは、ああいう事は初めてだったし、そう思っちゃったんだから、仕方ないというか、なんというか」
私はしどろもどろになりつつも反論する。しかしミュラーが私に向ける冷ややかな視線は変わらない。
「はっきり言うが、お前が誰を伴侶に選ぼうと構わない。子孫さえ残してくれればな。しかしグールだけはやめておけ。お前はグールを狩る者なのだから」
ミュラーの言葉に、私はグッと喉を詰まらせた。
(わかってるよ、そんなこと)
私とルーカスが上手くやれているのは、煩わしい世界から隔離されたフェアリーテイル魔法学校内だから。けれど学校の一歩外に出て、自分が所属する世界に戻れば、私とルーカスを取り巻く状況は最悪だ。
グールとそれを狩る者。そして、婚約破棄された者の子と婚約破棄した者の子。さらに付け加えるとすると、国外追放を命じた者と命じられた者。
私達はそもそも生まれた瞬間から、敵対する事を運命付けられた間柄なのだ。
ミュラーに言われなくとも、私だってそれぐらい理解している。
それでも私は聞かずにはいられなかった。
「私がルーカスに人間に戻れと命令しても、駄目なの?」
それが出来れば、私はもう少し素直な気持ちで、ルーカスと向き合う事ができる。
何より自然とそう思ってしまう私は、多分ルーカスに対し特別な気持ちを抱えている事をそろそろ、自分自身で認めるべきなのだろう。
「彼は一生、人間に戻ることはない。そもそもグールとなった遺伝子を持つ両親から生まれてきたのだからな。しかも、お前がそう願えば、彼に更なる苦しみを与えるだけだ」
「どうして?」
私はがっかりする気持ちのまま、たずねる。
「お前に対し特別な感情を抱いているからだ」
ミュラーの言葉が導き出す、その意味がわからず、私は首を傾げる。
「好いたお前から「人間になって欲しい」と願われた場合、彼はそうなりたいと思うだろう。しかし彼は人間には戻れない。けれどお前のために戻りたいと葛藤し続ける。それがどれほど苦しいか、想像がつくか?精神崩壊し、グールと化した彼は自我を失い、悲惨な末路を迎えるだろう」
「…………」
私はミュラーの辛辣な言葉に、返す言葉を無くした。
(私は狩る者。そしてルーカスは私が狩る対象)
突きつけられる現実に、私はギュッとスカートを握りしめ、俯く。
「ただ、彼を救えない事もない」
「は?」
私はミュラーにまんまと騙されたのかと、ミュラーに凍てつく視線をぶつける。
「睨むな。神に背く行為だと知りつつ、グールと化した者を救いたいと願うのであれば、お前が犠牲を払えば良い」
「それはクリスタルに定期的に触れて、ミュラーに会いにくる。それからグールを殺しまくって、死ぬ時に魂を変な水晶に閉じ込められればいいってこと?」
口にし、改めて私は不幸だと思った。一人で背負うには明らかに重すぎる運命だと。
「それはお前に課せられた使命であって、どうあがいても逃げられぬ神との約束だ。ルーカス・アディントンとは関係がない」
私は黙り込む。そして、ついつい荒ぶりかける気持ちを落ち着けようと、紅茶を一口飲んだ。
「お前はグール化しかけ、自我を失いかけた青年に襲われた時、自らを餌として差し出そうとしていた」
「だからあれは、パニックになってたから」
「お前はあの青年の為に命を投げ出す覚悟がある。そうではないのか?」
「ないわ……ってまさか、私の生命を彼にあげるってこと?」
冗談であって欲しいと願い、ミュラーの顔に視線を向ける。すると彼は静かにうなずいた。
「お前の魂はいずれ、水晶の中に閉じ込められる。しかし魂の器であるその体は、人と同じように朽ち果てていく」
ミュラーはそう言いながら、紅茶カップをテーブルの上に置く。
「魂の入れ物であるお前の体には、神より与えられたグールを浄化する魔力を含んでいる。つまりそれを彼が喰らえば、彼の中に溜まるグールとしての本能を浄化し、人の体と心を取り戻す可能性があるということだ」
「そんな都合の良い話あるの? そもそも、もしそうなっても、私が死んだ後、結局はグールのままじゃ意味ないんだけど」
「流石に前例がないからな。確実に人に戻るとはいえない」
ミュラーはそこで一度口をつぐんだ。
「けれど、お前がルーカス・アディントンを心から救いたい。そう願うのであれば、試す価値はあると思うが」
ミュラーの言いたい事はわかる。
(死体を有効活用しろってことでしょ?)
もしそれでルーカスがグールという呪縛から逃れられた場合、嬉しい気がする。けれど、それを共に喜ぶ事も、私のお陰なのよと、ルーカスに押し付けがましく言う事も出来ない。
(だって、私の魂は既に水晶で、私はこの世界を彷徨うだけの存在になってるわけだし)
それに、もし私が長生きした場合。ルーカスはその期間、今と同じ状況に耐える必要がある。それでは遅い気もしなくもない。
(でも、まだ死にたくないし)
何よりルーカスを含む、この国の人間に復讐しなければならない。
(でもなぁ……)
誰にでも平等に訪れる、死の瞬間。
それを誰かの為に有効活用出来るのであれば、この体を差し出してもいいかなとは思う。
「まだ死にたくない。だけど、今の話は覚えておく」
私はミュラーにそれだけ告げると、席を立った。
「茨の道を歩む者に、幸あれ」
「えっ?」
私は驚いてミュラーを振り返る。
「神がそう言っている」
ミュラーは厳しい口調で言うと、私をじっと見つめてくる。
「出来れば楽な道を進む方がいいんだけど」
私は苦笑すると、扉に手をかける。そして振り返らずに言った。
「でも、あの時助けてくれて、ありがとう」
「ああ」
ミュラーの言葉を聞き終わる前に、私は彼の部屋を出たのであった。
まるで緑の絨毯が敷かれたように、綺麗に刈り揃えた芝生の上。中央には、美しく飾られた小さなテントが設けられ、白いテーブルと椅子が置かれている。
テーブルの中央に置かれているのは、美しい花々のアレンジメント。その周りには白い陶磁器のティーセットと、色とりどりのお菓子が並んでいる。
「誰しも、後ろ暗い感情を抱く部分がある。そしてそれらを全て浄化するなど無理なこと。何故なら「生きる」という行為と、負の感情は切り離せないものだからだ。つまり、神より授かったクリスタルをもってしても、人の心を善のみで染める事は出来ぬということだ」
私に得意げに講説を垂れているのは、神よりローミュラー王国を観察するよう命じられていると言い張る、悪魔のミュラーだ。
相変わらず天使のような見た目をした少年である彼は、左右が黒白に分かれたおかしなスーツに身を包んでいる。
「お前も、フェアリーテイル魔法学校で、その事を感じ取っているんじゃないか?」
ミュラーに問いかけられ、私はピンクのマカロンを口に放りこみながら頷く。
確かにホワイト・ローズ科の生徒だからといって、天辺からつま先まで清廉潔白な人などいない。そしてブラック・ローズ科の生徒にだって、悪に惹かれる心を持ちつつ、それぞれの思う善の気持ちだって秘めているからだ。
(人間は白黒つけられないもの)
それはミュラーの言う通り、学校で痛いほど実感している。
私は未だ密かに戦争中である、ホワイト・ローズ科のエリーザを思い浮かべ、ミュラーの意見に至極納得した。
「だからこそ人は悪を捨てきれず、グールもまた、悪だまりによって生まれ続ける」
ミュラーはそこで一度言葉を切ると、テーブルの上に乗った紅茶カップを手にとる。
「それに、良い悪いはさておくとして、人は欲に忠実な生物だ。それはグールにも当てはまる。彼らも自分の欲に忠実に生きたいと願っている。だからこそ、グールは自分たちの能力を制御するクリスタルの存在を排除したい。そして私達はそれを阻止しなければならない」
説明を終えるとミュラーは目を閉じ、紅茶の香りを楽しみはじめた。
「そういえば、ランドルフがグールの能力を、強制的に解除する薬の開発をしているらしいけど」
私はふと思い出したように口にすると、ミュラーがあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「あの男……また余計なものを作り出して」
ミュラーはカップを置くと、口元に手を当て考え込むような仕草を見せる。その間に、私も紅茶を飲み、渇いた口を潤す。
「人は何度も過ちを繰り返している。より強固な力を得ようと、己が倒した敵を食らうこともそうだし、自らの美貌を保つことに執着した王妃が、うら若き乙女の生き血風呂に入浴したり。今回、ランドルフが行っている研究も、神の意志に逆らう愚行でしかない」
ミュラーは忌々しいといった感じで、目の前に置かれた白いマカロンを睨みつけた。白いマカロンにしてみれば、八つ当たりもいいところだろう。
「まぁ、何も無理にグールの力を解放しなくても。私もそう思うけど」
私は呟きながら、黄色いマカロンに手を伸ばす。
「クリスタルで欲望を抑えつけられているとは言え、本来グール化し、人を捕食出来ず枯渇した思いを抱える者は自我を失い、欲望に従い行動しがちだ。疫病により、数を増したのもグールが台頭した原因だろう」
ミュラーは両手を広げると、大仰に嘆いてみせた。
「でも、全てのグールがそうなわけじゃないわ。ルーカスは何とか自我を取り戻したし」
私は何気なく言ったつもりだったのだが、その瞬間、空気が変わった気がして顔を上げる。そこには今まで見たこともない程、冷徹な目つきをしたミュラーの姿があった。
「えっと……?」
私はゾッとするような彼の眼差しに戸惑った声を出す。
「それはお前が神の子の子孫だからだ。普通の人間であれば、今頃彼の餌となっていただろう。そもそも、お前はあの時、あの青年に食べられても良いと諦めていたようだが」
ミュラーが批判的な表情を私に向ける。
「それは、ああいう事は初めてだったし、そう思っちゃったんだから、仕方ないというか、なんというか」
私はしどろもどろになりつつも反論する。しかしミュラーが私に向ける冷ややかな視線は変わらない。
「はっきり言うが、お前が誰を伴侶に選ぼうと構わない。子孫さえ残してくれればな。しかしグールだけはやめておけ。お前はグールを狩る者なのだから」
ミュラーの言葉に、私はグッと喉を詰まらせた。
(わかってるよ、そんなこと)
私とルーカスが上手くやれているのは、煩わしい世界から隔離されたフェアリーテイル魔法学校内だから。けれど学校の一歩外に出て、自分が所属する世界に戻れば、私とルーカスを取り巻く状況は最悪だ。
グールとそれを狩る者。そして、婚約破棄された者の子と婚約破棄した者の子。さらに付け加えるとすると、国外追放を命じた者と命じられた者。
私達はそもそも生まれた瞬間から、敵対する事を運命付けられた間柄なのだ。
ミュラーに言われなくとも、私だってそれぐらい理解している。
それでも私は聞かずにはいられなかった。
「私がルーカスに人間に戻れと命令しても、駄目なの?」
それが出来れば、私はもう少し素直な気持ちで、ルーカスと向き合う事ができる。
何より自然とそう思ってしまう私は、多分ルーカスに対し特別な気持ちを抱えている事をそろそろ、自分自身で認めるべきなのだろう。
「彼は一生、人間に戻ることはない。そもそもグールとなった遺伝子を持つ両親から生まれてきたのだからな。しかも、お前がそう願えば、彼に更なる苦しみを与えるだけだ」
「どうして?」
私はがっかりする気持ちのまま、たずねる。
「お前に対し特別な感情を抱いているからだ」
ミュラーの言葉が導き出す、その意味がわからず、私は首を傾げる。
「好いたお前から「人間になって欲しい」と願われた場合、彼はそうなりたいと思うだろう。しかし彼は人間には戻れない。けれどお前のために戻りたいと葛藤し続ける。それがどれほど苦しいか、想像がつくか?精神崩壊し、グールと化した彼は自我を失い、悲惨な末路を迎えるだろう」
「…………」
私はミュラーの辛辣な言葉に、返す言葉を無くした。
(私は狩る者。そしてルーカスは私が狩る対象)
突きつけられる現実に、私はギュッとスカートを握りしめ、俯く。
「ただ、彼を救えない事もない」
「は?」
私はミュラーにまんまと騙されたのかと、ミュラーに凍てつく視線をぶつける。
「睨むな。神に背く行為だと知りつつ、グールと化した者を救いたいと願うのであれば、お前が犠牲を払えば良い」
「それはクリスタルに定期的に触れて、ミュラーに会いにくる。それからグールを殺しまくって、死ぬ時に魂を変な水晶に閉じ込められればいいってこと?」
口にし、改めて私は不幸だと思った。一人で背負うには明らかに重すぎる運命だと。
「それはお前に課せられた使命であって、どうあがいても逃げられぬ神との約束だ。ルーカス・アディントンとは関係がない」
私は黙り込む。そして、ついつい荒ぶりかける気持ちを落ち着けようと、紅茶を一口飲んだ。
「お前はグール化しかけ、自我を失いかけた青年に襲われた時、自らを餌として差し出そうとしていた」
「だからあれは、パニックになってたから」
「お前はあの青年の為に命を投げ出す覚悟がある。そうではないのか?」
「ないわ……ってまさか、私の生命を彼にあげるってこと?」
冗談であって欲しいと願い、ミュラーの顔に視線を向ける。すると彼は静かにうなずいた。
「お前の魂はいずれ、水晶の中に閉じ込められる。しかし魂の器であるその体は、人と同じように朽ち果てていく」
ミュラーはそう言いながら、紅茶カップをテーブルの上に置く。
「魂の入れ物であるお前の体には、神より与えられたグールを浄化する魔力を含んでいる。つまりそれを彼が喰らえば、彼の中に溜まるグールとしての本能を浄化し、人の体と心を取り戻す可能性があるということだ」
「そんな都合の良い話あるの? そもそも、もしそうなっても、私が死んだ後、結局はグールのままじゃ意味ないんだけど」
「流石に前例がないからな。確実に人に戻るとはいえない」
ミュラーはそこで一度口をつぐんだ。
「けれど、お前がルーカス・アディントンを心から救いたい。そう願うのであれば、試す価値はあると思うが」
ミュラーの言いたい事はわかる。
(死体を有効活用しろってことでしょ?)
もしそれでルーカスがグールという呪縛から逃れられた場合、嬉しい気がする。けれど、それを共に喜ぶ事も、私のお陰なのよと、ルーカスに押し付けがましく言う事も出来ない。
(だって、私の魂は既に水晶で、私はこの世界を彷徨うだけの存在になってるわけだし)
それに、もし私が長生きした場合。ルーカスはその期間、今と同じ状況に耐える必要がある。それでは遅い気もしなくもない。
(でも、まだ死にたくないし)
何よりルーカスを含む、この国の人間に復讐しなければならない。
(でもなぁ……)
誰にでも平等に訪れる、死の瞬間。
それを誰かの為に有効活用出来るのであれば、この体を差し出してもいいかなとは思う。
「まだ死にたくない。だけど、今の話は覚えておく」
私はミュラーにそれだけ告げると、席を立った。
「茨の道を歩む者に、幸あれ」
「えっ?」
私は驚いてミュラーを振り返る。
「神がそう言っている」
ミュラーは厳しい口調で言うと、私をじっと見つめてくる。
「出来れば楽な道を進む方がいいんだけど」
私は苦笑すると、扉に手をかける。そして振り返らずに言った。
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