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第十二章 私の選ぶ幸せ(二十歳~)
117 不機嫌なルーカス
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ナターシャと仲良く女子会をしていた私は、呆気なくルーカスに捕獲された。
妖精たちがキラキラと、メルヘンシティの夜空を輝かせる中、私はルーカスに「逃すまい」といった感じ。きつく握られた手をグイグイと引っ張られ、石畳の上を早足で歩く羽目になっている。
「今日は、この街に泊まる」
「え、ルーカスも?」
「グリフォン交通はもう終わってるから」
「え、そうなの?もう?」
空を見上げると、確かに羽ばたくグリフォンは一頭も見当たらなかった。
「ルーカスはどうやってきたの?」
「俺は王子時代の伝手を頼り、特別ルートでここまできた」
「な、なるほど」
ツンツンした気配を全開に漂わせるルーカス。私としては、「ナターシャの家に泊まろうと思っている」と、当初の予定を告げたいところだ。しかしそんなことをしたら、さらに彼を怒らせてしまいそうなので言えない。
「と、ところでさ。マンドラゴラもないのに、何で私の居場所がわかったの?」
私はルーカスの手に植木鉢がない事を確認しつつ、たずねる。
「ナターシャ嬢がアップした、マジグラムの写真に君が映ってたから」
「え、うそ!?」
私は慌てて立ち止まる。そしてルーカスの手を乱暴に払い去ると、ポシェットからマジカルデバイスを取り出す。
私は慣れた手付きで、マジグラムのアプリを開く。そして即座にナターシャの投稿を確認し、該当の写真をすぐに発見した。
『R王国の女王そっくりさんと』
キラキラしているナターシャの隣。髪の毛がボサボザでキョトンとする私がバッチリ映っている。
(これは会って早々撮られた、こんやくはきぃーの写真)
私は恨めしい気持ちで、キラキラしいナターシャを睨みつける。魔法写真に付けられたコメントが「そっくりさん」という点は、ナターシャなりの配慮なのだろう。
(というか、そうであって欲しい)
そして私はいいねの数を確認し、二度驚く。
「ご、ごひゃくごじゅうに……」
「彼女は音楽関係の知り合いが多いみたいだし。でも、まぁ、そっくりさんだし」
先程までプリプリしていたルーカスが、ミジンコほどではあるが優しさを取り戻し、私を励ましてくれた。
(つまりそれほど、写真が酷いってことか……)
私は軽くめまいがした。同時に、心のどこかで「ナターシャは学生時代と変わらないな」と、嬉しくも思う自分がいて、それもまた悔しい。
「とにかく、俺は君に激怒している。だから、せいぜい大人しく付いてくるんだな」
まるで誘拐犯のような言葉を吐き出したルーカスに、またもや手を掴まれた。
「あ、はい……」
私はもはや逆らうまいと、素直にルーカスに従う。そして見知らぬ街の夜空の下を、ズンズンとルーカスに手を引かれ進むのであった。
***
不機嫌な雰囲気満載であるルーカスが、急遽予約したという宿屋。それはまるで絵本の中から飛び出したかのような、とても可愛らしい外観が特徴的な宿屋だった。
鮮やかな赤色の屋根に、見上げると窓には小さな花が飾られているのが確認できる。いくつかの部屋には、白い欄干のあるベランダがついていた。ベランダには小さなテーブルと椅子が置かれ、街を一望し景色を楽しめるような配慮がなされていた。
このような緊迫した状況でなければ、きっとウキウキすること必須の、とても素敵な宿屋だ。
「いくぞ」
呑気に宿屋を観察していた私は、ルーカスに睨まれたまま、宿屋の中に連れ込まれた。どうやら先にチエックインは済ませておいたようだ。
私はチェックインカウンターにいた男性に、意味ありげな微笑みを向けられたまま、その前を難なく通過する。そして二階へと続く階段を登り、部屋のドアの前でルーカスがピタリと足をとめる。
「逃げるなよ」
「はい」
悪者顔のルーカスに問われ、私は素直に従う意志を伝えつつ、念のため確認する。
「あ、あのう、因みに私の部屋は」
「申し訳ないが、ひと部屋しか空いてなかったんだよ。急だったし」
疲れた様子で、部屋のドアを開けるルーカス。
なんだか、少しだけ顔色が悪い気がする。
(無理させちゃったのかな……)
国の監視下にあるルーカスがローミュラー王国を出国するには、それなりの理由と、指定の手続きが必要なはずだ。
(モリアティーニ侯辺りに、頼み込んだんだろうけど)
ルーカスがどうして急に出掛けたいと言い出したのか。その件に関して、彼がどこまでモリアティーニ侯爵に説明したのか。実に気になるところだ。
流石に昨日の事は、ルーカスも上手く誤魔化したはずだ。というか、そうであって欲しい。
けれどその件を説明せず、急に私がいなくなった、もっともらしい理由を考えるのは、骨の折れる作業だったに違いない。ましてや説得させる相手は、あの、モリアティーニ侯爵だ。
(なんせ古狸侯爵様だから)
根掘り葉掘り、ルーカスから聞き出そうとしたに違いない。
(悪いことしちゃったかな)
私はルーカスの顔に浮かぶ疲労感を前に、彼に文句が言えなくなる。
「さっさと入りなよ」
「は、はい」
私は促されるまま、おずおずと室内に入るのであった。
妖精たちがキラキラと、メルヘンシティの夜空を輝かせる中、私はルーカスに「逃すまい」といった感じ。きつく握られた手をグイグイと引っ張られ、石畳の上を早足で歩く羽目になっている。
「今日は、この街に泊まる」
「え、ルーカスも?」
「グリフォン交通はもう終わってるから」
「え、そうなの?もう?」
空を見上げると、確かに羽ばたくグリフォンは一頭も見当たらなかった。
「ルーカスはどうやってきたの?」
「俺は王子時代の伝手を頼り、特別ルートでここまできた」
「な、なるほど」
ツンツンした気配を全開に漂わせるルーカス。私としては、「ナターシャの家に泊まろうと思っている」と、当初の予定を告げたいところだ。しかしそんなことをしたら、さらに彼を怒らせてしまいそうなので言えない。
「と、ところでさ。マンドラゴラもないのに、何で私の居場所がわかったの?」
私はルーカスの手に植木鉢がない事を確認しつつ、たずねる。
「ナターシャ嬢がアップした、マジグラムの写真に君が映ってたから」
「え、うそ!?」
私は慌てて立ち止まる。そしてルーカスの手を乱暴に払い去ると、ポシェットからマジカルデバイスを取り出す。
私は慣れた手付きで、マジグラムのアプリを開く。そして即座にナターシャの投稿を確認し、該当の写真をすぐに発見した。
『R王国の女王そっくりさんと』
キラキラしているナターシャの隣。髪の毛がボサボザでキョトンとする私がバッチリ映っている。
(これは会って早々撮られた、こんやくはきぃーの写真)
私は恨めしい気持ちで、キラキラしいナターシャを睨みつける。魔法写真に付けられたコメントが「そっくりさん」という点は、ナターシャなりの配慮なのだろう。
(というか、そうであって欲しい)
そして私はいいねの数を確認し、二度驚く。
「ご、ごひゃくごじゅうに……」
「彼女は音楽関係の知り合いが多いみたいだし。でも、まぁ、そっくりさんだし」
先程までプリプリしていたルーカスが、ミジンコほどではあるが優しさを取り戻し、私を励ましてくれた。
(つまりそれほど、写真が酷いってことか……)
私は軽くめまいがした。同時に、心のどこかで「ナターシャは学生時代と変わらないな」と、嬉しくも思う自分がいて、それもまた悔しい。
「とにかく、俺は君に激怒している。だから、せいぜい大人しく付いてくるんだな」
まるで誘拐犯のような言葉を吐き出したルーカスに、またもや手を掴まれた。
「あ、はい……」
私はもはや逆らうまいと、素直にルーカスに従う。そして見知らぬ街の夜空の下を、ズンズンとルーカスに手を引かれ進むのであった。
***
不機嫌な雰囲気満載であるルーカスが、急遽予約したという宿屋。それはまるで絵本の中から飛び出したかのような、とても可愛らしい外観が特徴的な宿屋だった。
鮮やかな赤色の屋根に、見上げると窓には小さな花が飾られているのが確認できる。いくつかの部屋には、白い欄干のあるベランダがついていた。ベランダには小さなテーブルと椅子が置かれ、街を一望し景色を楽しめるような配慮がなされていた。
このような緊迫した状況でなければ、きっとウキウキすること必須の、とても素敵な宿屋だ。
「いくぞ」
呑気に宿屋を観察していた私は、ルーカスに睨まれたまま、宿屋の中に連れ込まれた。どうやら先にチエックインは済ませておいたようだ。
私はチェックインカウンターにいた男性に、意味ありげな微笑みを向けられたまま、その前を難なく通過する。そして二階へと続く階段を登り、部屋のドアの前でルーカスがピタリと足をとめる。
「逃げるなよ」
「はい」
悪者顔のルーカスに問われ、私は素直に従う意志を伝えつつ、念のため確認する。
「あ、あのう、因みに私の部屋は」
「申し訳ないが、ひと部屋しか空いてなかったんだよ。急だったし」
疲れた様子で、部屋のドアを開けるルーカス。
なんだか、少しだけ顔色が悪い気がする。
(無理させちゃったのかな……)
国の監視下にあるルーカスがローミュラー王国を出国するには、それなりの理由と、指定の手続きが必要なはずだ。
(モリアティーニ侯辺りに、頼み込んだんだろうけど)
ルーカスがどうして急に出掛けたいと言い出したのか。その件に関して、彼がどこまでモリアティーニ侯爵に説明したのか。実に気になるところだ。
流石に昨日の事は、ルーカスも上手く誤魔化したはずだ。というか、そうであって欲しい。
けれどその件を説明せず、急に私がいなくなった、もっともらしい理由を考えるのは、骨の折れる作業だったに違いない。ましてや説得させる相手は、あの、モリアティーニ侯爵だ。
(なんせ古狸侯爵様だから)
根掘り葉掘り、ルーカスから聞き出そうとしたに違いない。
(悪いことしちゃったかな)
私はルーカスの顔に浮かぶ疲労感を前に、彼に文句が言えなくなる。
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