くすぐられて目覚めた夜

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執事が彼女をくすぐる理由

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「……なぜ、そんなふうに、私を……くすぐるの……?」

綾乃の声は揺れていた。
くすぐったさに翻弄されながらも、彼女は礼司の指に、心を捕らえられている自分に気づいてしまったのだ。

その問いに、礼司は一瞬、手を止めた。
そしてゆっくりと彼女の頬へ手を添え、柔らかく囁いた。

「それは、お嬢様を……壊さぬように、でも、深く深く癒したいからです」

くすぐり。それは滑稽な遊びでありながら、極めて原始的な愛撫の形。
笑いと悦び、羞恥と開放――あらゆる感情が混ざり合い、心の鎧をそっと溶かしてゆく。

「私は……お嬢様が、強く、正しくあろうとするたびに……
 本当は、誰よりも繊細で、愛されるべき存在なのだと感じておりました」

礼司の声には、静かな熱がこもっていた。

「くすぐりは、お嬢様の心に、無理なく入り込める唯一の鍵。
 快楽に身を委ね、思わず声を漏らす――そのときこそ、お嬢様がもっとも自由で、美しい」

綾乃の目が見開かれた。
その視線に、羞恥と、戸惑いと、そして……ほのかな幸福が宿る。

「私の指が、舌が、お嬢様の皮膚をなぞるたびに――
 私は、貴女という存在の奥深くに触れているのです。
 だから……この指先に、嘘はありません」

礼司はふたたび綾乃の身体へと触れた。
その指は、背中から腰のくびれへと沿い、そして再び、脇腹の柔らかな曲線へ。

「ひっ……んんっ、ふふっ……やぁ……っ、そこ、また……!」

その声に、微かな震えと、熱が混ざる。
それを聞くたびに、礼司の胸は締めつけられるように疼いた。

(もっと、お嬢様を知りたい。感じさせたい。
 くすぐったさの中にある悦びを、魂の奥で震える甘さを――)

指先に込められた情は、もはや「奉仕」などという言葉では言い表せない。
それは礼司自身の「祈り」に近い。
この愛しき人が、すべての枷を解き放ち、笑い、喘ぎ、心から満たされる姿を見届けたい――

「お嬢様……お願いです、私を拒まないで。
 私は、ただ……貴女を解き放ちたいのです。
 このくすぐりという愚かしくも甘やかな手段で、貴女の心を、すべて……」

「……礼司さん……」

綾乃は囁いた。震える唇の先に、涙ではない輝きが宿る。
その目に宿るのは、信頼。そして――心地よい、降参。

「私……お願い……もう少し、くすぐって……?」

礼司の胸が熱くなる。
それは、心を許されたという証。
そして――これからさらに深く、彼女を悦びの深淵へと導いていく許可。

「喜んで、お嬢様」

その声とともに、礼司の指がゆっくりと、再び動き出した。
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