くすぐり紳士クラブのお話

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くすぐり紳士クラブ 面談室にて ― 扉の向こうに ―

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「…ご案内いたします」

受付嬢に導かれたのは、深い緑色の絨毯が敷かれた小部屋。
温かみのある間接照明に照らされて、ゆるやかなカーブを描いた木の調度が柔らかに迎える。

静かに立っていたのは、黒のジャケットに淡いグレーのベストを着こなした紳士。
その佇まいは穏やかで、どこか懐かしい空気を纏っていた。

「ようこそ。お待ちしておりました」

彼はごく自然な一礼とともに、手で対面の椅子を示す。

「…こんにちは。緊張してしまっていて…すみません」

女性――沙耶(さや)は、視線を揺らしながらも座った。
ここに来るまで、何度も迷った。
けれど、**「くすぐったいのが好きかもしれない」**という感情を、自分でなかったことにして生きるのも、もう限界だった。

「緊張されて当然です。初めて本音を語る場所というのは、どなたにとっても、勇気のいることですから」

「…そんなふうに言ってもらえると思ってなかった。もっとこう…恥ずかしいとか、変わってるとか、言われるんじゃないかって」

「いいえ、沙耶さん。くすぐりは笑いであり、感覚であり、時に愛情表現でもあります。それに心惹かれるのは、けっして異常ではありません」

言葉はまっすぐで、どこまでも優しかった。
沙耶は、目を伏せながらも、ふと心がほどけていくのを感じていた。

「…私、小さい頃から、背中を撫でられるとくすぐったくて…でも、気持ちよくて…。でも途中から、笑っちゃうからやめられちゃって。ずっと、もっと続けてほしいって思ってたのに、言えなかったんです」

「その感覚は、とても大切です。恥ずかしさと快感の間にある、繊細な境界線――そこが“目覚め”の始まりですから」

「…目覚め…」

「ええ。くすぐりには、“触れる者と触れられる者のあいだに、唯一無二の信頼関係”が必要です。今日は、少し、その入口を一緒に歩いてみませんか」

「……はい。でも、怖いです。笑って逃げちゃうかもしれない」

「それでも、私は怒りませんよ。むしろ、“笑い逃げ”もまた愛おしい反応ですから」

沙耶は、つい吹き出した。

「ふふっ…そんなふうに言ってくれる人、初めてです」

「沙耶さん。右手を、こちらへ」

椅子の間に置かれた、ベルベットのクッションの上に、彼女はそっと手を置く。
紳士は、白い手袋を嵌めた手で、沙耶の手の甲に指を添える。
――ただ、それだけで。

「……んっ……」

思わず息が漏れる。
ごくわずかな圧で、指が甲から手首、そして手のひらへとゆっくり撫でられていく。

「このように、くすぐりとは“感触の会話”です。私の問いに、沙耶さんの肌が答えてくれている。…くすぐったさは、無理に耐えるものではなく、“分かち合うもの”なのです」

「…わたし、今……笑いたいけど、笑うのもったいないって、思ってるかも」

「それは、感受性の美しさです。“もっと味わいたい”と思うことこそ、本当の快楽の入り口。――では、少し、手首の内側を…」

「くすぐっ……あっ、そこ……ふふっ、だめぇ……!」

言葉と笑い声が混ざる。
だが、その笑いは「拒否」ではなく、「甘え」に近い。

「……大丈夫ですよ。ちゃんと、感じていてくださっている。……ほら、沙耶さんの笑いが、空気をやわらかく変えていきますね」

「…くすぐりって、こんなに優しいものだったんですね……」

「はい。お望みなら、またいつでもこの部屋へいらしてください。
沙耶さんの“感じやすさ”は、まさに宝物なのですから」
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