執事と貴婦人に、くすぐられて悦ぶ彼女

文字の大きさ
3 / 35

今宵、くすぐりの館へ

しおりを挟む
月の光が静かに差し込む、夜の居室。
蒸した空気に肌がしっとりと潤む中、綾乃は窓辺に立っていた。
そこへ、カーテンの隙間からすっと差し込まれた一枚の封筒――深紅の蝋で封印されたそれは、見覚えのない紋章を宿していた。

「これは……?」

そっと開けると、柔らかな香がふわりと立ち昇る。薔薇と白檀の混ざった、どこか妖しく懐かしい香り。
中には、艶やかな曲線を描く金文字の一文だけが記されていた。

“選ばれし者へ。
あなたの身体に宿る快の扉を、我らが紳士淑女が開きましょう。
今宵、くすぐりの館へ。”

その言葉に、綾乃の心は淡く震えた。
くすぐり――それは、あの夜の快感。執事の指先に笑いと陶酔を引き出され、理性が溶けていった夜。
もう一度あの感覚に身を委ねてみたい。だがそれは、彼を裏切ることなのだろうか……。

逡巡のなか、綾乃の指先は自然と招待状の裏にある地図をなぞっていた。
そこには、「森の奥、満月の下に現れる扉」とだけ記されている。

まるで夢の中に誘われるように、彼女は薄手のワンピースに身を包み、館の外へと歩き出した――。

***

しばらくすると、霧が濃く立ち込める森の奥に、古びた鉄門が見えてきた。
その向こうには、どこか現実離れした、白亜の洋館が佇んでいた。
扉の前に立つと、無音でそれが開く。迎え入れる者の姿はなく、ただ静寂が満ちていた。

「ようこそ、綾乃様。お待ちしておりました。」

背後から声が響いた。振り向くと、そこには漆黒の燕尾服を纏った男が立っていた。
歳は三十代半ばほど。浅黒い肌に琥珀色の瞳。何より印象的なのは――その指先だった。
長くしなやかで、まるで演奏家のように神経が通った指。
動かさずとも、触れられただけで肌が跳ねそうな、“何か”が宿っていた。

「私は“指先の魔術師”と呼ばれております。今宵は、貴女の“無意識の扉”を、そっと開かせていただきます。」

綾乃が何かを言う間もなく、彼の指先が彼女の頬に触れた。
わずかに爪の腹で、耳のすぐ下をなぞるような動き――

「ふ、ぅん……!」

反射的に息が漏れる。脳が反応し、身体が敏感に跳ねる。
たったそれだけで、全身に電流のような感覚が走った。

「やはり、貴女の皮膚は特別です。くすぐりが、“笑い”ではなく、“悦び”に変換される、稀有な性質をお持ちだ。」

彼に導かれるまま、綾乃は館の一室へと連れられていった。
そこはまるで、絹とレースに包まれた女神の寝室。
中央に置かれた柔らかな椅子へ腰を下ろすと、魔術師は後ろに回り込み、綾乃の髪をゆっくりとかき上げた。

「では――始めましょう。」

指が、うなじから肩甲骨へ。背中を這い、腕の内側をそっと撫でていく。
何本もの羽根が一斉に動くような感覚。
それが、腕、脇、わき腹へと移っていく頃には、綾乃の呼吸は浅く、笑いとも喘ぎともつかない声を漏らしていた。

「あ……ふふっ……ん、ダメ、それ……く、くすぐった……いのに、気持ち……いい……」

「“笑ってしまうほど気持ちがいい”――それが、くすぐりの真髄です。」

彼の言葉と指先が同時に綾乃を翻弄していく。
くすぐったさが波のように押し寄せ、笑いながら涙が浮かび、それが快感と重なっていく――

どれほどの時が過ぎたのか。
魔術師はやがてそっと手を離し、綾乃の耳元で囁いた。

「貴女の中の“悦び”は、まだほんの一片に過ぎません。
次に貴女を迎えるのは――“同じ女性としての悦び”を知る者。」

扉が再び静かに開き、奥へ続く長い回廊が姿を現した。

そこには――
艶やかなドレスに身を包み、長い手袋を指先まで纏った、一人の貴婦人が佇んでいた。

優雅に微笑みながら、彼女は言う。

「ようこそ、綾乃様。女が女を愛でるとき、笑いは甘く、淫らになるのですよ――」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...