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とろける静寂 ― 深奥へ
しおりを挟む「さぁ、ラストの旋律へ――」
池尾と佐伯は視線を交わし、静かにうなずく。
セラピーの“クライマックス”は、最も深く、最も愛情深い領域に触れる時間。
彩華の意識が、ただ“くすぐったい”という言葉すら忘れてしまうほどに、
心も体も、笑いの快楽にほどけていく一瞬。
彩華の身体は、白くやわらかなリネンの上に仰向けに整えられている。
その肌には、うっすらとした汗が光の粒のように滲み、まるで陶器のように美しい。
池尾は、両手の指先を彩華の脇腹にそっと添えた。
佐伯は、足元から膝裏、そして太ももの内側へと指先を滑らせてゆく。
「ふたり同時に……っああっ、や、やだ、だめ…っ、あははっ、ふはぁぁっ、ふふっ!!」
笑い声はすでに歌声のようで、もはや「我慢」や「理性」といった言葉から遥かに遠い。
池尾の指は、脇腹からおへそへ、さらに肋骨のあたりへと跳ねるように移動する。
その動きはまるで小さな蝶が舞っているかのように軽やかで、
一瞬ごとに場所を変えることで、彩華の身体は次のくすぐりを予測できず、
歓喜の連打にひたすら身を任せるしかなかった。
「もぅっ……だめ、や、やだって言ってるのに……っ、んんんっふふっふぁぁっ!」
「だめでも…感じてくれてる。あなたの身体が、そう教えてくれています」
佐伯は、太ももの内側から膝裏を通り、足首、そしてつま先へとゆっくりなぞる。
指の腹が、足指のあいだを一本ずつ丁寧に撫でてゆくたび、
彩華の喉からは堪えきれない笑い声がこぼれる。
「足も、こんなに反応して……ふふ、彩華さんは、本当に素直」
「もう、ぜんぶ……全部、わたし……わたし……笑いでとろけちゃうっ……!!」
そして次の瞬間――
池尾と佐伯の指が、完全にシンクロして、彩華の脇腹と太ももを同時に優しく、
けれど高速で弾くようにくすぐった。
「ひゃあああっ!!! だめぇっ、やめてっ、も、もぉっ……♡♡♡」
身体が跳ねて、くずれおちる。
呼吸は浅く、笑いの波に翻弄されながらも、
その瞳には、涙すら浮かび、頬はほんのりと紅く染まっている。
だがその笑みは、確かに――幸福の極み。
彩華の心は、今、すべての重荷から解き放たれていた。
くすぐりは、決して「責め」ではない。
それは、“内側の愛しさ”を引き出し、
“笑い”という優しいかたちで、心を洗う愛の行為。
最後のひと撫で。
ふたりは指先をそっと離し、
彩華の額に、そっとタオルを当てる。
「お疲れ様でした、彩華さん」
「すべて、受け取ってくださいましたね……その笑顔、とても素敵でした」
彩華は微笑んだまま、胸の鼓動を感じていた。
自分の笑いが、こんなにも美しい音楽になり得るとは。
そして、自分がここまで愛され、慈しまれることを、
かつて想像したことがあっただろうか――
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