くすぐりセラピー

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夢幻のくすぐり浴:第二楽章 ― 深層

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茜色の光が空間を満たす。
すべての輪郭がやわらかくなり、視界はぼやけ、空気そのものがくすぐったいような気さえする。

彩華は、まるで繭の中に包まれているようだった。
肩も胸も脚も、ほんのり温かく、緩やかに横たわる身体の下には、絹より滑らかなベッド。
その下からさえ、柔らかな“何か”がくすぐりを誘うように、ほんの微かな振動を伝えてくる。

そして――指先が忍び寄る。
佐伯の指が、彩華の左足指のあいだを、ふっとくすぐるように這った。
同時に池尾の指が、右足の土踏まずをゆっくり円を描いて撫でていた。

「ふふっ……あっ、く、くすぐったい……」
笑いは、無意識の底から湧きあがる。
抵抗も防御も、もう考えられない。ただ心を開いている。

「彩華さんの足先、とても繊細ですね。どんな感覚も、逃さない」
佐伯が囁きながら、足指のつけ根を指先でそっと揉むように触れた。
そのやわらかな刺激に、足の裏がピクリと跳ねる。

池尾は、ふくらはぎから膝裏、そして太ももの内側へと、くすぐりをゆっくり上昇させていく。
薄いシルクのセラピーウェア越しに、指の流れがぴたりと伝わり、彩華は小さく身をよじる。

「んふふ……や、そこ、だめ、くすぐったいの……っ」

けれど、誰も止めない。止める理由がない。
ここは“ほどける”ための場所。
感覚が限界を超えて、甘い揺らぎの中へと飲み込まれるための空間。

佐伯の指が彩華の脇腹を、羽のように優しくなでる。
池尾は今、彩華のうなじから首筋へと、爪の先をふわりと滑らせていた。

「ふわっ……あ、くすぐった……くふっ、ふふっ……もう……」

心が、ふわふわと浮いていく。
時間も場所も、笑い声とくすぐったさの波に洗われて、消えていく。

池尾は彩華の手首をそっと握り、指の腹で手のひらをなぞった。
佐伯は背中へとまわり、肩甲骨の隙間を、微細な動きでくすぐっていく。

いまがいつか、ここがどこかさえ、もうわからない。
身体全体が、くすぐったい“響き”に包まれている。

「彩華さん……すべてを手放して、ただ、この瞬間にいてください」
佐伯の声は、水中から聞こえるように遠く、でも優しい。

「笑いも、震えも、涙も、ぜんぶ大切な、あなた自身です」
池尾の手が、胸の中央に触れる。そこから放射状に、指が滑るように広がっていく。

笑いが止まらない。
けれど、それは騒がしさではなく――心がほどけ、涙に似た静かな浄化だった。
「くふっ……ふふふ……うぅん……もう、わたし……わたし、なにも……」

感情も、記憶も、身体の境界さえも、
すべて、くすぐったさのなかに溶けていった。
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