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仮面のくすぐりセラピー:第一幕 ― 沈黙の素顔
しおりを挟む静かな部屋。
そこはまるで、夢と現の境界。
彩華は、鏡のない部屋で、ひとつの“白い仮面”を手渡される。
「この仮面を着けていただきます」
セラピストの声は、優しい。けれどどこか、“感情”の輪郭が薄れている。
仮面を着けると、名前も、立場も、過去も消えていく。
ただ、いまここにいる“誰か”になる。
そこには羞恥も期待もない。ただ、受け取るための、準備。
ふたりのセラピスト――仮面をつけた者の前に現れたのは、
黒衣をまとい、顔を見せぬふたりの影。
佐伯は、後ろからそっと肩に手を置き、首筋へ、吐息のような指先を滑らせる。
池尾は前に膝をつき、彩華の足の甲を両手で包み、親指でゆっくりと、足の指のつけ根をくすぐる。
仮面の下で、息がこぼれる。
「……っ……ふ、ふふっ……」
声を漏らしても、顔を知られていない。
だからこそ、心の奥がほどける。
「名前のないあなたを、私たちはただ、愛でるようにくすぐります」
「反応だけが、真実なのです」
やわらかな羽根が、彩華の内ももを撫でる。
手袋をした指が、脇腹に沿って何度も円を描く。
口元に笑いが浮かぶたびに、仮面の内側がかすかに湿る。
「ふふふっ、あっ……だ、だめぇ、そんな……っ」
誰にも顔を見られていないから、心の奥があらわになる。
声が、笑いが、身悶えが――むしろ本物になる。
仮面があるから、解放される。
池尾は彩華の両足を軽く開かせ、膝裏を指の腹で丁寧にくすぐる。
佐伯は首筋から肩甲骨のあたりまでを、指で転がすようにくすぐっていく。
彩華の身体が、声にならない震えをくゆらせる。
「くふっ……ふふふ……や、もう……止まらな……っ」
それでも、セラピストたちは止めない。
なぜならこのセッションでは、“どれほど笑っても、誰にも知られない”から。
仮面の奥で、彩華は笑い、くすぐられ、翻弄される。
まるで別人になったかのように。
いや、むしろ――最も素直な、本当の彩華が、そこにいる。
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